【基調講演】あいち経営フォーラム
経営の本質は、価値の創造
〜消費者に守られ、感動を共有する経営を求めて
吉田 修氏
農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム 専務理事(三重同友会会員)

応援したくなる企業に
安さは本当に良いことか
先日「女工エレジー」という映画を見ました。これは、日本やアメリカといった先進国のためにジーンズを作っている女工たちを描いた中国のドキュメンタリー映画です。この映画を見て、その実態を知り、私は本当に驚きました。
まず少女たちの平均年齢が15歳、時給がなんと7円です。その時給7円で15歳の少女たちが1日18時間労働した結果、自分たちが履いていたり知っている、あの安いジーンズが作られているのです。このことを知って「安いからいいというわけではない」ということを強く感じました。
今の社会では、安いものを作ることが無条件に良いと思われています。しかし、この少女たちのような低賃金で長時間働かされるという犠牲が払われている結果、安いものが作られる今の経済は、本当は間違っているのではないかと思います。
金額と価値は違う
そう思っている時にちょうど、1月12日の日本経済新聞に、映画「おくりびと」の脚本家の小山薫堂氏の「安さだけで買うな」という記事が掲載されました。そこにはこのように書かれていました。
お金は欲しいものを手に入れるだけでなく、応援したい企業や商店、作り手に拍手を送るために使うものです。マヨネーズがスーパーで180円で売られていても、商店街のおばあちゃんの店で200円で買うこともある。マヨネーズを使った料理を教えてもらったり、笑顔が素敵だったり、おばあちゃんの店で買うと幸せな気持ちなるといった付加価値があればいいのです。
企業と消費者は助け合うものです。異常に安い商品があれば、消費者にはなぜ安いのかを考える責任があります。安さの理由を考えて、気が引けるなら、買うのをやめた方がいいでしょう。生産者に圧力をかけて安く仕入れているのではないか、不当に儲けている人がいないか。払うお金の行き先まで目配りしたいものです。
そうした消費者倫理を義務教育で教えるべきではないでしょうか。消費者を育てる教育をすれば、それが経営のあり方を変え、社会が少しずつ変わっていくはずです。
私が言いたいことは何かというと、消費者にとって、あるいは使う側にとって、果たして自分たちの企業が「応援したい企業かどうか」ということが、企業を経営するうえで、非常に重要な時代になってきたのではないかということです。

社会的役割を果たして
金儲けが目的ではない
企業を継続する手段として、金儲けは確かに必要です。しかし、企業自身の目的は金儲けではありません。これは個人にとってもそうだと思います。今年も13名ほど新人を採用したのですが、「組織も個人も、金儲けをするために生まれたのではない」ということを必ず伝えます。そのために私は、6年前に水俣の役場の職員の方から聞いたこのような話をします。
水俣病が発生し、漁民たちが、「もう魚が売れないのではないか」と大騒ぎしていた時のことです。役場とチッソが一緒になって、漁民の魚を買っていたことがありました。
まずチッソは、魚を捨てるための2つの大きな穴を掘りました。漁民たちは朝早く魚を獲って、チッソの本社に持っていきます。それをチッソは「キロいくら」で買い取ります。漁民たちはものすごく喜びましたが、目の前でその魚は穴の中に捨てられていきます。1カ月が過ぎ、2カ月が過ぎるなかで、漁民たちは「これはどういうことなんだろう」と考え始めました。確かにお金にはなります。しかし、自分たちが獲った魚は穴に捨てられていきます。一生懸命漁に出て、獲った魚が金にはなるけれども捨てられていく。このことを通じて、魚を獲ってお金に換えることが仕事ではなく、消費者の喜びがあって初めて仕事が成り立つのではないかと気づいたそうです。
このように、仕事はお金儲けとは違います。社会的な役割を果たすことで、初めて仕事になるのです。
作り手こそ主役
モクモクは、ほとんどパートの社員でスタートしました。設立当時、モノは全然売れず、人も全く来ませんでした。ちょうどその頃、本当に色々な誘惑がありました。例えば、一流ホテルからは、そのホテルのブランドでモクモクの商品を扱いたいという申し出がありました。また、ある時は大手スーパーからPB商品の話がありました。
その頃社員は、会社の周りの草むしりくらいしかすることがなく、本当に迷いました。しかし、悩んだ結果断りました。それは、作り手が商品にかける思いこそが基本にあるべきで、販売する側が主役(ブランド)になるのはおかしいのではないか、と考えたためです。私が言いたいのは、作り手こそが主役とならなければならないのではないか、ということです。

お客さまと対等な関係
モクモクの施設内に自動販売機は1つもありません。そのため、この夏もまた自動販売機を置いてほしいという要望が殺到しました。なぜモクモクが自動販売機を置かないかというと、自動販売機の商品は僕たちのつくったものではないからです。
モクモクでは、焼き菓子、パン、スイーツ、和菓子など、すべて自分たちで作ります。モクモクの商品で、仕入れ商品はゼロです。自分たちで作った物を基本にしています。
よく言われるように、「お客さまは神様」では決してないと思います。お客さまほどわがままな人はいません。だから、モクモクでは「いらっしゃいませ」は一切言いません。そのかわり「こんにちは」と言います。モノを作っている者と、それに対してお金を出すお客さまは平等でなければならない、と私は思います。だから、お金を出す方がいつも正しくて、いつも良いということではないと思います。そういったお客様との対等な関係をどう築きあげるかということが、モクモクのスタッフの課題となっています。
戦略的な施設づくり
全国にモクモクのような農業公園は、300近くあります。そのうちうまくいっているのは約1割。残り270カ所はほとんど赤字です。
なぜ、こういった農業公園が赤字なのかというと、1人当たりの客単価が非常に低いのです。今まででしたら800円から1000円位です。私たちは、そこに目を向けて、1人当たりの客単価をどう上げるかに必死になって取り組みました。
つまり1人あたり3000円使って頂ける施設を作ろうと考えました。具体的には、滞在時間を長くしようとしたわけです。おおよそ今の消費者は、一時間あたり1000円使うといわれています。このことから、私たちは3時間滞在できるような施設づくりを進めてきました。結果的に、50万人の来場で、売上は18億円、客単価は子どもを含めて3800円となりました。

「金の臭い」を消すこと
ポイントは「金の臭いをいかに消すか」ということにあります。モクモクに来る消費者は、金の臭いがしないことを期待して来るわけです。なぜかというと、世間はどこもかしこも金の臭いで溢れているからです。つまり、逆に金の臭いがしないということは、消費者にとってはとても新鮮なことなのです。
では、そのためにどうしているかというと、まず豚の放し飼いです。豚からは金の臭いはしませんからね。土の匂いはさせながら、金の臭いをいかにさせないか。これがモクモクにとっては非常に重要な点です。
また、モクモクにはポニーがいます。もし、このポニーに乗るのに、1周400円というルールを作ったとします。すると、何度も乗りたい子どもと、何度も乗せたくない大人が喧嘩をしてしまいます。これはあくまで一例ですが、モクモクではポニーに乗ることはもちろん、子どもからはお金を取らないということを基本にしています。
また、使い捨て容器も一切使いません。全部洗います。良くわかる例として、5月4日のゴールデンウイークが1年で一番多い日で、1日で1万5000人が来場します。その日は、皿を洗うだけで、約20名のパートが必要になります。それでも、これをやり続けています。
モクモクの教訓
このように、設立以来21年間走り続けてきました。その中で私自身強く感じていることがあります。
第1は「自立の精神」がスタッフを育てるということです。個々の自立によって、その企業が自立するということです。自立するために、これまで色々と考えてやってきました。現在は48億円の売り上げのうち、9割が直接の販売から生まれたものです。これを継続して行っていくことは、非常に大変なことと思いますが、これによってスタッフはますます育っていくのではないかと考えています。
第2は「時代の風を読む」ということです。そして、これは経営者の責任です。風を読めなくなった時は、自分自身経営者を引退する時だと考えています。
第3は、アナログとデジタル、センスとダサさ、日常と非日常、成熟と未成熟といった「バランス力」です。
第4は「挑戦する意識」です。消費者は、モクモクの売り上げが上がることに一切関心はありません。「世の中の流れのなか、それに対抗して次は何をするのだろう」といった「挑戦」が消費者をワクワクさせるのです。特に中小企業にとっては「挑戦」こそが世の中から応援してもらえる重要な要素です。
第5は「消費者の囲いこみ」です。自分たちを応援し続けてくれる消費者をどれだけ持つことができるかということです。そのためには、世の中に向けた自分たちのメッセージを、常に発信し続けなければなりません。

企業の考え方を買う時代へ
消費者から応援される企業へ
現在モクモクの通販事業では約4万2000人の会員がいます。モクモクの特徴は、会員が非常に強固な組織を築いているという点にあります。モクモクの通販事業の会員数は1年目は150世帯でした。ここから21年かかって、自分たち自らの消費者の組織、いわばファンクラブを拡大してきました。この会員たち同士の絆が一番の強みとなっています。
私は、これまでのように、不特定多数のフリー客を相手にする時代からは変わりつつあると思っています。つまり、自分たちを支持してくれるしっかりしたファンクラブを持つことが、今後ますます大切になってくると思います。
愛媛県今治市に池内タオルという会社があります。この会社は、風力発電によって織った「風のタオル」という商品があり、大きな注目を集めています。この池内タオルに代表されるように、消費者は「商品そのものを買う時代」から「その企業の考え方を買う時代」に入ったのではないでしょうか。
現在モクモクでは、病気を抱えた人が利用できる、健康に配慮したレストランを始めています。実際は毎月、100万円の赤字ですし、クレームも多くあります。しかし、これがモクモク自身の深さとなり、モクモクへの支援につながってきています。
先ほども言ったように、金儲けは誰でもすることです。しかし、これからは、金儲け以外の部分にある、本当に大切なことに力を注げるようになることが、重要になってきていると思います。そのことが、自社のファンを多く生み出し、企業の永続的発展につながるのではないでしょうか。
【文責 事務局 池内】