第53回定時総会第1分科会(4月22日)
違いに責任を持つ経営とは
〜社員と共に生き、信頼できるパートナーへ

牧野 章一氏  アイエムタクシー(株) (新潟同友会副代表理事)

「信頼できるパートナーは、育てるのではなく育つ」と牧野氏

矢継ぎ早の改革

当社は新潟県上越市を中心とするタクシー会社です。私は1998年に、倒産寸前の当社を引き受けました。当時の会社は「暗い、汚い、苦情がない、暇でお客様がいない」という状況で、まずお客様の声を聴くことから始めました。それを壁に掲示したり、「情報カード」という仕組みを作ったり会社の改革を進めました。

翌年、賃金体系の見直しから組合との係争関係に入り、足掛け3年、2002年にやっと終結しました。その間、介護タクシー、乗合タクシー、便利タクシーなど新しいサービスに着手、就業規則をはじめ諸規定を整備し、新社屋を建て、業績はV字回復を果たしました。「さあ、これからだ」と思った矢先に、考えられないクレームが続発します。

仕組みや管理の限界

サービス業は人間業です。「お年寄りにはゆっくりお話しする」など人間として当然の配慮をするのが仕事です。ところが、お客様に対する暴言や悪態などのトラブルが複数入りました。正直、ショックでした。会社の体制は格段に整って、一見こんがり焼けたおいしそうな餅だけど食べたら中まで火が通っていないという状態です。

これ以上管理を強めても、社員がうんざりしているのが伝わってくる、従来のやり方では通用しない、一体どうしたら良いのか。そんな時に同友会に出会いました。さっそく「経営指針を創る会」に参加、経営理念づくりに向かいました。

社員のためを履き違え

「経営指針を創る会」で、特に認識を深めたのは社員とのかかわりでした。

それまで、会社の再生は経営者である私の肩にかかっている、それが経営者の責任だという思いが強く、自分のやり方を一方的に社員に押しつけていました。「企業は勝つためにある」という考えも、根強くありました。

一方で、会社再生は私利私欲ではなく「社員のため」が本心でしたので、その考えが履き違えであるとは微塵も思いませんでした。「あなたの経営理念は指示書、規則書だ」「あなたは社員を当てにする勇気がなさすぎる」という仲間の指摘に、目的ではなくやり方を教えていた自分に気づかされます。

考える力を育む

私は全てを規則書にあてはめ、計画のPDCA遂行に社員を追い込んでいました。思いは「社員のために」でも、個人プレーで自分中心の空回り状態、教えた通りにやらないと腹が立つ、教えるので相手は考えないという悪循環でした。

利益は重要です。しかし利益を中心に考えると、社員は利益を上げるためのパートナーになってしまう。教える対象で、手段の域を出ません。自分で考える人間、つまり信頼できるパートナーは、育てるのではなく育つものです。

「人が育つ」ことを議論する

『共に生きる』を実感

当社の経営理念は『共に生きる』です。

2006年にジャンボタクシーの横転で1名の尊い命を奪う重大事故が起きました。私は非常に動揺して出社し、社員の顔を見ました。社員も私の顔を見たと思います。その時、無力な自分の情けなさと動揺がそのまま腹に落ち「社員に助けられた」と思いました。社員と一緒に誠意を尽くしていく中で、「共に生きる」が血肉化したのです。

命の拠りどころに

当社は地域の皆様の命の拠りどころでありたいと考えるようになりました。

今年1月にタクシー関連3法が改正されました。規制緩和やデフレ不況で50歳以上の乗務員年収が250万円を切るという矛盾への見直しです。殆どが“拾い”で成り立つ都市型タクシーと、電話注文中心の地方型タクシーでは業態が全く異なります。

地方では高齢者の方々が病院から遠い山壁にへばりつくようにして生活しており、バスは赤字路線で運行できず、タクシーでは運賃が高すぎます。社会インフラや地域別業態など、根本的な課題に向き合う時代になっています。

ばらつきを許容

中小企業は小回りと早い結論が必要なため、目先の対策思考に陥りがちです。思いつきや手段や人様の良いとこ取りに終始して、考えない。戦術レベルのやり方論のため、自分のやり方と違う人を間違いだと決めつけがちです。しかし目的を明確にすることで、個性や違いを生かせます。「自ら考える」「共に育つ」という視点で、「ばらつき」を受けとめ“待つ”度量を持つことが会社を成長させます。

成長の抵抗勢力は“経営者”

私たち経営者が学び方を間違えると、社員を押さえつけ、会社と社員の伸びしろを目茶苦茶にする最大の抵抗勢力になってしまいます。

経営者は方法論に習熟するのではなく、多くの学びから「考え方を練磨し続ける」ことが必要です。それが会社と社員の成長に繋がります。「何のために経営をしているか」「何のための地域力か」を考え問いかけ合う本質論議が、目的を明確にし「考える思考」を鍛える鍵となります。

 

【文責:事務局 加藤美穂】