●第2分科会
これからどう変わるのか?日本の流通業〜アメリカ流通業最前線に学ぶ〜
森靖雄氏日本福祉大学経済学部・教授
1935年生。愛知大学大学院経済研究科経済史専攻修了、同法学研究科を終了し、現職。日本流通学会理事・中部部会長を務め、地域の主役である小規模業者問題にも関心が強い。
日本の小売・サービス業はアメリカを10年遅れで追ってきました。今後もそれは続くと思います。昨年は兵庫、今年は愛知でアメリカ視察を行い、このことを強く感じました。運送・卸売などの流通業はすべて連動していますが、今回は小売業に焦点をあてて話させて頂きます。
技術の問題として小売業を見ると
日本の小売業は真心とか、お客様本位とか、極めて主観的なことで終わっている店が多いのが現状ですが、「売る」という技術の問題をもっと自覚すべきです。商品の並べ方は陳列技術ですし、お客さんとの対応は接客技術、宣伝の仕方は宣伝技術、そして店の看板や雰囲気づくりは演出技術です。最近の若者はデジタル思考でドライなので、いくらこちらが主観的に尽くしても、相手に伝わらなければどうしようもありません。真心は技術的な土台の上にのって初めて,花が咲くのです。

50年遅れている日本の陳列技術
陳列技術を例にとっても、日本は非常に遅れています。低い台にべたっと並べる市場のお魚屋さんのやり方から、約70年前に商品陳列ケースが入り、第二次大戦後は立体方式の棚が導入され、今でも大型店以外はそのままです。ところが、アメリカに行きますと、目を見はるような陳列が行われています。入口通路から店の奥まで商品が見渡せ、店全体がショーウィンドウのようです。店内ではリンゴの横がとうもろこし、そしてナス、セロリと、いかにも「今、新鮮なものが届きましたよ」「カゴから空けましたよ」とばかりに店先に並べられ、しかもピカピカに磨いてあります。陳列デザイナーの導入で約15パーセントの売上アップです。ただの通行人も店に入れば、立派なお客さまで、営業上かなり重要なことです。
顧客の満足度は時代と共に変化
商品を置けば売れた時代から、オイルショック後、需要動向が急変しました。80年代は、多種多様の商品をより安くが、中心的コンセプトでした。結果、店舗の大型化競争が起き、アメリカでいうと、その頂点が「モール・オブ・アメリカ」で、4.6万平方メートルの売場面積です。日本上陸の話もあります。しかし欲しいものはせいぜい3〜4つ。それを探すのに時間をかけるのはバカバカしい。近年は安いだけでは飽き足らず、コンビニエンス性、そして「ゆとり感」にコンセプトが移動したと見ることができます。
楽しい、相談もできる
80年代全盛だった「トイザラス」を「FAOシュワルツ」が追い越しました。店内がおもちゃ箱をひっくり返したように、大人も子供も楽しくなる店づくりです。またホームセンター業界では、プロの相談員を配置して建築分野にも影響を与えた「ホームデポ」や「ホームプレイス」では、台所やバスルーム等をいろいろなモデルにセットしています。客に一つだけ買わせるのではなく、「あぁこういう感じがいいのか」と思わせ、いくつも買って頂くのです。
明確なコンセプトを
日本では「お客様本位」と言って、ともすれば主観的でかなり的外れなことを一生懸命やっていたりします。しかしアメリカではコンセプトが明確で、何をお客さんに満足させるのかを,はっきり打ち出しています。顧客満足度を高める最も具体的な方法は、店の主張や考え方・個性を商品構成で明確にすることです。馬ばっかりの玩具や飾り物とか、自然環境だとか、体感レストランだとかというように、店頭を見ただけで,テーマが感じられるというやり方です。「スターバックコーヒー」や「COCO壱番屋」などが、ほんのちょっとの隙間や違いからコンセプトを明確に打ち出し、大成功した例として参考になります。
一人一人にあわせて
アメリカのデパートではお客さんの獲得の仕方が変わってきました。従来はチラシやDMで新規顧客を一人増やすのに経費が7万円程かかっていました。今は、すでに来て頂いているお客さんを分析して、一人にもっといろいろなものを買って頂くようにする。より少ない経費で確実に売上げをあげようとしています。マス方式から、一人のお客さんの趣向や家族構成に合わせてマーケティングをする方法に変わっています。
小さな変化の積み重ねが
少しの変化の積み重ねが、他業態へも影響する大きな変化を生みます。例えば惣菜がそうです。昔は残りもので作られていましたが、今は需要が増え、新しい材料で種類も豊富に、また最も優れた産地の材料を使うようになり、味も良くなりました。作り手も近所のパートさんで、おふくろの味のセミプロ。「お母さんの作ったものよりおいしい」と、ますます需要に拍車がかかっています。今の世の中でお客さんのどこがどう変わったのか。少し考えてみるだけで随分違ってくると思います。
暮らしやすい地域づくりが基本
広大な国土を車と通販と冷蔵庫で生活するアメリカの方法が、そのまま日本に通用するわけではありません。住宅地の小さなショッピングセンターである商店街をジャマするような形で大型店が来ると、大騒動になる国です。高齢化や都市が空洞化しつつある今、あらためて暮らしやすい地域づくりが求められていますし、小売技術の遅れを解決し、日本独自のオリジナルな小売業が形成されることを期待しております。
【文責事務局・加藤】