中小企業の賃金相場は?
社員一万三千名の生データを集めて

北見昌朗竃k見式賃金研究所(名西地区)
名西地区会員で同友会内でも精力的に例会講師などを務められる賃金管理専門コンサルタントの北見昌朗氏(竃k見式賃金研究所・所長、名西地区)は、独自に中小企業の社員の年収を集め、賃金統計を構築されています。この統計では、東海地方の中小企業四百社、社員数は一万三千人に達しており、愛知県下の社員数は九千百人のデータとなっています。調査の内容は一九九六年の年末調整の源泉徴収票に記載される年収で、賃金だけでなく、賞与、時間外手当などを含んでいます。北見所長より貴重な調査結果とその分析結果について寄稿いただきましたので、本紙で掲載させて頂きます。(広報委員会)
社員数、業態別などデータ加工も簡単に
正社員三十人未満の中小企業では、管理職は五十歳時点で六百八十万円、男子一般社員はピーク時の四十五歳時点で五百三十万円をもらっていますが、その後は下降曲線に入っています。女子一般社員は三百万円前後でほぼ横ばいです。集めたデータはグラフ上にプロットしており、横軸は年齢、縦軸は年収。社員は管理職(課長以上)、男子一般社員(係長以下)、女子一般社員の三種類に区分しており、管理職=黒点、男子一般社員=青点、女子一般社員=赤点になっています。(この紙面が白黒であるため、読者が読み取れないのが残念です)データは「エクセル」によって加工できるため、従業員規模、業種などにより検索が可能で、例えば「愛知県下―正社員数三十人」「愛知県下―製造業」などと設定すれば、関連したデータだけを簡単に抽出できます。
愛知の会員企業では?
ゆるやかな上昇曲線を描く管理職
愛知同友会の会員企業は、正社員数三十人未満の企業が多いので、「正社員数三十人未満―全業種」という設定で検索したのが紙面上のグラフです。管理職をみてみると、三十歳時点で五百九十万円、五十歳時点で六百八十万円になります。男子一般社員のように下降曲線に入ることはなく、一貫して上り続けています。このカーブは「管理職は頭脳労働だから年齢とともに衰えがくるとは考えにくく、それで一貫して上がり続けるのだろう」と分析します。
男子一般社員は45歳がピーク
男子一般社員をみてみると、二十代の頃は急速に上昇し、三十歳時点で平均四百四十万円になっています。ピーク時は四十五歳で五百三十万円まで上りますが、そこから下降曲線に入り、六十歳時点で四百三十万円になります。管理職と男子一般社員を比較すると四十五歳時点で百万円の差があり、六十歳時点では三百万円も差があります。このカーブについては若い頃は昇給額が大きいことや、残業時間が長いことで急激に年収が増えるのでしょう。四十五歳以降に下降曲線に入ることについては分析が難しいですが、おそらく転職して賃金が下がったのではないでしょうか。現場的な仕事は四十五歳以上の中高年齢者の再就職が難く、また肉体的な限界から残業時間が減ったことも考えられます。
女子一般社員は年齢を問わず横ばい
女子一般社員をみると、年収は年齢を問わず横ばいで、三百万円前後に留まっています。この要因として、女子の点(プロット)が三十代前半のころに非常に少なくなっており、これは結婚・出産のために退職しているのだと思います。四十代に入ってから再び点(プロット)が増え始めますが、男子と比べると勤務年数が短いことも要因して、低い水準になっているのだろうとみています。
社員30名〜100名の企業規模では
また、紙面では紹介できませんが、「正社員数三十人以上百人未満―全業種」という設定でも検索しました。それによると、管理職は五十歳時点で七百三十万円と、三十人未満の企業と比べて五十万円高くなっています。男子一般社員はピーク時の四十五歳時点で五百五十万円で、三十人未満の企業と比べて二十万円高く、女子一般社員は三百万円でほぼ横ばいです。
自社の賃金水準は?
この賃金統計グラフは希望者には無料で差し上げています。ただし、自社の社員の年収データを提供していただくことが条件です。年収を記入する専用用紙があるので、それを取り寄せて下さい。当研究所ではデータを提供してくれた企業の社員の点をグラフ上で(■)という記号で表示し、それをみれば自社の賃金水準が世間相場の中でどこに位置しているのか、社員間のバランスはどうなっているのか、一目瞭然でわかるようにしています。プロットをしたグラフと診断コメントを付けて約一週間後に郵便(親展)で企業側に返送します。調査にあたり、秘密は堅く守っており、社員名は書く必要はなく、社員番号だけでけっこうです。
生のデータで本当の統計資料を
賃金統計は各種機関から出ていますが、大きい企業を対象にしたものが多くて、従業員百人未満の中小企業ではあまり参考になりません。どうしても中小企業の本当の実態を表した賃金統計が必要だと思い、一九九七年初めから作り始めました。統計を作るにあたり、そのデータを集めるのが大変で、各地で講演会の講師として招かれた折りに、受講者に対して「社員さんのデータを出して下さい。そうすれば無料で賃金診断して差し上げますよ」とお願いをして、発表できるまでになりました。前例のない試みでしたが、経営者の中に潜在的ニーズがあったせいか、協力して下さる経営者が多く、おかげで公的機関の賃金統計と比べて遜色のない規模に発展させることができました。中小企業の経営者が昇給や賞与を決めるにあたって指標になる本当の賃金統計を作りたい。そのために必要なのは生のデータであり、中小企業はそれを提供してほしい。そして愛知県を代表する賃金統計になるように育てて欲しいと思います。