第52回定時総会(第1分科会)
同友会と経営は不離一体

佐藤 邦男氏  アジアクリエイト(株) (東三河支部長、豊川・蒲郡地区)

社員が生きがい、働きがいを見出せる環境について考える参加者

仲間を連れて会社設立

私が新入社員として最初に勤めたところは従業員が400名、協力会社を含めると1000名規模の造船会社でしたが、業界の衰退と共に倒産しました。私は他社から誘いがあり、どこかの会社で図面を描く仕事をしようと考えていましたが、元部下の5人が私と一緒に働きたいと言ってくれたので、一から会社を創ることにしました。

創業に向けて会社の敷地を探していると、ある会社から資本金の一部出資と敷地使用という好条件の話をもらい、順調に事業をスタートできました。その後、その会社から常務取締役の就任依頼があり、自社の売上に貢献できるのならと引き受け、2足の草鞋を履く状態になりました。

東南アジア視察で日本の危機を知る

1993年にその会社から東南アジア視察の誘いがあり、その頃から海外視察をするようになりました。当時、日本では「安かろう、悪かろう」と言われた台湾のパソコンメーカーに行くと、工場ではすごい早さでキーボードが大量生産され、製品の箱には世界中の大手企業の名前が書かれていて驚きました。またシンガポールでは、セミコンと呼ばれる半導体が最新鋭の機械で大量生産されており、中国の天津では見たこともないヨーロッパ製の加工機械がありました。自社は未だ手作業で機械部品を組み立てている状態で、日本のモノづくりは完全に負けたと思いました。

会社に戻り社員に話をしてみても、その頃はまだ仕事がたくさんあり、危機感を共有できませんでした。そうこうしている内に、自社が関わる業界の生産拠点が中国へ移り、国内市場は縮小を始めました。社内の状況も悪くなっていき、私は経営を一から学ぶために同友会に入会しました。

失敗から見えてきた社員の想いについて話す佐藤邦男氏

社員と作った就業規則と経営指針

同友会で学んだ就業規則は、儲けを生み出すための道具ではなく、社員の権利と義務、それぞれの立場や想いを尊重し、全社で共有するためのものでした。ですから、分かりやすい内容で、社員が安心して働けるようなものにすることを決めて、社員と一緒に作り始めました。

就業規則の取り組みが進み、社員といい関係が築けてきたと思っていた時、将来を期待していた管理職の中堅社員が涙を流して辞職届を出してきました。そこでようやく、私が管理職の存在を無視して直接社員と一緒に就業規則を作ってしまったことで、現場を預かる管理職は社員たちと意思疎通が取れない状況になっていたことに気づきました。社員をそのような状況にしてしまった自分が本当に情けないと思いました。

経営理念「みんなにとって良い会社」の実現へ

それから改めて、経営理念の作成に取り掛かることにしました。その頃は同友会に経営指針講座がなかったので、経営指針作成の手引きにあるフォーマットに言葉を埋める形で経営理念を作りました。

当時の私はそれで満足し、社員にも覚えるよう促しました。後日、個人面談をしてみると、経営理念の意味がわからないまま書かれている文をただ読み上げる状態で、社員が分かる言葉でなければ共有できないと気づきました。

さらに、社員が誇りを持てる会社、また大切にしたいと思える会社にしたいと思い、そのためには世の中に認められるオリジナル製品が必要と考えました。そして数年かけて「エアー緩衝材」や「安全体感装置」を開発し、技術屋である社員にも自信や誇りが生まれました。

これらはハイテクを擁して作られた製品ではありません。お客さんが求める商品とは何かを徹底的に調査し、既にある社員の技術を結集して作ったものです。しかし、いずれは競合企業が出てくることも考え、「安全体感装置と言えばアジアクリエイト」と言われるよう努力し続けることが必要です。

座長の佐藤祐一氏

同友会会員からの学び

ある会員さんから、「社員の成長って、モノをたくさん売ることができる営業マンを育てることではない」と言われ、自社の経営指針書を再確認しました。すると、そこには経営指針に一番大切な「社員の成長」について書かれておらず、「人間性・社会性・科学性」というキーワードに当てはめて考えることにしました。

その結果、社員の成長には3つの観点があることが分かりました。1つは人間性の部分で、「この会社の社員さんはいいね」と言われる社員を育てること。2つ目に社会性として、誰に対しても礼儀正しい人間を育てること。最後に、お客さんに喜んでもらえる商品を広げるために、技術力や販売力を磨き続けられる環境をつくることです。これらを考慮し経営指針書に社員の成長に関する項目を入れ、社員の将来像について考えるようになりました。

これから目指すところ

製造業だけでも年間100名以上が作業中の事故で亡くなっています。先に述べた自社の安全体感装置は、現場で起こる労働災害を疑似体験できるものです。作業中に起こり得る危険を体感してもらうことで労災を未然に防ぎ、大切な命を守っていきたい。それが自社にできる地域貢献だと考えています。

また、地域貢献には納税もあります。今年の豊川市の一般予算の中で、法人税は数%しかなく、非常に少ないと感じます。自社でもっと利益を出し、納税によっても地域貢献をしていくためには、同友会でさらに経営者としての勉強をしなくてはいけないと思っています。

 

【文責・事務局  墨 隼人】