●第1分科会
次世代につなぐ製造業のあり方〜技術力をベースにした独自戦略の構築〜
「機械以外もわかるだろう」
吉川正道氏(株)吉川機械製作所・社長
(株)吉川機械製作所 創業:1961年 資本金:2000万円 年商:4億円 社員数:18名 業種:食品製造機械の製造
完全責任施工で
当社は、大府市で食品製造機械を中心につくっています。「他社がつくらない機械を」ということで、設計・製作から制御盤まで、すべて社内でまかなっています。工場で作った機械がそのまま順調に動くことはまずあり得ません。現場でどんどん修正をかけて完成・納品といった具合ですから、完成した時、当初の見積りをこえて損をすることもあります。わが社では「完全責任施工」と言っていますが、注文をいただいたら、難しくても必ず完成までこぎつけます。これが長い目でみて、信用につながっていると思います。

自社で実際にお菓子をつくる
私はあるお菓子を作りたいという時に、「こういう構造で機械をつくればこういうものができます」といった機械の話はしません。まず最初に、せんべいなら「このせんべいはどうやって作るか」から説明しています。会社にはミキサー・鍋・水飴・砂糖などのお菓子材料が用意してあります。つまり、原料づくり・商品づくりから入っていくことで、お客さんには「こうやって作ればこういう原料の特性だから、こういうものができるよ」とアドバイスができるわけです。そうして充分納得して頂いてから「うちで機械もできますよ」となるわけです。当社は費用の3分の1は先に現金でいただくようにしていますので、いかに受注までの信頼を得るかが鍵です。
お客様にとっての「便利屋」として
私は普段メカの勉強はほとんどせずに、もっぱら食品業界の勉強をしています。また、お客さんのところに行っても営業の話は30分程度で、4時間位は現場で製造してみえる方と立ち話といった具合に、情報を取り入れています。現場ではこういう原料を使っているとか、こういうものを作っているということを教えてくれるんですね。当社への問合せは、機械の修理が半分、商品づくりの相談が半分です。他にも設備近代化資金などの手続代行依頼だとか、協力できそうな同業社の紹介だとかもけっこうあります。当社の強みといえば,「アイツの会社に聞けば機械以外のこともなんとかわかるだろう」というプラスアルファの評価を作ってきたという点にあると思います。
安定受注のために
先ほどお話しました通り完全特注ですので、売上が今月は300万、翌月は6000万ということが多々あります。毎月安定した受注が欲しいと思っていましたので、同友会の異業種交流グループの協力で、ダイオキシンの出ない焼却炉を新たな柱として開発しました。ほぼ市販できる状態になり、将来的に定期的に売れる商品になればと思っています。こうした量産品も手掛けることで、効率生産、できるだけコストの安い状態で安定した商品づくりもめざしたいと思っています。
「なんでも受けてやろう」
津田豊造氏(株)津鉄工業・社長
(株)津鉄工業創業1965年資本金1000万円年商2.3億円社員数11名業種金属部品製造
「特徴なき何でも屋」
わが社は主に切削加工で、自動車部品や組立機械部品などを作っているいわゆる下請会社です。わが社では、まず短納期を、次に完成品対応を追求しています。発注側は完成した部品を期待しますから、材料・切削・研磨・表面処理まで完全に対応できることが必要ですし、完成品で対応できないと部品の幅が狭まってしまいます。もう一つはあらゆる部品への対応です。1個2個から1万2万と様々なロット数があり、また、小さいのも大きいものもあります。そういったあらゆる部品の対応を心掛けてきました。そういう意味ではわが社は「特徴なき何でも屋」と言えます。技術に専門特化することはすばらしいことだと思いますが、こうした技術が当社にはありません。わが社が存続できたのは、「何でも受けてやろう」という姿勢があったからだと思います。
工程設定力で他社と差別化
製造業はどこでも工程設定をします。材料・ロット数・精度、そして形状が決まり、工程設定が決まったら加工設備が決まります。次はその設備を使っての加工技術です。これは人間の技術ですから、機械を使いこなす技術力が必要となります。わが社は設備力、加工技術の人間力ともに弱いのですが、なんとかやっているのは,工程設定の工夫があるからです。たとえば、普通マシニングセンターでやるようなことをNC旋盤で加工すると、工程がまるっきり変わりますので非常に大きな差が出ます。穴削りに関しては、NC旋盤の方が精度的にも時間的にも短縮できます。そういう意味で、自分の一番得意といいますか、他との差の出る部分が、この工程設定力ではないかと思います。
中間ロットにターゲットを
わが社にとってはロット数百〜5百といった3桁の数量が得意ではないかと考えています。この数量は中途半端な数量です。この中途半端な数量を作る時、先程の工程設定、また人間の作業者の頭の中の量産ノウハウが活かせます。近年では、自動車部品の取り扱いを段々と少なくしています。何万個というロットは単価が非常に厳しく、その単価に対応する能力が、わが社にはないからです。今後はさらに少ロットや中間ロットといったものを作っていこうとしています。さらに得意先において、体制内での弱い部品というのがあります。こうした弱い部品をわが社が補完する。これがやはり狙い目の一つだろうと思っています。
座長(加藤氏)まとめ
2社とも、もともと持っている技術力をベースに強みをつくりあげていると思います。やはり技術を育てている過程が大切です。「うちの強みはこれです」と、ぱっとひらめくんじゃなくて、各社とも歴史がありますから、もう既にベースがあるだろうと思います。それを戦略にする上では、外へ向ける目と内へ向ける目の両方が必要です。外に関しては、自社の強みをお客様に理解・納得してもらっているかです。内に関しては、確立した強みをベースに品質・コスト対応に取組んでいるかだと思います。
【文責事務局・多田】