第11回あいち経営フォーラム(10月7日)
進化し続ける中小企業へ

悪天候をはねのけ1108名が学びあう

変化に適応する

10月7日、今年で11回目となる「あいち経営フォーラム」が開催されました。超大型の台風18号が中部地方に接近する悪天候の中、会場の名古屋国際会議場には、1108名の仲間が集まり、真剣に学び合いました。

今年のフォーラムのテーマは「進化」。環境の変化に適応して進化した生物だけが生き残ってこられたように、激変する経営環境の中を生き残るためには、私達中小企業家も進化し続けなければならない、という思いを込めました。

価値を創造する

基調講演では、三重同友会会員で農事組合法人モクモク手づくりファーム専務理事の吉田修氏が「経営の本質は価値の創造」のテーマで自らの経営体験を報告。地域に隠れた小さなニーズに1つ1つ正面から向き合うことで企業が発展してきた過程を、力強く語りました。

偽装や安全問題に揺れる食品業界は、今の世界的な不況に先駆けて厳しい環境下におかれてきました。その中で、今も日々進化し続けるモクモクファームの取り組みの報告は、とても説得力があり、励まされ勇気づけられる内容でした。

経営課題を交流

続いて、分科会が開催されました。経営課題別に設営された13の分科会は、大きく「基本」「元気」「進化」の3つの分野に分けられ、愛知会員5名、他県同友会会員4名、研究者3名、会外経営者2名が、各分科会で問題提起や助言を行い、その後のグループ討論で各自の経営課題を交流し合いました。

半日学んだ後は、交流会です。今年は会員企業から立候補を募り、分科会の報告者にも協力をお願いして、フォーラムでは初めて、持ち込みによる手づくりの交流会を設営しました。基調講演をお願いしたモクモクファームのハムやソーセージを始め、ずらりと並んだ会員企業自慢のメニューに、参加者はとても満足した様子でした。

 

第11回あいち経営フォーラム速報

(写真)吉田修氏

【基調講演】経営の本質は価値の創造 〜消費者に守られ感動を共有する経営を求めて〜

吉田 修氏 農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム(三重同友会会員)

 

今、農業には各方面から光があたっているように見えますが、実態は衰退産業です。モクモクは「脱・既成農業」を掲げ、ユニークな手法と情熱で奮闘しています。

その1つは、食と農を結び付けるための教育です。牛乳1つをとっても、「乳牛は一生、お乳を出す」「茶色の牛はコーヒー牛乳を出す」「牛乳は最初から冷たい」など、今の子供たちは(あるいは大人も)、食と農とがつながっていません。これでは、農業の価値が理解されません。

もう1つは、農業をビジネスとして成功させること。それは、自ら価格を決められることであり、自ら情報を発信できることであり、そこに夢と誇りを持つことです。

そのためにモクモクが取り組んできたこととは、

  1. 自立の精神でスタッフを育てること。
  2. 経営者の責任は、ありとあらゆる情報を集めて「時代の風を読む」こと。
  3. 常に挑戦する意識。消費者はモクモクが挑戦していることを応援してくれる。
  4. 消費者と生産者との対等な関係づくり。困った時には助けてくれるような消費者を組織することでした。

年間50万人が訪れるモクモクの成功の裏に、このような情熱と取り組みの積み重ねがあることを知りました。

【第1分科会】魅力ある会社は「共育ち」から 〜社員同士が教えあい育てあう社風づくり〜

北川 誠治氏 (株)キタガワ工芸(春日井地区)

 

はっきりとした口調で会社説明が始まり、北川氏の人柄がバスの空気を変えていくように見学分科会がスタートしました。途中の予期せぬ渋滞で、社員と連絡を取り、予定を調整する様子から会社訪問への期待がさらにふくらみます。

到着後、この日のために準備されたインカムが配られ、社員が付き添う形で会社見学が始まりました。説明では、この春入社の新卒社員もいましたが、落ち着いて応対する様子はまさに「お見事」です。キタガワ工芸では入社前からコミュニケーションをはかる様々な仕組みがあり、社員間のネットワークも強いのです。「心の成長」を促すものが、社長のイメージ通りに機能しています。

優秀な人材が定着するこのシステム戦略と社長の人柄が社員のモチベーションを上げています。社員が胸を張って仕事をする姿は、社長からの信頼を得ている実感から表れているように思えます。

(株)ライアス 白井美佐子(北地区)

【第2分科会】経営指針で存在価値のある会社に 〜ゆるぎない経営姿勢を確立する〜

神谷 文崇氏 メーナントーヨー住器(株)(三河第1青同)

 

神谷氏は、将来に対する不安と社員が定着しないことから経営指針講座に参加し、指針を作成。最初は社員の反応も小さいものでしたが、5年後のビジョンを社員と共に考えたり、社外の人も呼んだ経営指針発表会でみんなで作った指針が評価を受けるようになると、社員にも自信が生まれてきました。社員を指針づくりに巻き込むことで、質の高い経営指針ができたと感じています。

グループ討論では、「仕事で大切にしていること」を考えることで、その場で実際に経営理念をつくり、改めて「何のために働いているか」を考えることができました。

まとめでは「経営指針は小さい会社こそ必要です。経営指針のない方は経営指針講座に参加し、指針のある方は指針講座のスタッフに参加してください。もっと勉強するようになり、指針にも磨きがかかります。」のまとめで締め括りました。

(株)合同化成工業 新美徳基(知多北部地区)

【第3分科会】信頼関係は社内のコミュニケーションから 〜今だからこそ問われる労使見解〜

加藤 明彦氏 エイベックス(株)(天白地区)

 

第3分科会は、トヨタショックのような異常時の経営の舵取り、社員とのコミュニケーションをどのようにとっているか、実体験に基づいた報告でした。

私は昨年に続き労使見解をテーマにした分科会へ参加しました。前回は指針も就業規則もない状態で参加し、グループ討論では暗に「指針や規則がなくて、労使見解が語れるの」と言われているようでした。

そこで、就業規則、経営指針を作成し、経営指針発表会も開催しました。指針や規則を作成したから経営がうまくいくものでもなく、今度は「浸透させるには」という自分なりのテーマを持っての参加でした。

学びは、(1)話す(経営指針に基づいた内容を社員に語る)、(2)聞く(経営指針の内容が伝わっているか、社員の口から聞く=確認)、(3)書く(社長の言葉にブレがないか、自分で書きとめる)とポイントを頂いた事です。

(株)オアシス 大竹裕治(岡崎地区)

【第4分科会】地域の中に発展の種がある 〜今こそ足元を見つめ地域の隠れたニーズを引き出そう〜

吉田 修氏 農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム(三重同友会)

 

第4分科会は、吉田専務による報告が行われました。基調講演の補足報告と、この分科会のテーマである「地域」という視点も加え、大変有益な示唆に富んだ報告となりました。

地域との関わりがテーマでしたが、吉田専務は「正直なところ地域との関係はそれほど考えていなかった」。「消費者の方々に、農業の実態が見える形でサービスや商品を提供することにより喜んでいただける活動をした結果、地域との結び付きもできた」とのことでした。特に、本物のサービスとは作り手の苦労や愛情が詰まったものという言葉が印象的でした。

分科会では、モクモクファームの大ファンという方々からの質問にも1つ1つ丁寧に回答いただき、終始なごやかな雰囲気に溢れていました。

野々部技術士事務所 野々部顕治(知多地区)

【第6分科会】何のために働くのか 〜創業200年の老舗が守り伝える本物へのこだわり〜

河野 和義氏 (株)八木澤商店(岩手同友会)

 

八木澤商店は、安売り競争ではなく、ナンバーワンよりオンリーワンで、「地元、本物、やさしい」を大切にしてきました。200年続いてきた秘訣は背伸びをしないことです。どういう気持ちで仕事しているのか、考える場を提供することが大事です。仕事への想いや生きがいとして、独自で地元学を調査し、食育運動や伝統太鼓のイベントも開催されています。

こだわりは、「あたりまえ」です。食べ物には、すべて命があります。「醤油は日本文化の代表であり、自社は言うなれば、株式会社陸前高田(地元)です」。このような想いを報告して頂きました。

討論では、仕事のやりがい・生きがいを感じるとき、その共有について、職に対する「こだわり」について自分自身と照らし合わせながら深く掘り下げたことで、良い討論になったと思います。

(株)ケイテックサービス 長谷部徹(中区南地区)

【第7分科会】「逃げない、止めない、諦めない」 〜本業を柱に顧客のニーズに対応する〜

北村 卓也氏 (株)やまざき(京都同友会)

 

北村氏は婚礼貸衣裳専門製造卸とスタジオ・結婚式場チャペルの2社を経営されています。ニーズの変化に対応し、進化し続ける報告をいただきました。

ニーズとターゲットは絞り込みが大切です。コンサルに頼るのではなく「現場・現物・現実」を熟知している人に相談し、ニーズの変化に対応するために学び、実践されてきました。

ニーズは何か。ターゲットはどこか。勝てる土俵はどこかを絞り込むことでニーズの変化に対応する会社になります。つまりニーズとは作り上げ、絞り込むことなのです。

例えば、チャペルは完成形を作らず、リニューアルを繰り返して集客を狙い、そこでニーズやターゲットの絞り込み、会社を進化させます。

最後に、「経営と社員を守ること、人生から逃げない・止めない・諦めない」という強い想いで締めくくられました。

(有)大功印刷工業 大原浩幸(昭和地区)

【第8分科会】二度の危機に学んだ設計力強化と業種分散 〜「トヨタショック」の中でも業績は前年を上回る〜

鳥越 豊氏 (株)鳥越樹脂工業(一宮地区)

 

ものづくりの魅力に感動し、「挑む」を理念に創業し、その後「意努夢(いどむ)」と改め、設計、デザインを生かしたものづくりで、業績は前年を上回っています。

そこには危機を乗り越えて培われた強みがあります。

第1次の危機では、1社依存で主導権がなかったことを反省し、売上9割減の中で3次元CADを導入し、設計者の育成に取り組み、現在最大の強みである設計力強化を図っています。

第2次の危機の後では、自立型企業をめざし、試作、設計力、他業種展開の3本の柱を打ち立て、全社員に方向性を伝える努力をしていて、経営者には、「先を読む力、人間的魅力、決めたことをやりぬく力」などの努力も語られました。

今後、お客様の役に立つ、戦略・行動計画が必要だと結ばれました。

グループ討論では、自社の強み弱み、明日からできることをテーマに熱く語られました。

アプリオリ(有) 冨田高子(豊川・蒲郡地区)

【第9分科会】診断、発見、実践、そして変革へ 〜企業変革支援プログラムを進化の道標に〜

八嶋 祐太郎氏 八嶋合名会社(富山同友会)

 

「企業変革支援プログラム」を会社経営の道標にすることをテーマに、会社経営の基本姿勢を交流しました。

報告では、(1)プログラムは「診断、気づき」であり、課題の抽出であること。(2)経営指針を社員全員が所持し、いつでも確認できる仕組みを作っていること。(3)プログラムを社員との有効なコミュニケーションツールとして活用している事例が語られました。

八嶋氏は診断結果をもとに、社員との面談で認識のずれを確認し、会社のあるべき姿を語り合うことに努力しています。「社員は必ず変わる」と信じ、変わるまで働きかけ続けるという経営者としての強い意志を学びました。

グループ討論では、参加者各自の診断結果と課題を持ち寄り、本当の課題は何なのか討論しました。まずは、気づき実践することが大切であると感じました。

八橋社会保険労務士事務所 八橋 昭郎(江南・岩倉地区)

【第10分科会】社長の役割「不易流行」 〜荒波にのみ込まれない新しい羅針盤をここで見つけよう〜

伊藤 正久氏 中部魚錠(株)(会外)

 

企業紹介VTR上映からスタートし、伊藤氏から、テーマである「社長の役割」は『強い意思決定』であり、「不易流行」とは『自らの意思で変えるものと変えないものを決めること』だと報告されました。

また「自らが勝てる土俵を創造する」、「事業には賞味期限がある」、「止まっていることは衰退していく事」など、元気が出るキーワードが出され、「これだ」と思えるものを大切にし、時代や環境に対応し変化していく必要性を語っていただきました。

グループ討論では今後の取り組みについて活発な意見交換がされました。最後に各々が1年以内に実行することと、そのために明日から行うことを「決意表明書」に記入しました。これらは数カ月後に各社に郵送され、分科会で得た前向きな思いを、再度振り返っていただくという仕組みになっています。「進化」という言葉通りの分科会でした。

犬飼突板(株) 犬飼英清(知多北部地区)

【第11分科会】激動の経営環境を味方に 〜経営環境変化への対応〜

真田 幸光氏 愛知淑徳大学 ビジネス学部教授(会外)

 

「激動の経営環境を味方に」というテーマで愛知淑徳大学教授の真田先生からご報告をいただきました。

冒頭、経営環境調査委員長の藤田氏より8月調査結果が報告され、会員企業の景況感と今後の見通しを掴みました。真田氏は、同友会会員の規模では公的機関の調査対象にならない場合があるが、独自の調査で定性評価と定量評価を含む調査が行われていることには意義があると評価しました。

その後、「過度の信用創造によって作られたバブル経済が、信用失墜により崩壊し、急激な信用収縮状態になっている」とし、現在の不景気といわれるメカニズムと、今後の懸念について学びました。

また、日本企業のとるべき戦略について、これからは「仙(専)人国家」としてものづくり奴隷国ではなく、ものづくり大国であること、そのために、マニュアル化できない技術で他国と差別化していくことが大事であると指摘されました。

安藤不動産 安藤寿(尾張西青同)

【第12分科会】仕事は自分で創れ 〜付加価値のあるものに挑戦し、市場を創造しよう〜

セーラ・マリ・カミングス氏 (株)桝一市村酒造場(会外)

 

アメリカ人でありながら日本酒の世界に飛び込み、廃れかけていた伝統ある木桶による酒造りを復活させ、新市場を創造したセーラ氏。その原動力は例え転んでも前に転んだのなら前進だと言う前向きな精神にありました。今日あるほとんどの活動が社内で反対され、たった1人で業務外活動として始めたセーラ氏は、新しいことを始めるには流れを作り、それを貫き流れを止めないことが大切だと言います。

一見関係のない小さな行動がやがて新たな市場へとつながるということに気付き、方法論ではなく、発想を行動に移すことから始まるという忘れかけていたことを思い出しました。

先入観に捉われず、まず行動し、こだわりを持つこと。そして熱意が人を動かすことに焦点を当てた討論が行われました。視点を変え、足元から見直してみようと、多くの参加者が明るい表情で終了を迎えました。

(株)鍬田通信設備 鍬田直美(緑地区)

【第13分科会】グリーン・ニューディールの主役は誰? 環境経営で地域に輝く中小企業〜環境配慮から環境起業へ〜

竹内 恒夫氏 名古屋大学大学院 環境学研究科 環境政策論教授(会外)

 

持続可能な社会へ世界全体が大きく舵を切っている中、13分科会では、「地球環境問題」を学び深めました。

竹内教授は、CO2排出量を1990年比80パーセントへ削減させる名古屋市のロードマップを策定中です。新たな技術や人々の取り組みによって削減を可能とする具体事例が提案されました。

エコカーやエコ家電など大企業の取り組みには限界があり、中小企業や市民がネットワークを築き、地域でのエネルギー循環システムをつくることが不可欠です。

そこで圧倒的多数である私たち中小企業が主役となり、環境活動を本業の中に位置づけて取り組まなければ、地球温暖化に歯止めをかけることはできません。

環境経営は、環境に配慮することから始まります。そしてコスト削減と環境ビジネス(自立型地域経済・雇用創出)という側面も持っています。できることから自社や地域での取り組みを、やれることから実行していこうと決意しました。

(株)共栄産業 手縄実(名古屋第4青同)