●第6分科会
21世紀のリーダーにどんな能力が求められるか〜若き経営者(ニューリーダー)の幹部育成秘話〜
本気で社員とやりあえますか
岩田真人氏(株)岩田レーベル・社長
(株)岩田レーベル 創業:1962年 資本金:1億5830万円 年商:25.5億円 社員数:132名 業種:タックラベル及びラベリングマシンの製造販売
人との関わりの中で
父が創業をしたのと同時に私が生まれ、大学卒業後、他へ就職をしました。3年目に今の会社へ入り、その後副社長になって半年後、父が急逝。社長に就任することになりました。社長になって1年目は売上は増えましたが利益が減少、2年目が終ってみると売上が10パーセント落ち、利益はマイナスでした。2年目に入って、製造部門の責任者に、「あまり勉強をしていないし、変化が見られない。後進に身を譲ったらどうか」ということで、一般社員になってもらいました。その社員は半年後に退職していきました。この人事で社員の中に不安や不満が渦巻いたことは事実です。他の幹部からも「なぜあんな人事を行ったのか」という批判も出ましたが、一切反論せず、1日1日を悔しさと情けなさで歯を食いしばりながら過ごしました。この事だけを取れば非常に大きなマイナスの経験のようですが、人と人との関わりの大切さを学びました。

古参幹部と激論
3年目からは社員に感謝する気持ちを口にできるようになってきました。経費の節約などの努力もしてきましたが、利益が元へ戻ったのは、思いを感じ取ってくれた社員一人一人が努力してくれた結果だと思います。4年目がこの10月からスタートしたのですが、その中期計画を立てるに当たっての会議の中で、将来どうしていきたいかという私の想いを発表したところ、「先代の片腕」と言われていた幹部からことごとく反対され、ガンガンやりあいました。そのぶつかり合いの中、わが社は国際化の流れの中でISOを全部取るんだという方針を出したところ、ある幹部が自発的にやらせて下さいと申し出てくれました。方向性を示して納得すれば、動いてくれるのです。21世紀の経営者というのは、より人間的、本質的なものが求められるのではないかと思います。本音というより本質で社員とやりあうことのできる会社をつくっていきたいと思います。
人の痛みがどれだけわかるか
山本靖也氏(株)キョウエイ・社長
(株)キョウエイ 創業:1978年 資本金:1200万円 年商:11億円 社員数:12名 業種:各種工業用ヒーター製造販売、プラスチック部品販売
単身名古屋へ営業所を開設
当社の本社は広島にあって、仕事は自動車の試作部品特にプラスチック部品を扱っています。社員数は12名ですが、20代の若い社員が中心です。昨年の売上は約10億円でした。創業以来5〜6億円であった売り上げがバブル時には9億円になり、はじけると2億円まで落ち込み、もうだめかと思いました。そんな時「おまえ、名古屋へ行って営業所を開設せえ」と、父親である社長から言われ、単身名古屋へ。今では,まあまあの数字を出せるまでになりました。今年の3月3日、社長と話をしていた時、広島本社を見ていて気になったことを話しました。それは、社長の看板が大きすぎ、若い社員が育っていないという事です。お客様からのクレームなどのすべての問い合わせに対し、社長は「そんなんそっちで直しとけ」で終わり。というように,社長の看板でやっている会社でした。これでは若い人も育たないし、会社の将来にも問題があると思い、社長を譲って欲しいといったのです。すると即その場で代わろうという事になったのです。
ド素人から営業に
社員教育は「自己責任型」でやっています。社員自身が結論を出し、結果報告だけをしてくれと言っています。任せる事によっていい信頼関係が生まれ、自信と誇りを持って頑張ってくれています。父親は知識のない者を外に出したら失礼だと、じっくり社内で仕事を覚えさせた後でないと、営業に出しませんでした。私は父親と違い、とにかく体験させることだと思っています。壁にぶち当たり、自分には何が不足しているかよく解りますから、勉強する気になるのです。ところが、最初から押し付けで研修等を受けさせても、なかなか知識は身につきません。リスクは大きいけれどお客様の協力を得て、ド素人から営業へ出すということをやっています。21世紀のリーダー・幹部社員に求められる能力は人の痛みの解ることだと思います。人の痛みの解る人間をどれだけ育てられるかで、世の中は変わってきます。最後にわが社のロゴマークは地球で、経営理念は「全ての人に幸せを」です。この理念で地球を被い尽くすことをめざして、社員と共にがんばっていこうと思っています。
■パネル討論より■
☆コーディネーター平原茂樹氏コンサルティングソフト研究所・所長
【平原】
組織ができあがり、自分より年齢もキャリアも上の幹部の中に後継者として入った岩田さんと、組織もなくほとんど自分より若い部下という山本さんというまったく立場の違うお二人です。経営者は誰だって、一旦雇った人間を辞めさせたくはありません。それでも辞めさせざるを得ないということは、それなりに理由があるはずです。要は、そのことが他に与える影響なのです。例えば不安と不信で組織がガタガタになってしまい、経営者に対する信頼がなくなってしまう場合があります。従ってそのへんのやり方は理屈ではなかなか通りません。岩田さんにお尋ねします。結果的に幹部を一人辞めさせたわけですが、その影響は別として、そのこと自体は会社にとって良かったですか。悪かったですか。
【岩田】他分野で生かせる能力はあったかと思いますが、幹部としては辞めて頂いて良かったと思います。
【平原】それでは今残っている幹部は全員がいわゆる『できる』人達ばかりですか。
【岩田】必ずしも,そうではありません。
【平原】どこの会社でも理想的な幹部だけを抱えている訳ではありません。幹部とはそれぞれの役割として、経営トップの代行をしてもらう立場ですから、その能力があるのにやってないのなら、激論をしてでもやってもらわねばなりません。今のような状況では、これまでと同じ物を、同じところへ、同じ方法で売っていたのではマーケットがしぼんでいるのですから、売上げが下がり、利益がなくなるのは当然です。売上げを上げるには売る物を変えるのか、売り先を変えるのか、それとも売り方を変えるのか、何かを変えなければなりません。岩田さんの会社の幹部も、こういう発想を持っていなかったのではないでしょうか。また経営者も、幹部を説得できるように、データーや資料を準備しておくことが必要です。山本さんの場合、突然先代に社長を譲れと言って、すぐに譲られたというお話です。しかしトップとナンバーツーでは雲泥の差があるものですが、譲る側のお父さんには不安はなかったのでしょうか。また山本さんには、本当にやっていく自信があったのでしょうか。
【山本】父の側には不安があったからこそ、自分の目の黒いうちにという思いがあったと思います。私について言えば、そんなこと考えた事もありませんでした。自分がやらないと、若い子が育たないという思いだけでした。ただ、父からは何の指導も受けず、「名古屋へ行って何とかしてこい」と放り出され、自己責任型で何とかしてきたことが、今は自信にはなっていると思います。
【平原】山本さんは自分が出来たからと、同じように部下に求めていませんか。確かにそういう自分が採用したという信頼関係はあると思いますが、すべての人がそれでできるわけではありませんので、そのことは留意しておいて下さい。会社が順調に大きくなれば組織が必要になります。岩田さんの会社も組織はあるのですが、昔ながらのやり方ではやっていけません。それでは5年後10年後どんな会社にしたいのか考えたとき、強い組織をつくっていかなければなりません。そのためには幹部社員とどう接するのか、どう育てるのかが重要です。従来の延長線上ではなく、幹部とともに強い組織をつくるために頑張っていただきたいと思います。
【文責事務局・山田】