第7分科会「IT革命!中小企業の現実と未来」

●パネリスト
東谷暁氏・ジャーナリスト
影山勝行氏(株)イーコール・社長
プロフィール
(1)東谷暁氏1953年生まれ。アスキー(株)などでの編集に従事し、現在フリージャーナリストとして活躍。【著書】「金融庁が中小企業をつぶす」(草思社)など
(2)影山勝行氏1950年生まれ。1995年4月「中部企業ネットワーク(株)(現(株)イーコール)を設立。中部地区の中小企業を対象とする通信ネットワーク「E=CALL」を主宰。
●コーディネータ
山口義行氏立教大学教授
2年間で広まったIT革命という言葉
【東谷】IT革命という言葉がいつから出てきたのがご存知でしょうか。日経のデータベースで検索してみますと、96年1件ですが、97年2件、98年十5件しかありません。それが99年に54件、2000年になりますと、7月上旬だけで200件を越えており、IT革命という言葉がここ2年間であっという間に広まり日本人はずっと前から昔からIT革命を騒いできたような感覚になっています。【影山】当社がネットワークの世界に飛び込んだには、まず、新しく自社ビルができ、3カ所のビルで社内の情報のコミュニケーションの為ネットワークでつないでからです。また当社には2000件のお客様があり、自由に交流できるような場を作ることができないかなと思い、独自サーバーを導入し、ネットワークづくりを始めました。これが現在のイーコールです。現在、全国的にイーコールの輪が広がり、名古屋で約1000社、全国で約700社、1700百社、ほとんどが経営者ですが、その方々が集まって頂いて、ビジネスの交流をしていただいております。
アメリカの現実は
【東谷】アメリカでインターネットが発達していてみんなインターネットで物を買っているんだとよく言われますが、アメリカの小売業のどのくらいがBtoCでの通販をおこなっているでしょうか。0.64%です。これはアメリカの商務省が公式の文書の中で述べている数字です。民間の企業がこれにチケットなどを含めて99年で200億ドルと算定しています。アメリカの小売業の売上が3兆ドルですから、0.66%となり、2000年になると、500〜600億ドルと算定していますから、それでも1.2%に過ぎません。またアメリカの政府刊行物の中には、ニューエコノミーの時代がきた、IT革命によってすばらしい生産性のあがる経済が確立した、これをニューエコノミーと呼ぼうと言っているものもあります。アメリカの72年から95年まで毎年1.4%の生産性が伸びて、95年から99年までは2.8%まで伸びた。これこそすばらしいIT革命の成果なのだと誇らしげにも言っていますが、72年から95年までの間で、82年から87年の間を見れば、やっぱり2.8%ぐらいあります。景気が良いと生産性も伸びるというだけの話なのです。数字のトリックです。さらにアメリカで、IT革命のお陰でいい会社が出てきたといわれて、立派な経済学者が、たとえばアマゾン・コムはすばらしいと言いますが、すでにアマゾン・コムは一時株が113ドルだったものが、10ドル台に下落しました。日本の評論家はアマゾン・コムが赤字なのは先行投資をしていたからだと言います。しかし、アマゾン・コムは売上が4半期で6億ドルでも、赤字が3億ドルもあります。数字で見れば、債務超過なんです。赤字が売上の2分の1ある会社が優良会社でしょうか。評論家たちはアマゾン・コムが黒字転換できないとわかると、こんどは問題点を指摘し始めます。こういう無責任な人たちに煽られたニューエコノミーを私はぜんぜん信じられないと思います。
IT利用は自社の経営課題の整理から
【影山】ニューエコノミーのベンチャーの企業というのはユーザーを持たない、ビジネスとしての過去のしがらみを持たない、パッと世に出てきて、ユーザーを持たないでサービスを開発して、それを求める人たちをユーザーにした会社、ヤフーなんかが典型です。情報が集まるからユーザーが集まる、ユーザーが集まるから情報が集まる、サービスの拡大循環が起こって、あっという間にナンバーワンのブランドサイトになりました。ITを使うことによって一部の部門を拡大する。そういった形で取引の形態や、売上の作り方であるとか、仕入れの仕方が変革されてきた。要するに全世界から、安くて納期があればということで資材調達に効率を上げるというような仕入れ機能の中にITを使うということが、大きな変革だろうと思います。中小企業がインターネットを利用しないからだめになるとか、使うからすばらしい成長を遂げるということではなくて、中小企業が抱える様々な経営課題を、もしインターネットで解決できる部分があるならば、積極的に取り組むべきだ、と思います。
ITで労働生産性はあがるか
【東谷】アメリカの例を先ほどの生産性という指標で見てみましょう。パソコンを作っている企業が労働生産性をどのくらい上げているかいうと、1年間で41.7%上げているのです。これが5年間続きました。しかし、一般に他の企業と併せて計算すると2.8%に過ぎない。この数字はコンピュータの製造業に限られた話なんですが、周辺機器は粗利が10.1%です。ところが、商務省のレポートでは、パソコンを買って一生懸命に使っている企業は、マイナス0.1%の伸びです。情報投資をすればするほど、マイナスになっていっているのです。パソコンを使っているサービス業の場合マイナス0.3%です。統計上はサービス業はパソコンを使えば使うほど損に見えるんですね。アメリカの学者でも、なぜ、ITを導入しても生産性が上がらないのか研究しています。波及効果が遅いからだとか、サービス業は統計が難しいからだろとか、いろいろな技術革新が進んでいて労働生産性が上がらない等の理由を挙げています。これがマクロで見たアメリカ経済の一端です。
社長の強い意志が必要
【影山】統計データで、中小企業を判定するのは難しいことです。中小企業は、たかだか200人です、明日からかえるという事ができます。私はITを活用できるかどうかは、すべて社長の意思だと思います。社長が強い意志をもって参加するかどうかで、変革がどんどん起こってくれば、生産性の値は変わってくるのではないかと思います。【山口】インターネット活用の上の問題は情報の中身で、どれくらい魅力的にするかです。情報を配信するコストは下がるが、中身は詰まってなければどうにもならないわけです。成功した例と、失敗した例をキチンと分析しながら、自分にとってどんなやり方が出来るのかという答えを、導き出すことが中小企業の経営者に必要なのだと思います。【影山】いわゆるBtoCという部分に中小企業が参入するときに、基本的には比較検討しにくい商品、サービスと即断できるもの、そういうところに絞り込んだところでないとなかなか難しいと思います。普通の商店で売っていないような比較検討のしにくいものは注文がきます。印刷とか物流も価格では比較検討しにくい世界です。やはりそれぞれに聞いてみないとわからない。そこに消費者のニーズがあるわけですね。【山口】いちばんBtoCにとって都合がいいのは、航空チケットとかです。そういうものは圧倒的にそっちに移ると思いますね。物の場合は消費者までとどけるのが困難です。どういうものに限定して、どういうお客さんの層に売っていくかということが非常に重要で、不特定多数の人にはテレビショッピングがいいわけで、少数の変わった趣味とかの人にはやっぱりインターネットではないでしょうか。
ITを「生活革命」に
【東谷】数字的には捉えにくいのですが、なぜアメリカでSOHOが広まってきたかというと、大企業がアウトソーシングを進めたからです。間接部門を外にどんどん出したからです。この流れで弾みがついてしまったのです。ただ、SOHOがやれる職種とやれない職種があります。データで送れる経理とかは、できるかもしれませんが、現場のある仕事などはできません。書類に置き換えてできる仕事はできるのですが、その場にいないといけない仕事は不可能です。外に出した仕事を引き受ける人たちがSOHOをやっていて、日本比べるとはるかに多い。それが現実なんですね。やっぱり人というのはいっしょに働きたい、人と一緒に働いているから競争心も持つし、依存心や協力する気持ちになる。そういう部分を簡単に取り去って、SOHOにしてしまえば、経営費も安くなるというのは限界があると思います。【山口】IT革命なる言葉が、何よりも一つの証券用語であったという事実は、アメリカでの株価急騰が「ニューエコノミー」論を生み出したのとまったくかわりません。今必要なのは、IT革命を息の長い「生活革命」ととらえ、ITを生活の質の向上にどのように役立てていくかという点ではないでしょうか。人間が「主役」になれる仕組みの一環として「ITイコール生活革命」を推進する、そういう方向に政策の機軸を転換させる絶好の機会となることを今後、期待したいと思います。
【文責事務局・内輪】
●山口先生のIT革命への詳細な見解がNHK教育「21世紀ビジネス塾」のホームページ http://www.nhk.or.jp/business21/の「On・the・web特別講座」(「IT革命の幻想と現実」)に掲載されています。
「分科会に参加して」(感想)長谷川貞行・(株)アルテック
世の中全てIT、何かしなければ仕事ができなくなるなどと、日常的に周りから刺激され、今まさに混乱状態だ。そんな中でタイムリーな内容の企画だった。ITはイメージ先行で、アメリカでもインターネットによる物販は、0・6%程度で、まだまだカタログやテレビ通販が主流だそうだ。書籍のネット販売を例に、現物と物流など実態を無視したIT革命は失敗するとか、逆に経営資源の大小にかかわらず事業規模の拡大のチャンスがあることなどがよく分かった。情報産業以外は別として、私達は、自社の現状を理解し、業態に応じたITの利便性を上手に活用して行けばよいと思った。お三方の現実を踏まえた討論は、ITの実態と私達の距離や時間差を少し縮めてくれた。