●第9分科会
得意技再発見〜独自技術に特化する経営戦略で新展開〜
福田義久氏日進エレクトロニクス(株)・社長
日進エレクトロニクス(株) 創業:1987年 資本金:2000万円 年商:2.4億円 社員数:23名 業種:電気通信工事、電子機器の開発・製造
20年間の船乗生活
私は、ジャパンライン(現・商船三井)で20年間無線通信士として働き、その後、労務課勤務を経て、ジャパンラインを退職しました。その後、郷里の名古屋に帰り、分野の違う電気工事の仕事を始めましたが、船乗りの仕事で身につけた物の考え方が、その後の会社経営に大きく影響しています。1987年自宅の4畳半から出発し、バブル経済の中で順調に会社も発展。89年には社員が11名となり、84坪の5階建のビルを購入し、現在の本社社屋としています。95年と96年に2度にわたり「中小企業創造活動促進法」の認定を受けると共に、愛知県の支援第1号企業として、ベンチャーキャピタルからの投資も受けました。これらの支援を受けて取り組んだのが、「音声認識による身分照合システム」の開発で、98年7月には認定課題を無事クリアーすることができました。開発が成功したことが愛知県からも公表されたこともあり、新聞7紙で報道されたり、NHKやテレビ東京でも報映されました。このことで一般からも多くの問い合せがあり、現在、発売に向けて準備をしている状態です。

価格決定のできる商品開発がしたい
結果として新製品の開発に成功したわけですが、その経過は平坦なものではありませんでしたでした。本社ビルに移ってから、開発部門はNECや東邦ガスの請負開発をしていました。こういった請負の開発では、多くて数台の受注で、それも実際は特注品であっても、見あった対価がなかなか支払われません。こんなことで、経営が不安定になると判断し、「自分で物を作る以外にないのでは」と思い始めました。しかし現実は、自社で価格決定できる商品開発をしたくても、技術力とアイディアがあっても、資金がなくてできないといった状況でした。95年10月に『中小企業家しんぶん』で新規事業・新規開業に対する中小企業庁の支援策の記事があり、「中小企業創造活動促進法とは」の解説が目に留りました。これだったら認定を受け、資金を確保すれば、自社ブランド製品の開発もできると思いました。すぐに愛知県に問い合わせ、1回目はポケットベルの設備増強を効果的に把握するための機器で申請しました。
識別に声紋を利用
その後法改正があり、地方自治体がベンチャーキャピタルを通して投資ができるようになり、2回目は銀行とキャピタルからのすすめもあって、今回の音声認識システムで申請しました。このシステムを開発しようとしたきっかけは、キャッシュカードの普及で、時代の流れが徹底して個人の認識を必要としているからです。本人確認する手段は指紋・網膜などがありますが、一般に普及するためには、『音声』で認識する方法が無難と判断しました。
開発の喜びとは
新しく採用した社員が開発に向いていると判断し、すぐ東京に勉強に行かせ、今回の開発を丸ごと任せました。彼は社長の自分がそこまでやらなくてもと思うほどモーレツな勢いで、開発に取り組んでくれました。大手の開発は輪切りですが、私達のような中小企業は部品の発注から最後のレイアウトまですべて自分でやるため、完成品が見えます。そのことがすごくやりがいがあって楽しい、彼は言います。それがやる気につながっているようです。1998年に入り、実証機を用いて繰り返し実験を行いながら改良を加え、愛知県に提出した各種課題についてもほぼ100パーセント達成しました。同年7月には開発機のデモを実施しました。
今後の課題は、やはり販売戦略
今年8月に「非接触型ICカードを用いた音声による入退室管理システム」を発表しました。ICカードにあらかじめ本人の音声を記録しておき、カードを使う時に端末機のマイクに向かって声を発し、登録された声と比較して本人確認をするというシステムです。40件ほど問い合わせがあり、現在2社と商談が進行しています。作ることは得意ですが売りこみは素人なので、今後の課題は販売戦略です。第2号商品の開発準備に入っています。現在、当社は独自開発と共同開発を合わせ4件の案件について、現在開発に取り組んでいます。愛知県は情報通信分野の産業育成に力を入れているようです。投資第1号に認定していただいた「創造的中小企業創出支援事業」に報いるためにも、また、後に続く私たちの仲間である中小企業のためにも、開発した技術を商品化し、社会に貢献していきたいと思います。
【文責事務局・野副】