政策委員会(12月26日)
TPPをめぐる情勢 〜自社の立ち位置を検証

田中 武憲氏  名城大学経営学部教授

 

「評価は立場や産業で大きく異なる」(田中氏)

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、今後の日本経済に多大なる影響を与えます。そこで政策委員会では田中武憲教授(名城大学)を招き、81名の参加で学習会を開催しました。

TPPをどう見るか?

TPPに関する見方は次の2点に集約されます。第1は、現実的な目線で見ると、もはや日本はTPPに参加するという前提に立ち、私たちはその対応を考える時期に来ているということです。

第2は「TPP=農業問題」という単純な図式での論議は、間違いではありませんが、全てではないということです。TPP問題は農業以外にも、製造・サービスなど他の産業全てに何らかの影響を与える大きな問題ということを認識しなければなりません。

メリットとデメリット

TPPの評価は立場や産業によって大きく異なります。日本がTPPに参加した場合、一般に輸出産業では日本の競争力が向上し、名古屋税関管内の貿易実績から見て、自動車など当地の機械関連企業には輸出の増大が期待されます。

ただし、関税の撤廃だけでなく、あらゆる非関税障壁の撤廃をも目的とするTPPでは、軽自動車など日本独自の製品や工業規格の撤廃が求められ、また、医療・保険・サービス産業や公共事業の規制緩和が進むことも予想されます。

その他、最大のマーケットと期待されるアメリカへの輸出についても、関税撤廃の条件として、TPPの「原産地規則」を通じて中国などTPPに参加していない国の原材料や部品の使用が制限されることも考えられます。

他方、日本が国際競争力を持たない第1次産業などでは、これまで日本が東南アジアの国々と個別に締結してきたEPA(経済連携協定)以上に、より多くの産品について例外なく関税の引き下げや撤廃が求められ、国内市場において国産品はさらに安価となる海外製品との激しい競争にさらされることになります。(「TPP協定交渉の分野別状況一覧」名城大学田中教授作成、参照)。

TPP問題に求められること

TPPを巡る情勢から見て、日本が参加交渉を通じて国益に沿うようにルール作りを行うことは、時間的に困難と言わざるをえません。気がついた時には、「既定のルールを受け入れるか否か」の判断を迫られることが予想されます。

同友会として「要望を出す」というよりも、詳細な情報が開示された際に、「(そのルールを)受け入れるかどうか」の早急な判断と意思表示を発信することができる体制づくりが急務です。TPPを他人事と考えるのではなく、各々の企業の扱っている物品やサービスが国際競争上、どういった立ち位置にあるのかを掴むことを通じて、自社の大きな課題として注目して欲しいと思います。

 

【文責 事務局 池内】

 

TPP協定交渉の分野別状況

分野 内容 メリット デメリット
物品市場アクセス 関税の撤廃、引き下げ 輸出活性化 国内農業の保護
原産地規則 関税引下の対象基準 貿易実務の円滑化  
貿易円滑化 貿易手続きの簡素化 中小企業の輸出に有利  
衛生食物検疫 食品の安全基準など   日本の輸入規制緩和が参加条件;検疫水準への影響?
貿易の技術的障壁 製品の安全・環境規格の公開 海外の基準透明化で輸出容易に 遺伝子組み換え作物の表示に影響
貿易救済措置 セーフガード発動条件 国産品の保護 発動条件の厳格化
政府調達 公共事業の発注方法 他国の公共事業への参入容易 国内入札時に外国企業への配慮
知的財産 海賊版・コピー商品 日本製品の知的保護 特許制度改正へ?
競争政策 カルテル防止 他国の競争当局との連携強化 日本の制度との整合性?
越境サービス貿易 サービス貿易活性化 サービス業の海外展開容易 国内法の改正?
商用関係者の移動 商用の入国・滞在の簡素化 日本人が海外で仕事容易  
金融サービス 海外での金融業のルール 銀行の海外進出容易 郵政改革法案に影響?
電気通信サービス 電気通信事業者への義務 新興国の規制緩和により日本企業の進出容易に  
電子商取引 電子商取引の原則 海外のビジネス環境整備 既存のEPAとの整合性?
投資 内国民待遇 新興国の外資規制緩和  
環境 貿易・投資促進目的として環境規制を緩和しない 環境分野での日本企業の競争力強化  
労働 貿易・投資促進目的として労働規制を緩和しない 途上国のソーシャルダンピング賞品の排除  
制度的事項 協定の運用を協議する機関の設置 企業間の懸念事項の政府間協議  
紛争解決 締約国間の紛争解決のルール 特になし  
協力 新興国への技術・人材支援 新興国でのビジネス環境の整備促進  
分野横断的事項 複数分野にまたがる規制による貿易障壁の撤廃 議論を見極めたうえで対応を検討  

(出典:名城大学教授田中武憲氏講義資料より抜粋:原資料は内閣府等『TPP協定交渉の分野別状況』、2011年10月、参照)