同友会のめざすよい社会とは
人間性も企業も大切にして
東海EC(株)(緑地区)
本稿は二月十三・十四の両日香川で行なわれた第二七全研の第十四分科会で石井正
己氏(愛知同友会・労務労働委員長)が行った報告要旨です。テーマは「社員の持
ち味を生かした企業づくりと活性化」で、詳細は五月に発刊される中同協誌(第五
十八号)をご覧下さい。
わが社の歩みは日本経済の縮図
わが社は一九五六年に先代である私の父親が創業し、電気設備工事の請負業から始
まりました。その後、配電盤や自動制御装置の設計製作を、そして電気計装工事を
行うようになり、この三部門を基盤に事業を展開してきました。
八九年にはバブルで一挙に年商が三十一億円へ、一年間で十億円アップ。その後も
六億円づつアップし、九一年のピーク時には三年前の倍の四十億円となりました。
しかし、そのバブルも崩壊すると、風船が割れるように元の二十億に戻るという、
まさにわが社は、日本経済の動向そのままの軌跡をたどることとなりました。
自由か、仕事か、決断の末の分社
バブル崩壊後、ある大手の顧客から「一社専属の下請にならないか」と希望されま
した。その客先は技術の秘密主義の希望でしたので「当然わが社はできない。一社
だけの下請は危険であり、自由がない。どうするか!客先を切るか!仕事を取るか!」
と、決断を迫られました。
その時、ある幹部が「専属をやらせてほしい」と申し出てきました。激論の末、分
社することになりました。
この方法だと、一人一人の人間性も大切にできるし、やりがい、ヤル気を引き出す
環境もできる。やらされ気分のうちは創造的な仕事ができない。分社は、その理想
に近づける人事システムではないかと考えました。
自社ではすでに「技術中心」に三業種の事業部がありました。「人中心」に考えれば、
一事業をいくつかに割っても良い訳です。
しかし問題もありました。互いの競争意識が強くなるなどもそうですが、一番の大
きな課題は、分社の社長になる人材教育です。
とにかく、二名の社長ができ、一事業部を二十〜三十名で割り、六事業部と二分社へ
進みました。当然大きな変動がありましたので、痛みも伴いました。バブル期に入社
し、物質的豊かさのみを会社に求めていた社員の多くは退社していきました。
「理」と「情」のバランスが大切
またある時、ある部門長が会議の席上、競争意識から口をすべらせて「残業時間の手
当てカットをやりたい」と言い出しました。当然、この論議にみんなが反対し、ブレ
ーキをかけました。
私は「『経営者マインド』(資料)がしっかり理解されていないのようでは、あなた
は分社の社長になれない」と、はっきり言いました。これが中心にすわらないと、会
社がバラバラになるからです。
このようにトップと社員との信頼関係の構築には、表のフォーマルな面では「経営ビ
ジョン構築のコンセプト」を通して、経営のあり方を理解してもらいます。
しかし、人間というのはとかく「まだ裏があるのではないか」「本当かな」と、疑心
暗鬼になる部分があります。それを解消させるのが、姿勢や行動を通じて認められた
社長の人間性です。
単なる表面的というのか、理論面とかだけでなく、もう一方で人の気持ちを理解する
ことができる感性、「情」という部分が、どんな時代になっても大切なのです。
客先から喜ばれる「おたく」社員
わが社はバブル期で「人手不足倒産」がさけばれた時代、無理して採用した人材は育
たなかったのですが、細かく注意して指導が行き届いた人には例外もありました。
いわゆる「パソコンお宅」の社員は、どの部門からも不必要のレッテルを貼られてい
ましたが、適材適所といえるかわかりませんが見事にはまり、成功しています。
ある社員は人の嫌がる徹夜を平気でやり、ソフト開発をしています。他人から見ると
「こんな苦労をなんで…」と思うのですが、本人は夢中になっています。
またある人は、工場での制御システムの最終調整を喜んでやっています。やはり他人
から見ると、最終段階の調整はちょっと誤ると今までのソフトがダメになって、恐れ
るものですが、その人は喜々として、一生懸命仕事をやってくれます。
やる気を引き出す「ほめ探し運動」
彼らの持ち味である自己実現の欲求を満足させるために当社では「ほめ探し運動」を
行っています。ほめられると彼らは本当にいい側面を出しますし、ある事一つに絞っ
て思い切ってやらせると、すばらしい力を発揮します。
社内の音楽部など文化活動の経験から、この「ほめ探し運動」を展開中で、経営の中
にみえざる資産、本当の資産づくりが、わが社の「人間尊重」の組織風土であろうと
思っています。
右肩上がりの生産拡大が期待できない時、人材教育が結局は一番のコストダウンだろ
うと思い、現在は「人事考課のオープン化と複々路線化」を進めています。
しかしこの為には、管理職の評価能力を高める必要があり、現在、評価者訓練を強化
しています。
社内の会議を教育の場として
会議は教育の場であり、役員会のみ私が議長ですが、他の会議は幹部社員が議長とな
り、進行しています。事前の打ち合せを重視し、会議の内容、しかけづくりなどを充
分に行うようにしています。
実際に会議をやっていると情報のとり方の悪い社員もいて、「自分がなぜそんな事を
聞いていなかったのか」と気づかせるようにもしています。
会議を準備する内で、一人一人が成長していけるような仕組づくりをし、「実務の中
での『気づき』の教育である」と考えています。
同友会で学んだ「シンク・トゥゲザー(共に考える)」
分社のシステム化で、人が育ち合う環境づくり、「つぶしのきく人材」づくりを、そ
して、自分の育つことが面白くなる仕組みづくりができる様になってきました。
これも様々な会議などを通して話し合い、知恵を出し合ったからで、まさに同友会の
「共に考える“シンク・トゥゲザー”」のお陰です。
このボーダレスの時代、猶予期間はありません。今こそ異業種の仲間で考える時です。
最後に、自立自尊の企業家精神があれば、中小企業にとっても大変良い時代になるの
ではないかと、心ひそかに期待しております。
【文責 事務局・内輪】