愛知県中小企業研究財団5周年のつどい
大田の中小企業から何を学ぶか 中小企業のネットワークを中心に(2月25日)
森川章氏名城大学商学部・助教授

昨年十一月二十六・二十七日に行われた愛知同友会の東京大田視察に参加された森川氏(名城大学商学部・助教授)に、研究者から見た「中小企業のネットワークづくり」について語っていただきました。
産業構造転換と空洞化問題
日本の産業構造が大きく変わろうとしており、産業の空洞化問題もこれからこの地域でも起こってこざるを得ないと思います。これまで軽工業から重工業まで,そして技術的には「ローテク」から「ハイテク」まですべて日本国内に備えるという、いわゆるフルセット型産業構造から、国際的水平分業型産業構造へ変ろうとしています。その中での日本とアジア諸国の関係は、センターと地方の関係に、つまり、日本は研究開発や高度技術生産を担当し、アジア諸国は汎用・量産品の生産を担当することになります。いま、空洞化問題といった時、その地域がどんな産業で栄えて来たのかによって内容が変わってきます。つまり、自動車より電機、電機より繊維の方が深刻ですし、地域間の問題でいえば、大都市圏より地方圏においてより深刻です。また企業間では、大企業より中小企業においてより深刻です。このように産業集積状況の違いに応じ,各地の空洞化問題とその対策は異なります。では愛知における産業集積の特徴と問題点は何でしょうか。以下東京大田区との比較で述べてみたいと思います。
大田と東大阪その比較より
東京大田区というと、一般的に「高度な金属加工技術を持った小零細企業の集積した街」「企業相互の身近なネットワークが発達し,『設計図を投げ込めば翌日には製品が出てくる』ような街」というイメージがあります。それをもう少し具体的に現わすものとして、東大阪と比較したアンケートの調査結果がありますので,まずご紹介します。まず生産・加工についてです。ロット生産が十個台以下の割合は大田五一%、東大阪三八%と、大田の方が小ロット生産が得意です。さらに試作業務の受注は大田六七・六%、東大阪は五二・一%となっています。従業員規模でみると,二十人未満が大田六四・五%、東大阪六一・二%となっています。しかし面白いことに研究開発従事者〇名の企業は大田二九・四%、東大阪二三・五%と、どちらも小零細にもかかわらず、約七割の企業に研究開発従事者がいます。取引関係では、同業者への外注が大田三五・五%、東大阪二八・六%で、非専属下請への外注が大田三八・二%、東大阪三七・九%と、ネットワークの存在を裏付けるものとなっています。それぞれの特徴を一言で言い表すと、大田は「企業城下町的複合型中小企業集積」(複数の大企業の仕事を複合的にしている)、東大阪は「地場産業集積的複合型中小企業集積」(大手の仕事より地場産業を中心にしている)と言えます。
では愛知の特徴はヒアリング調査より
愛知の特徴は何でしょうか。それを知る手がかりとなる調査は、愛知県に聞いても名古屋市に聞いても、やられていないということです。そこで、昨年四〜六月に独自に実施したヒアリング調査の結果によると、愛知の機械金属産業集積の特徴はおよそ次の通りでした。
@機械工業出荷額の巨大さに見あって、機械金属産業の一大集積がある。A高度な部品加工技術を身につけた熟練技能者も集積している。B熟練技能者の多くは、従業員規模で数十人から百人前後の企業の「生産技術課」に配属される形で存在している。(どの企業においても従業員全体の二割前後の比率を占めている)C一次・二次の下請企業はデザイン・インに応じる開発力を持っており、生産技術力は抜群に強い。D少数の例外はあるものの、小零細企業の生産技術力はかなり低下する。E部品加工業者相互のヨコの連携関係はあまり見受けられない。Fタテ系列で親企業に連なるだけなので、概してマーケティングに弱い。などの点があげられます。東京の大田や東大阪に比較すれば、愛知は「企業城下町的量産型中小企業集積」の色彩が濃いと思われます。
大田の歴史的・立地的特徴七〇年代からの空洞化
次に東京大田と愛知県の歴史的・立地的相違について見てみましょう。大田の歴史的・立地的特徴として三点ほどあります。第一に、空洞化問題がすでに七〇年代から始まっていたことです。七〇年代以降、三菱重工、東芝など三十二の大工場が区外へ移転し、オイルショック以降、仕事量の減少と親企業からのコストダウン要求に直面します。この過程で、一社依存の企業体質からの脱却が図られ,脱却の方向性として次のようなものがありました。@複数企業からの受注,A競合の少ない分野への特殊化,B量産下請企業は、営業と開発部門を残し、工場は地方へ移転,C自社製品(完成部品・完成品)の開発です。次の特徴として、大田は開発・試作関連業務を引き受ける小零細企業群であるという事です。大田区から川崎市にかけて集積している機械金属関係の企業群は、東京圏に本社と開発部隊を配置している多数の企業から出てくる開発・試作関係の仕事を一手に引き受けており,日本全体の中でも、特殊な立地条件にあるといえます。三番目には今回大田に行ってよく分かったのですが、行政を巻き込んだ中小企業家の運動が積極的に展開されているという点です。大田の持つ強みをアジアとの国際分業の中で積極的に活かす発想から、東京の大田から「世界の大田」へをスローガンに掲げています。また国内の他の産業集積地や研究機関とのネットワークを形成することにより、大田区にない物をネットワークを通じ,補完・補強しようとしています。行政の委員会の中にも同友会のメンバーが要請され,参画しています。
愛知の歴史的、立地的特徴とは
自動車に牽引されて
愛知の機械金属産業は自動車に牽引されて、九〇年代のバブル最盛期まで右肩上がりに成長してきました。もちろん繊維や陶磁器などそれより前から苦境に陥った産業はありますが、そういう産業を穴埋めする形で自動車関連産業が伸びてきました。そして部品生産の量的な拡大が続く中で、工場の移転や分工場の建設が展開されますが、その多くが愛知県内で展開され、集積の濃淡はあっても平野部の全域に広がっています。一次下請の企業は戦時期に創業したものが多く、また二次下請には、高度経済成長期に創業した企業が多くありますが、一次・二次を問わず、多くの企業が高度経済成長期に急速に規模を拡大してきました。
量産化と縦のネットワーク
次に東京大田と愛知県の歴史的・立地的相違について見てみましょう。大田の歴史的・立地的特徴として三点ほどあります。第一に、空洞化問題がすでに七〇年代から始まっていたことです。七〇年代以降、三菱重工、東芝など三十二の大工場が区外へ移転し、オイルショック以降、仕事量の減少と親企業からのコストダウン要求に直面します。この過程で、一社依存の企業体質からの脱却が図られ,脱却の方向性として次のようなものがありました。@複数企業からの受注,A競合の少ない分野への特殊化,B量産下請企業は、営業と開発部門を残し、工場は地方へ移転,C自社製品(完成部品・完成品)の開発です。次の特徴として、大田は開発・試作関連業務を引き受ける小零細企業群であるという事です。大田区から川崎市にかけて集積している機械金属関係の企業群は、東京圏に本社と開発部隊を配置している多数の企業から出てくる開発・試作関係の仕事を一手に引き受けており,日本全体の中でも、特殊な立地条件にあるといえます。三番目には今回大田に行ってよく分かったのですが、行政を巻き込んだ中小企業家の運動が積極的に展開されているという点です。大田の持つ強みをアジアとの国際分業の中で積極的に活かす発想から、東京の大田から「世界の大田」へをスローガンに掲げています。また国内の他の産業集積地や研究機関とのネットワークを形成することにより、大田区にない物をネットワークを通じ,補完・補強しようとしています。行政の委員会の中にも同友会のメンバーが要請され,参画しています。
加工の容易なものはアジア各地に移転
バブル崩壊後、空洞化の危機に直面し、自動車以外の産業(福祉、情報等)の発展が期待されるのですが、まだまだ模索中です。バブル崩壊後、トヨタが下請け会社に対しても系列外の取り引きを奨励する中で、なお下請に固執する企業も多く、なかには他の系列を食っている例もあります。また、行政サイドでも、愛知県や名古屋市は機械金属産業の空洞化対策として、明確な産業政策を打ち出せていません。自動車関連の仕事が減少するとはいえ、かなりの量は残り、自動車産業は依然としてこの地域の中心産業であり続けるでしょう。加工の容易なものから順次アジア各地に移転するでしょうが、そのスピードは繊維などに比べればはるかに遅いものです。この点は今日のアメリカでも多くの部品が国内生産されていることに端的に示されています。
新産業発展の展望と問題点
今後長期的にみれば、自動車の国内生産台数は、減ることはあっても増えることはないし、海外からの部品輸入の増大は避けられません。したがって、自動車産業以外の産業発展が求められています。新産業の発展を展望する上で愛知の問題点を指摘してみると、まず多くの企業が共同利用できる形で、基盤的技術が存在していない点が挙げられます。また各下請企業内に集積している膨大な熟練技能者の技能や技術も(これらは愛知が他に誇れる優位点ですが)、以下のような問題点があり、なかなか活かされないでしょう。企業レベルの問題で言うと、@製品開発に必要な市場ニーズを把握するアンテナが低い、A製品開発に必要な、自社の専門領域を越える分野の技術獲得に困難がある、B製品開発に成功した場合でも、それを販売する能力に欠けるなどです。また個人レベルでの問題で述べるなら、@熟練技能者が企業の従業員としてしか存在しないため、彼らは基本的には「業務命令」の範囲でしか動けない、A当然のことながら、企業の枠を超えた自由な交流は事実上許されないといった問題があります。
三つのネットワークを
愛知の機械金属産業が直面している課題や問題点は、産業の集積構造に深く根ざしているだけに、その解決は容易ではありません。この困難な状況を少しでも打開するために、@開発・試作業務の受注を可能にする加工のネットワーク、A異業種交流のネットワーク、B政策研究のネットワーク。この三つのネットワークを意識的に形成することを最後に提言し、まとめとしたいと思います。
【文責事務局・山田】