愛知県中小企業研究財団 創立四周年記念のつどい
転機に立つ中小企業 共育ちの会社づくりを
吉田 敬一氏 東洋大学経済学部教授
構造転換の二つの方向
「構造転換」とは誰のためか?二つの方向性があります。その一つは「キャッチアッ
プ」でアメリカやヨーロッパに追いつくのが目標で、原則は標準化・規格化を徹底的
に追求することです。量産・量販で低コストを実現することですから、大企業を中心
にした生産・流通システムが確立してきました。
戦後五十年のキャッチアップはバブルの崩壊で終わりましたが、そこで生まれてきた
のが「フロントランナー」への移行という問題です。従来の低コスト構造は「あれば
便利」という、生活を高めていく品物が中心で、生活そのものに関わるものではあり
ませんでした。量産・量販体制にとってもう一つ別の道があるというのが、第二の方
向性なのです。
文化の香りのする国
「豊かさを実感できる経済社会」とは、生活の快適性・利便性を高める領域というこ
とで、メイド・イン・トヨタであれば作っている場所は中国でもブラジルでも良いと
いうものとは違い、衣・食・住を中心にしています。
基本的に日本経済は二本足で成り立っており、一つは万国共通の競争領域で勝負する
産業と、もう一つはメイド・イン・ジャパンで生活の快適性を追求する産業です。
この点では「まだドイツにキャッチアップしていない」のが現状です。
例えばドイツにはフォルクス・ワーゲン(国民の車)という自動車がありますが、ト
ヨタ・日産型タイプです。
一方、ベンツという車もありますが、買っている人達はステータス・シンボルとして
「文化性」という付加価値を買っているわけです。
フロントランナーになる企業づくり
従来、豊かな国とはキリスト教文化圏を指していました。ところが日本が二十一世紀
にフロントランナー型の企業づくりをすすめることは、フロントランナーの中でも個
性的な方向性を持つと思いますし、アジアでも尊敬される国になります。
例えば衣料を考えても、日本だけ発想が違います。なぜ和服が着にくいか、三次元の
体に二次元の布をまとうわけですから、着るのに熟練を要することになります。不合
理なものを貫徹するには「ゆとり」が必要です。
つまり、地域性や民族性を生かしながら本当の意味の二十一世紀型企業像を追求する
時代なのです。その意味で中小企業は二十一世紀型産業だと思っています。
ニーズの違ういろんなタイプの人間が住んでいる街づくりが、定着型で、地域対応の
個性に対するフロントランナー型の地域経済と言えるのではないでしょうか。
中小企業も発想転換を
中小企業も従来の発想ではダメです。受身の立場でQCをやってもダメということで
す。プラス・アルファの違いをどこで出すのか、アジアでつくる品物・品質・精度と
は違う何かを発信できる、つくれる、売れることが大切で、「提案能力くらい発揮し
なさい」ということです。
そのためにはいくつかの視点があります。
例えば、マーケットシェアという見方は量的なもので、個別の客は見えませんでした。
一人ひとりの顔を見比べてオリジナリティを高めていく「コンシュマー・シェア」と
いう見方が大切です。
第二に、これまでは社長の言うことだけやっていれば良い「滅私奉公型」の社員づく
りをしてきました。これからは個性のない社員ばかりの企業ではダメで、本業として
プロフェッショナルな人間づくりのできる「活私創社型」の会社にすることです。
最後に、七十〜八十年代は経営者の課題として生き残ってきましたが、現代は社長と
ともに社員が育つ「社内の共育ち」が重要になっています。本業で個性を持った対応
のできる力はマニュアルでは無理なことです。
お客様の感動を生み、満足を与えることのできる対応は、品物を並べるだけの大型店
ではできません。客が客を呼ぶ、固定客をつかむのは創造性を発揮する「社内の共育
ち」なのです。
※本稿は「研究財団四周年のつどい」で話された吉田敬一先生の記念講演の前半部の
ポイントです。後半は「これからの企業展開の四つの視点」「経営環境が支援する仕
組みづくり」「墨田区・大田区のケース」などで、具体論を展開しておられます。
研究財団では五月末に、吉田先生の執筆パンフレットを発行しますので、楽しみにお
待ち下さい。
【文責 事務局・福島】