●第5分科会
1ページだけの経営指針
長山伸作氏(株)一光社プロ・社長
(株)一光社プロ 創業:1973年 資本金:1000万円 年商:1.4億円 社員数:11名 業種:広告プロダクション
家業から企業へ
会社をはじめて5年ほど経った頃、日常業務にも経営にもコンピュータが必要だということで導入を始め、SE担当を一人決めて、経理も任せるようにしました。ちょうど長女が誕生し、家内が会社へ出られないということで、思いきって会社から外しました。1987年頃には求人もしましたが、本社が南区では来てくれません。やっと入ってもらった子が、今では見事に一人も残っていません。お金を使って人を採っても、育つ前に辞めてしまう。その繰り返しでした。バブルの頃は「CI計画」というのが流行りました。大企業が社名変更すると、看板から制服から書類からすべて変えなければいけないので、相当な予算がかかります。当社は広告関係の仕事をやっていますから、こういう仕事のお手伝いを手がけました。業務として会社案内を作る上で、経営計画や経営指針があれば解りやすいのです。業務と絡めて経営計画を立てようということになったのが1993年のことです。

なんのために?
私の一人娘はまだ高校2年生です。私がリタイヤする10年後でもまだ20代。その頃には、当社の技術肌の幹部社員は50歳を過ぎています。ですから当社の場合「後継者は社員または外部の人間」というのが大前提です。その上で経営計画を作る目的は何なのかというと、「事業継承できる経営の計画である」ということです。これをコンセプトとし、それに従って理念をどう構築するか、いろいろやりました。理念は、経営者の想いを入れ込んだものです。あとから直していくのは、社員と一緒にやっていくことです。こう考えて、最初の経営計画書が完成しました。経営計画が社員に理解される前提条件とは、経理公開です。これがない限り、いくら数値目標を掲げても、社員には理解できません。とくに当社の場合、他人に事業継承するのですから「早めに経理公開したら」ということになりました。当時は、経営状態はあまり良くなく、自分の資産も目減りしており,公開した方が緊迫感があっていいだろうと、「私の資産と現金の積立と、家内と娘の貯金もあわせてこれだけしかないから、自分たちで計画を立てて、儲かるようにしよう」と公開しました。
何度もつくり直して
1995年に第2支部の経営指針ゼミに参加しました。当時、すでに15〜6ページの経営計画ができていましたので、それと照らし合わせて,自社を見つめながら講義を受けました。97年には社員への事業継承をビジョンとする経営指針が完成し、経営理念・経営方針・経営計画の3部でまとめました。解りやすいものを目指しましたが、まだ社員にとっては複雑で、ページ数も膨れ上がっていました。もっと簡単にしなければと思い、翌年は3分の2に減らし、簡潔にするように心掛けました。そこでは、「社長が65歳でリタイアし、事業継承を完了する」という10年計画を発表しました。発表会は、取引銀行や主力会社の方々、同友会の地区の会員の方を招いてやりました。経営計画と言うと、「激変の時代に、計画はすぐに役に立たなくなる」とか、「ビジョンの構築のしようがない」とかいう話をよく聞きますが、永久に継続させていくことを目的するのが経営です。
まず1ページを
経営計画は、最初に始めるときは、1ページだけでいいと思います。一度に何10枚か作ろうと思うと、頓挫してしまいます。だからと言って、すべてを任せられるような腹心の人間や、会社をよく知っていて統率力もある部下も、なかなかいません。ならば「1ページの経営計画をつくればいい」と思います。たとえば当社の場合、月次で大体の予想を出していますので、仮の決算で経営計画の発表会をします。固定費や経常利益を確認し、新年度の目標を決めます。そのときに、目標数字を書きますが、その根拠は絶対必要です。必ず入れてください。経営理念というのは、自分の好きな言葉や座右の銘にしている言葉、自分の尊敬する人の言葉を借りる、そういう形で、とりあえず社是やスローガンとして掲げます。その上で、経営課題が絶対必要です。例えば、インターネットで、社内や社外ともデータ転送でやろうとか,せめて3〜5項目を挙げておくべきだと思います。
後は社員を巻き込んで
初年度は、経営計画・理念・経営課題の3つで大丈夫です。これで経営計画が完成したと思って間違いないんです。将来的には、スローガンが経営理念になるんです。経営課題は改革したいことを箇条書きで。経営計画は前期の決算書の横に、次期の目標とその根拠を書く。これを社長と幹部社員とでつくればいいんです。2年目に入ったらこれをふくらませていけばいいわけです。先程のスローガンを理念として整理する。社長の哲学をコンセプトとして捕らえれば整理できます。経営課題は、1年経って、できていないものがあれば、もう1年継続して取り組む。また、新たな課題も出てきます。前期の経営課題を分析するときには、こういう視点で、新年度の経営課題を同時に作ります。これでまた1ページ増えます。前期の計画分析も同じです。追加点として何があるか。反省点として何があるのか。2年目はこれに関して社員を巻き込んでやる。2年目には、そろそろビジョンです。社員の夢を設定します。1年目は1ページ、2年目はこれで2ページになったんです。この作業を継続していくことです。当社では、各課の経営目標を総務に立てさせています。そうすると、各課の目標が1枚づつ増えていくんです。3課あれば3枚増えます。こうしてふくらませていけば、初年度は1枚だけの経営計画でも、3年経てば立派な経営計画書になっています。
【文責事務局・井上】