第36回定時総会記念講演
「構造改革」と中小企業経営
山口 義行氏 立教大学経済学部・助教授
(最終回/三回連載)
自己革新力を内包した共生関係づくりを
二十一世紀へのキーワードは二つあります。一つは『自己革新的共生』という言葉です。言いかえると「自己革新力」です。
これからはこの「自分を変える力」を持っていないと話になりません。そういうものを持った上で、経営者同士が共生関係をつくれるかどうかが重要だろう、と思います。 日本の古い商店街や、創業社長にありがちな「自分の仕事だけをやっていればいい。隣の店や同業他社からどう思われようと関係ない」という考え方では、その地域や業界全体が、活性化しなくなってきます。
アメリカでは、自分たちのモール(商店街)にふさわしい店を世界中から探し出すことで、モール全体の活性化をしています。
日本でも、関西を中心にして、中小の運送業者がネットワークを組み、大企業にも匹敵するシステムをつくり上げています。競争や傷のなめあいではなく、自己革新力を内包した共生関係を、どういう方法で作り出していくか。これがキーワードだと思います。
大企業並みの意識になっている中小企業
もう一つのキーワード。これは『感動』という言葉になると思います。
私は最近、「変わろうとしている大企業、変わってしまった中小企業」ということをよく言っています。
大企業では今までのやり方が行き詰まってきました。分社化などをして、中小企業のように、きめ細かくやろうとしています。これが大企業のやり方です。
逆に中小企業は、コスト計算や利益計算、管理のやり方など、いろいろ覚えてきました。「いかに合理的にやるか」ということで、意識がどんどん大企業並になってきています。
大企業が「中小企業のようになろう」という時に、中小企業はだんだん大企業のようになってきた。残念ながら私は、こういうことを実感しています。
逆転した小廻り性
例えば家電では、消費者は買った後のメンテナンスを考え、言えばすぐ来てくれ、面倒も見てくれる地元の小売店で買っていました。以前、私は中小企業を誉める時に「こういうところがいいんだ」と言ってきました。
今は逆です。大企業は完全に小回り性を販売システムの中に組み入れました。電話するとすぐ来るし、他の家電の相談にものってくれます。数日後には部品を持って修理に来てくれます。
これは中小企業がやっていたことです。これを大企業は完全にシステムの中に入れてやっているわけです。
逆に中小企業は、社内でしっかりとした分業関係をつくり出そうとしたした結果、かつての大企業の道を進んでいます。
「感動」にコストを
アメリカのノードストロームは「品揃えは絶対任せて下さい」という店です。ある商品がバーゲンで出ていて、その時に自分に合うサイズだけがなかった。「このサイズないんですか」と聞くと、すぐ他のノードストロームのお店に聞いて、それでもないと、競争相手の百貨店まで行って買ってくるんです。
「そういうことをしてお客さんに『すごい』と思わせなさい、感動を起こさせなさい」。そういうことに、彼らはコストをかけています。一日あたり何十ドルというふうに、きちんとやっているんです。これが中小企業のやりかたなんです。
日本の中小企業は危機だと思います。なぜか。こういうキメ細かな、一つ一つの言葉や行動によって「来てよかった」と思ってもらえるようなことが、できていない。
確かに中小企業は、勉強して、コストと利益の計算がしっかりできるようになりました。しかし、いちばん肝心なコストの計算が一つ、頭からすっかり落ちてしまった。それはなにか。
目に見えない消費者のコスト
消費者のコストなんです。消費者は商品にお金を払うだけではないんです。私が背広を買いに行った。結果、自分に合うモノがなくて、帰ってきた。半日つぶした。
このように見えないところで、消費者は大変なコストを払っているんです。
がめついと言われる奥さんたちだって払っています。ムダな時間がたくさんあるわけではない。その時間でパートをやったらどれくらいの利益になるか。
こういうコストを払っているので、そのコストに応えなければいけない。消費者が半日や何時間という時間をつぶして来る.
このコストを計算するのであれば「来てくれてよかったな」「来てよかったな」という感動をどう起こすかということを、真剣に考えなければいけません。
中小企業らしさをとりもどそう
私は会員有志の勉強会である「アントレ会」で提起しました。「これから、感動収集月間というのをやろう」と。「自分が消費者としてこれに感動した」、あるいは「自分がやったことでお客さんが感動してくれた」、そういう経験を、何でもいいから社員の人にも言って、みんなで大量に集めようと。
そして全部並べて、そこから「これなら俺もできる」「これなら製造業の自分でも真似できる」、そういうものを一つ一つ探して、もう一度中小企業らしさを取り戻すという運動をやりましょう,こういう提起をしました。
そして、ありがたいことに、皆さんに賛同していただいたので、次回は感動あふれる会になるだろう思ってます。
ぜひ、皆さんも一度、こういうことを思い出してやって頂きたいと思います。
【文責 事務局・井上】
規制緩和と業界(4)
規制緩和に揺れる自動車部品商業界で
山下 藤雄 褐輪社
(北中村地区)
自動車整備業界では
整備工場では、六カ月点検の廃止、二十四カ月点検の項目減少、前検査・後整備の導入などにより、従来は取り替えていた予防整備部品が取り替えられなくなり、補修部品の需要減少になっています。 また、これまで資格、建物、検査機器などの条件が制限されていた認証工場が、整備項目を限定したものに緩和されるなど、大型用品店も整備業界に参入し始めました。
この結果、価格競争が激しくなり、売上減少の原因になっています。
外圧で大きな影響が
日米政府間の取り決めにより、外国製の自動車部品が入るようになりました。この政府と大企業による社外品販売拡大施策に、業界全体が大きく戸惑っています。
また、外国資本の損害保険が入ってくれば、価格対抗のための代理店飛ばしはもちろん、DRP(ダイレクトリペアプログラム)と呼ばれる保険会社、指定工場、ユーザーの三者による事故処理が行われようになります。
これにより指定鈑金工場以外では、仕事量にも多大な影響があり,さらに無保険者ユーザーの構成が多くなり,経営体質の悪化になると思われます。
提案型企業への模索
当社では規制緩和に対する手段として、提案型企業をめざしています。
最近のユーザー車検は、車検費用に含まれている税金と修理実費をユーザーの別途負担とし、車検代行料だけの値段を掲げています。一見安く思えますが、後々の部品交換や修理まで含めると、返って高くなります。
先の保険の例でもそうですが、金額だけを安く見せることは、ユーザーの不利益になることがあります。
当社では、こういう値段だけではわからないことを「お客様にオープンに」と提案しています。規制で守られていましたから、「いまさら何故そんなことを」という業界です。
しかし、私達の提案を理解してださるお客さんも、少しづつ出てきました。全社員がこういう提案をするために、社員教育の必要性が、今さらながら高まっていると感じています。