第52回定時総会 第4分科会(4月23日)
時代のニーズに応える情報化戦略

加藤 昌之氏  (株)加藤設計(副代表理事・中同協広報委員長)

報告者の加藤氏

震災の教訓から生まれた情報創造

1998年の全国広報交流会の基調講演で立命館大学の二場邦彦教授(当時)が阪神大震災時の兵庫同友会の取り組みを紹介し、「情報創造」という言葉を私は知りました。

当時、兵庫同友会は安否確認と会員の被災状況を調べ、中小企業への援助策を整理した形でNHKへ情報提供し報道されたことが、大きな反響を呼びました。注目すべきは、同友会だけが中小企業の現場の情報を集め、発信したことです。人命救助の報道が優先のなか、この報道は、兵庫同友会がマスコミとの関係を普段から築いていたから可能になったのです。

この講演で二場教授は、広報は「パブリック・リレーションズ=社会との関係づくり」であること。つまり、マスコミや行政などが同友会理念を理解し、社会へ発信する関係づくりが大切だということを強調しました。同友会でも、現場の情報を組み立てて発信する「情報創造」が重要になるのです。

東日本大震災の発生後、福島同友会は当日から安否確認、2週間後に「ワープロより読みやすいだろう」と考え、手書きの機関紙を発行しました。このなかでe-doyuの利用を呼び掛けています。愛知同友会は普段から「あいどる」を利用しますが、福島同友会は会員間でe-doyu利用にバラつきがあり、全会員にIDとパスワードを発行し、被災時に利用できたインターネット上で情報の共有や交換を呼び掛けました。このように、震災という緊急時から、情報発信や共有の大切さを学ぶことができます。

震災対応の有益な情報を伝えた福島同友会の手書きの機関紙
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愛知同友会の情報化

情報が氾濫するなか、確かなビジョンを掲げて、実現へ向けた計画を実践することで、愛知同友会の会勢は伸び続けました。今回は、2010年ビジョンで掲げた「地域社会とともに」「会員5000名」の2つについて紹介します。

まず、「地域社会とともに」は、地域社会の活性化があってこその中小企業という考え方です。しかし、当時の支部地区編成はそれを実現するのが難しい状況でした。支部や地区で会員同士の繋がりもあり、それを変えるのは容易ではありませんが、明確なビジョンを示し、組織編成を変えました。また、「会員5000名」と示した時の愛知同友会の会員数はその約半数。例会等の案内は、すべてFAXで事務局員が集約し、会員5000名では、事務局員の仕事量は2倍、FAX案内も莫大になると想像できました。

そこで、「あいどる」の開発で情報化を実現、地区では例会や役員会の自主運営を可能にしました。これも、明確なビジョンがあったからです。

現場の声を発信する

私の会社は建築設計を行っています。2005年から業界全体の景気が良く、ピーク時はこれが続くのかと思いました。そこで、名古屋市内のマンション着工件数を調査し、それが一部の区で急増していると判明、これでは飽和状態になると予想しました。同時に、並行して調査した確認申請問題が浮き彫りになります。

これは建築基準法改正で審査が厳格化されて確認申請審査の通過が難しく、着工ができなくなる問題です。案の定、改正後の施工は止まり、これに危機感を覚えて愛知同友会理事会で緊急アピール、全国へも広がっていきました。

これは、特定の業界だけの問題だと思われますが、経営者団体の同友会のアピールが、経済全体に影響を与えた事例を伝えたかったのです。

やはり、「中小企業家の現場がどの様な事に困っているか」など、情報として現場の声をあげることが大切だと実感した出来事でした。

外部ブレーンと連携する

例にあげた確認申請問題をアピールする際、経営者だけの発信では難しく、これの本質の簡単な説明に苦労しました。その時、大学教授と密に連絡を取り、彼は分かりやすく社会へ発信してくれたのです。

同友会では、私たちの理念や運動に共感する大学教授やマスコミ・行政などと、定期的な懇談会の開催で、外部ブレーンと関係を強化し、中小企業家の声を発信しています。緊急時の関係づくりでは手遅れで、平時こそ、私たちの声を発信し理解される必要があります。

同友会と社会との関係づくりを議論

日々の活動から運動へ

発信していくのは、グループ会活動での経営体験の報告です。仲間からの厳しい指摘も「良い経営者」へ繋がり、他人の目を借りて自社が「良い会社」かチェックできます。そして、良い経営環境にするために、他団体との連携も大切です。自社以外にも、業界・地域・国を良くするために、何ができるのか、私たち経営者が考える必要があります。

運動を支える事務局員の育成

同友会運動を支えるため、パートナーの事務局員育成もビジョンに掲げています。中小企業家の抱える課題が解決できるよう、事務局員を同友会運動のプロに育てることが求められます。

また、事務局員が的確に情報を集約して発信できれば、同友会がより良くなります。効果的なタイミングと発信相手を見極められるようになって欲しいです。

時代のニーズに応える同友会へ

同友会は時代のニーズに応え、中小企業憲章に書かれている「日本の国づくりは中小企業」を目指しています。地域や国を良くして、会社が良くなっていくという私たちの活動は、国民運動へと繋がっていきます。

愛知同友会は2020年ビジョンで、中小企業憲章の達成を目指しています。この実現には、皆さんの声が必要で、現場の臨場感を伝える「景況調査」が大きな役割を果たし、それをまとめた形で国へ届けています。これからも、同友会理念に共感する仲間を増やし、地域や国を一緒に変えていきましょう。

 

【文責・事務局  松井 史織】