第9分科会「地域商業とまちづくり」
●基調講演矢作弘氏、日本経済新聞・編集委員

プロフィール
矢作弘氏1947年生まれ。71年横浜市立大学商学部卒業、日本経済新聞社に入社。日本経済新聞編集委員。【著書】「都市はよみがえるか−地域商業とまちづくり」(岩波書店)ほか。
急激な郊外化
大店法が30年ぶりに廃止され、立地法が新しくスタートします。そして中心市街地活性化法と都市計画法の大幅改正が、いわゆる「まちづくり三法」としてセットで登場しました。アメリカからの規制緩和圧力の流れと、他方では都心部空洞化の急速な進行に対する危機感が背景となっています。立地法は、経済的保護政策や規制は一切行わないで、交通や周辺生活環境への影響に配慮するという社会的規制の法律です。商品に埃かぶっている店は撤退してもいい、がんばって経営努力しているところは活性化法で援助し、出店地のゾーイングは都市計画法で地方自治体に委ねるというものです。はたしてこの法律は機能するのでしょうか。75年以前は駅前ターミナルや中心商業地に集中していた大型店出店が、80年代は郊外幹線道路沿いへ移行し、大店法改正後の90年代はさらに極端な形で都心部の空洞化が進みました。ひどいところは空き店舗が4割くらいあります。最大の原因は車社会です。バイパスが走り,新興住宅地ができ,郊外の方が出店メリットが大きくなったのです。そして高齢化時代が到来しました。5年後には人口も世帯数もマイナスとなります。空洞化した日本の地方都市は大変なことになります。
地方自治体に委ねられた都市計画
今回の法改正における建設省の基本スタンスは「都市化社会から都市型社会への転換」です。郊外へのスプロール化に歯止めをかけ、もっと都心部を大事にしようという発想です。理由は、高齢化時代における都市インフラの効率面があります。学校や施設や交通や安全など生活利便で、都心部の既存インフラをもっと活用しよう、若い人も含めて暮らしやすい活動しやすい都心部に住むようにしようということです。また郊外の環境破壊やエネルギー、スクラップリサイクルなど地球環境問題もあります。法改正の具体的ポイントは、(1)特定用途制限地域、(2)準都市計画化区域、(3)市街化区域「線引き」制度の自治体による選択性です。(注釈)しかし、(1)と(2)で郊外乱開発を制限しようとしながら、(3)の選択性によってこれまで市街化調整区域で開発ストップがかけられていたところが逆に開発対象になる可能性もできてきました。一貫性がありません。これで本当に都市型社会をめざしているのでしょうか。実は業界の圧力や省庁間の利権争いにより、大型立地の届出義務条項や都道府県全域マスタープラン構想などが審議会最中に弱められてしまったという経過があります。これまでも農業地域に駐車場がつくられたり、跡地利用で出店可能だったり、また面積を隣接して2軒に分けて建設したりなど、隙間をねらってどんどん大型店出店されています.郊外地権者の思惑で線引きが変えられるという現実もあり、今後についてはご想像できることと思います。
地域から独自のまちづくり
しかし、逆に希望の芽も出てきました。法改正後まもなく杉並区が独自条例を出しました。深夜営業規制や届出・協議義務などです。アメリカからの圧力もありましたが,他の自治体も独自基準を出してくるようになりました。地方分権の流れで市民の皆さんがどんどん自分達の地域のことを考えて独自の条例などをつくっていくことは非常に良いことと思います。ここ数年、商店街ではコミュニティバスとかチャレンジショップとか、たいへん面白い動きが出てきています。じっとしていては悪くなる一方ですので、皆さんでぜひもう一度暮らしやすい活性化した都市の街づくりに戻して頑張って頂きたいと思います。
(注釈)(1)市街化調整区域になっていない区域で、良好な環境保全や合理的な土地利用形成などのため制限すべき特定の建築物等の用途を定める地域(2)都市計画区域外で将来における都市整備開発および保全に支障が生じるおそれがあると認められた地域
パネルディスカッション
●中野俊治氏(大須商店街連盟・会長)
●田屋秀俊氏(覚王山街づくり委員会・委員長)
●福田義久氏((株)山湊〈新城市〉社長)
●コーディネータ
田中亨氏(田中政商店・社長)
【田中】かつて地域商業の花形であった商店街ですが、今日その存在そのものが不安視されています。そこで(1)商店街の今日における存在意義、(2)地域社会やまちづくり、(3)地域の人づくりについてお話しをお願いします。
大須商店街より(中野氏)
(1)大須はパルコやナディアがある栄の中心地と隣接しており、東西南北に拡がりのある全国の中でも大きな商店街です。商店主家族や近隣の人達の日常生活の場であり、おじいちゃんから孫へ商売やら暮らしやら伝統や文化やらを地域ぐるみ皆で何気なく伝えている街です。これからは少子・高齢化がテーマです。お年寄りはどこで買物するかというと、交通や施設など便利で安心で暮らしやすい都市部に住んで、近所でいろいろな会話を楽しみながら多少値段が高くても買ってくれるだろうと考えています。ですから地域と一緒になって、ふれあいが薄れている都市で地域コミュニティを大切にして街をつくっていきたいと強く思っています。(2)地域がよくなっていくためには人を歩かせる方策を考えなくてはいけません。花を植えたりベンチやコミュニティの場を設定したり、歩いていて楽しそうな街にしてウチに引きこもっている人を引き摺り出すような情報発信が必要です。栄地区の近代的なブティック街の楽しみと大須の昔ながらの生活観あふれる街と、新古さまざまな良さを組み合わせて魅力を3倍にして、名古屋の大須から日本の大須をめざしていきたいと思います。(3)街づくりは人だと思っています。イベントなど毎年実行委員長を替え、意識的に若手に徐々に任せていくようにしています。自分の店周りの視野しかなかった方が大須や街づくりについて考え始めて多くの人材ができこの先10年は安泰で元気だと思います。
覚王山商店街では(田屋氏)
(1)覚王山の場合、惣菜屋や日常品などのお店はポツンとしかなく、アーケードもありません。地域の方のための商店街づくりは今後の課題です。ただ地域のお客様だけではやっていけないのも現実ですので、常に新たな周辺地域への相乗効果を進め、広い集客の場を考えています。(2)お年寄りの弘法さん参りだけでなく、若者客を呼び込もうと、祭りやイベント、マップづくりなどまちづくり委員会の活動を始めました。一日中歩けるような楽しい魅力ある店を増やそうと取組んでいます。炭屋・インドネシア家具サロン・商店街情報発信地旭屋情報館・中国茶店・ギャラリー・アロマセラピーショップなど、若い人たちに非常に人気があります。すでに空き店舗はなく、日常情報も不動産屋等より早く入りますので、逆に店舗出店選別の主導権がとれるようになりました。(3)覚王山は、若い人たちが自分から街づくりに関わりたいと多くのボランティアが集まってきています。商店主だけでなく、周辺地域の多くの人達を巻き込んだ街づくりができています。和気あいあいから、今は組織的に役割分担もすすみ、結構ハードになりましたが喜びのある人は残ります。目的があって強い組織があって最終的には利益もある、という共通理解のもとにケンカしながらも人が育っていきます。
新城商店街では(福田氏)
(1)新城市の人口は3万、静岡県との県境で風光明媚なところです。しかし商店街は3分の2がシャッターが下りていて、毎日の買物も車や自転車で他の町に行くというあり様です。そこで自分達の地域が住みやすく、買物しやすく、生活不便のない社会文化もある街にしたい、人を集め商店街を興したいと、まちづくり会社(株)山湊を設立しました。生鮮食品や月1回の小規模農家出店による朝市、村祭りなど、いろいろ企画してまいりました。地域住民の方から「儲ける為にやっている」と思われるのでなく、商店主は自分の周りの地域の人たちの事を考え、地域住民も自分達の暮らしや街づくりとして一緒になって盛り上げていかないといけません。(2)市民百人が10万円ずつ出資した1000万と新城市の1000万で(株)山湊を設立。コンセプトは「地域に必要かつ必ずあるものになる」です。地元でつくってとれたお米で地元の水で地元の酒蔵の酒をつくろう、手作りのぐいのみで新酒会をやろう、と全国から参加者を募り田植えから稲刈りまでやりました。また新城は隠れたお茶の銘産地です。それをもっと広めようと自社販売。ギャラリー・工房・物販の3店舗を経営しながら、TMO認可も受け、商業部会・環境部会・福祉部会など、メール配信や地域の情報発信なども行っています。商店主や中小企業だけではできないので、住民の方も一緒になってまちづくりをやっていこうと参加を広げることに取組んでいます。(3)勉強会を何回開いても集まらないのが現状です。何か面白いことをやっているから一緒にやろうと個人のネットワークで誘い、飲み会などで街づくりのことを語りあい、巻き込んでいます。
【田中】商店街には(1)近隣型(2)地域型(3)広域型(4)超広域型などの分類ができます。生鮮食品など日常買物をする場としての近隣型を基本にやっていきながら、もう少し広域な視野で地域社会との関わりを考えていかないといけません。少子高齢化で住民が減り商店も減るという悪循環を変える必要があります。ダウンタウンのように歩くのも危険で殺伐とした街にしてはいけません。阪神大震災では商店街が一番に立ち上がって、その底力と役割が見直されました。(1)地域コミュニティの核(2)文化の継承(3)少子高齢化対応(4)地域社会貢献など、ますます商店街の役割が重要な時代になってきていると思います。商店街は商店主だけの問題ではありません。街の中心性や雰囲気ある街の顔といった点で、地域全体の問題であり街づくりや暮らしの問題です。私達自身が住んでいる街の暮らしについて考え、一人でも多くの人が街づくりに関わっていくことが大切だと思います。
【文責事務局・加藤】
「分科会に参加して」(感想)飛田潔(有)ライフ・エーディー
都市は生活する人々と共に生きています。道路を動脈、静脈として、1000年・2000年と歴史の流れの中で再生・破壊を繰り返しゆっくりと成長しています。そして都市の中に点在する各地域の商店街の現状、活動方針、まちづくりの今後の課題等をパネリストの方々に語って頂きました。商店街は、神社仏閣、駅前その他、立地条件に左右されるものではなく、半径1〜2kmの住宅地から、徒歩か自転車で来られる人を対象に日々の生活用品を提供することです。本通りは遊歩道であり、広場であり、中庭です、子供から老人まで安心して買い物ができる活気あるまちづくり、商店街づくりが理想ではないでしょうか。最後に「同友会ビジョン」の実現を具体的に示し、その地域に係わる支部・地区がその地域を理解し行政も巻き込み、積極的にまちづくりに参加する地域活性化の担い手としての役割が、この分科会で明確となりました。