第44回中小企業問題全国研究集会 第14分科会(2月13〜14日)
中小企業憲章の理念を日本と地域ビジョン、企業づくりに

大林 弘道氏/神奈川大学名誉教授
加藤 明彦氏/エイベックス(株)

「中小企業憲章」を企業づくりに(第14分科会)

広島で開催された全研第14分科会において、神奈川大学名誉教授の大林氏、愛知同友会代表理事の加藤氏が報告しました。その概要をご紹介します。

 

<報告1 大林 弘道氏>

大林 弘道氏

アベノミクスの実情

安倍政権は、バブル崩壊以降の日本経済の「失われた20年」の事態を「デフレ」による不況にあると考えています。この解決策として打った経済政策が、アベノミクスです。

一昨年以来の株価上昇や円安の傾向は、アベノミクスによるものとされ、大企業や金融機関の収益の増加をもたらしています。一方で、地方や中小企業への波及は限定的です。小規模企業基本法の新たな制度をはじめ、安倍政権において中小企業に対する諸施策が打ち出されています。

それらを積極的に活用し、中小企業憲章(以下、憲章)の国会決議へ向けた運動や、中小企業振興基本条例(以下、条例)の制定へ向けた取り組みを、今後も続けていかなければなりませんし、新たな成長戦略を展望する段階に入ってきています。

推進運動の到達点

「運動」という観点でいえば、各地同友会が6月を中小企業憲章月間と位置づけて様々な会合を開き、行政、他団体、諸政党と協力して、憲章の普及に努めています。

経営に対して真摯に取り組む中小企業家からなる同友会の運動によって、経済産業省や中小企業庁といった行政のトップでも、憲章の基本精神である「中小企業の声を聴く」ことが行われ、今では中小企業からの積極的な意見・提案が求められています。

地道な運動が描くビジョンの社会へつながる

「日本経済ビジョン」

「日本経済ビジョン」「地域経済ビジョン」の策定と実行は、憲章や条例の理念を具体的な目標や成果として明確にするために必要です。これらビジョンでは、地域資源を生かす「地消地産」の内需主導型社会を目指し、財政健全化と生活水準の向上を図る政策が求められています。

これは、憲章を真正面から受け止めた唯一のものであり、政府や各行政の地域振興計画に対して、建設的な提言を準備するものでもあります。

これを経済情勢や条例の進捗状況に合わせて個人や専門家だけでなく、地域に根差した経営を行う多くの皆さんで学習・改善していくことが大切です。

ビジョンと経営

これらビジョンは憲章・条例と自社の経営指針を繋げるものであり、真剣に会社経営に取り組んでいくほど、より理解が深まっていくことと思います。

経営環境の改善、地域貢献の形は何通りもありますが、「地域に貢献している企業・経営者を、地域の人は見ている」ことは間違いありません。皆様は、生まれながらにして名望家たる尊い存在なのです。

今後も激動の経済情勢が続きますが、こうした経営者が地道に憲章・条例制定運動を続けていくことこそ、真に豊かな企業や社会の創造に繋がると確信しています。

 

<報告2 加藤 明彦氏>

加藤 明彦氏

激動する経営環境

憲章の理念を社会に広げていくことが私たち経営者には求められています。大切なのは国や行政へ中小企業の実態を発信し、理解してもらうことです。私たちから要望だけを出しても受け入れられません。まずは、真摯に経営に取り組むことから始まります。 自社は自動車部品を製造していますが、自動車業界を取り巻く経営環境は大変厳しいもので、リーマン・ショックや東日本大震災での苦労は、他業種の方も同様だと思います。北米のリコール問題やタイの洪水、尖閣諸島の問題で仕事に影響が出るなど、外部環境の変化によって自社の仕事にも少なからず影響が出てしまうのです。

また、国内の産業空洞化の流れも深刻です。日本国内を見ていると、トヨタが国内300万台生産は死守すると明言していますが、生産は東北・九州へと移っています。つまり、愛知での生産・雇用は間違いなく減少していきます。

これに対して、愛知県経済を活性化させるには、自動車に目が奪われていて気付かなかった、林業や農業、漁業といった国内有数の資源を組み合わせて活用することだと思います。これに気付いたのは、「克ち進む経営」を経営姿勢として掲げていたからです。

「生き残る経営」

それまで、自社は「生き残る経営」をしていました。会社の経営が悪いのは社会経済全体が悪いからであり、それが良くなるまで待つという考え方です。しかし、事態は一向に良くなりません。

その事例として、自社では創業時、ミシン部品を製造していましたが、生産は全て海外に移管され、次は8ミリカメラの製造に取り組みました。しかし、ビデオカメラの登場で仕事は再び減りました。

そして自動車部品へ業態を転換し、ブレーキ部品を手がけました。私達は主に鉄を素材として扱っていましたが、技術革新によりプラスチックで製造可能となると、1カ月に80万個も作った仕事が完全に無くなってしまうという事態になったのです。つまり、経済情勢に関係なく技術革新によって、自社は取り残されていったのです。

「勝ち残る」から「克ち進む経営」に

その後、新たに仕事を創り出そうと、「勝ち残る経営」に舵を切りました。つまり、高品質・低価格・短納期の3つを追求すれば、より多くの仕事が獲得できるとの考え方です。初めは順調でしたが、上手くいかないことも多くありました。

なぜなら、たとえ自社がこれら3つを追求したとしても、海外生産が進んでしまいますと、日本国内に市場そのものが無くなってしまうからです。

リーマン・ショック後、いかなる外部環境においても、他社と競うだけでなく、自社をしっかりと把握することが大切だと考えて経営を行う、「克ち進む経営」に転換しました。

41名が参加しテーマを深める

市場創造と人材育成

何度も経営危機にぶつかることで、徹底的に自社の強み・弱みを見つめることができました。また、経済環境やライバル等の外部要因に責任を転嫁せず、いかに自社の課題として解決を図っていくかが大切だと思います。

そのような会社を目指すためにも、自社では「市場創造」と「人材育成」に取り組んでおります。これは全く目新しいことではなく、1993年の中同協定時総会で「21世紀型企業づくり」として提案されたものです。

市場創造については、「金属の切削・研磨のプロである鍛冶屋」と自社を定義し、地域資源を生かして他分野へと事業領域を広げています。

人材育成の点では、営業と技術を組み合わせることで、他社に先駆けて情報を取り、新しい仕事づくりへ繋がるようにしています。

強みと弱み

社会や行政が中小企業の実態を把握できていないのと同様、私たちも自社の強みをきちんと把握しているのでしょうか。

例えば、「なぜ今の取引先は自社と取引しているか」を明確に答えられるか、ということです。また、たとえ同友会で多くを勉強したとしても、自社について危機感がなければ、効果がありせん。

私はリーマン・ショックで経営者としての覚悟を決め、自社の強み・弱みを真剣に考えた結果、今の成長に繋がったと考えています。

共存共栄の社会へ

大企業の製品も、中小企業の部品が無ければ機能しません。利益重視で大企業が次々と海外へ出ていくなかで、雇用・納税を果たす中小企業は地域の要です。加速する少子高齢社会による生産年齢人口の減少で、地域の様々な問題が起こるでしょう。

それを中小企業の仕事を通じて解決することができれば、強靭な経営体質に繋がり、地域になくてはならない企業になるのです。こうした一社一社の努力が、経営環境の改善や、条例の制定へと繋がります。

中小企業にとって、地域に生きるとは仕事づくりそのものであって、それは不離一体のものなのです。自社と地域の資源を改めて見直し生かすことで、共存共栄の社会を一緒につくり上げていきましょう。

 

【文責 事務局・橋田】