景況調査

第29号-2001年2月
景気腰折れ、鮮明に―業況感改善は9期でストップ。利益に加え売上高DIもマイナスに

【概況】
【業況判断】 「今月の状況」が10期ぶりに悪化。4期ぶりにマイナスに。
【売上高】【経常利益】 売上高DI、経常利益DIともにマイナスに
【在庫】 在庫過剰感高まる
【価格変動】【取引条件】 取引条件の「悪化」超過幅拡大
【資金繰り】 「窮屈」超過幅縮小
【設備過不足】【施設稼働率】 施設稼働率が「下降」超過へと転化
【雇用】 「不足」超過幅がさらなる拡大
【経営上の力点など】 引き続き「新規受注(顧客)の確保」「民間需要の停滞」がトップ
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(2001年2月)第29号(PDF:818KB)


【概況】

景気の足取りは「回復」から「悪化」へと急転回しつつあります。業況が「よい」と回答した企業から「悪い」と回答した企業を差し引いた業況判断DI(今月の状況)は△6となり、前回調査に比べ13ポイント悪化しました。業況感の改善は9期でストップ、DI値もマイナスに転じて、景況は再び「水面下」へと沈んでしまう結果となりました。
業況を前年同月との対比でみたDI値も△6となり、前年よりも業況が悪化したと答えた企業は実に回答企業の4割にまで達しました。先行きに対する見通しも厳しく、「悪い」と見通す企業の割合が、「よい」と見通す企業の割合を10ポイントも上回る結果となっています。
こうした急速な景況感悪化の背景には、以下に示す3つの「息切れ」があるものと考えられます。  第一に、官公需の「息切れ」です。公共工事の請負金額(保証事業会社協会調べ)は1999年以降概ね前年割れが続いてきましたが、今年に入って減少幅がさらに拡大する傾向にあります。
第二に、IT革命の「息切れ」です。景況分析会議のヒアリング調査で、「IT投資を中心とする設備投資に息切れ感が出始めている」との声が聞かれました。昨年まではIT供給産業の生産と投資が急増し、その勢いが経済全般に波及していくことを予測する向きもありましたが、期待した程の波及効果がみられないうちに消費の減退も懸念されはじめたことから、ここに来て生産・投資の勢いが衰えはじめています。
第三に、外需の「息切れ」です。未曾有の繁栄を謳歌してきた米国経済が昨年末以降、株価の下落とともに急減速しています。これに伴い日本の米国向け輸出が鈍化するとともに、米国向け輸出への依存が強いアジア経済圏への輸出も鈍化しつつあります。
さらに、景況感悪化の背景には、こうした「息切れ」現象に加え、近年進行してきた価格破壊現象が一層激しいものになりつつあるという事実も存在します。アジア製品の価格にさや寄せされる形での販売価格の引き下げ、また大手企業のなりふり構わずの値下げ断行が引き起こす価格破壊など、中小企業を取り巻く環境は、近年にない厳しいものとなりつつあります。
「一刻も早い構造改革の断行を」とマスコミは促していますが、政府には、中小企業をとりまくこうした厳しい現状を十分に踏まえた、きめの細かい政策対応が求められます。

[調査要項]
1.調査時  2001年2月26日~2月28日
2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
4.回答企業 965社より、137社の回答をえた(回収率14.2%)(建設業24社、製造業63社、流通20社、小売・サービス業30社)
5.平均従業員 29.9人
なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
「今月の状況」が10期ぶりに悪化、DI値は4期ぶりのマイナスに

「今月の状況」DIは前回の7から13ポイント悪化し、△6となった。これは「よい」と回答した企業が前回に比べ6%減少したことに加え、「悪い」とする企業が6%増加したためである。DI値がマイナスとなるのは2000年2月調査以来4期ぶりのことである。業種別にみると、建設業が前回の4から今回の△21と25ポイントの悪化を示しているのが目立つ。製造業もまた16→0と大幅な悪化を示した。流通業は3期連続の悪化で△18となり、サービス業は5ポイント悪化し0となった。前年同月比DIもまた2→△6と8ポイント悪化した。業種別では建設業(4→△29)と製造業(11→△5)が大幅に悪化する一方で、流通業(△14→11)とサービス業(△2→0)は改善を示した。また先行きに対する見方も厳しく、「悪い」と見通す企業が「よい」と見通す企業を10ポイント上回る結果となった。とりわけ建設業の見通しは厳しく、48%の企業が先行き業況は「悪い」と答えている。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
売上高DI、経常利益DIともにマイナスに

売上高DI(前年同月比)は12ポイントの大幅な悪化を示し、7→△5と「減少」超過へと転じた。これは「増加」と回答した企業が前回に比べ5%減少したことに加え、「減少」と答えた企業が7%増加したためである。売上高DIの悪化は2期連続となり、それが「減少」超過に転じるのは2000年2月調査以来4期ぶりのことである。業種別に見ると、建設業が31ポイント(9→△22)、製造業が20ポイント(15→△5)の大幅な悪化を示した。一方、流通業は△7→0と7ポイント、サービス業は0→3と3ポイントの改善を示した。次期見通しについては、製造業を除く三業種で「減少」見通しが優勢であったが、とりわけ建設業で「減少」を見通す企業が多かった(59%)。
経常利益DIもまた2期連続で悪化した。「前年同月比」DIは△3→△10と7ポイント「悪化」超過幅が拡大した。業種別に見ると、建設業が29ポイント(7→△22)、サービス業が19ポイント(2→△17)の大幅な悪化を示し、製造業もまた△4→△5と1ポイント「悪化」超過幅が拡大した。一方流通業は△21→0と21ポイントの改善を示した。また「今月の状況」も14→△7と、1999年8月調査以来6期ぶりの「赤字」超過へと転じた。サービス業で38ポイント(21→△17)、製造業で20ポイント(23→3)、建設業で16ポイント(△9→△25)と、各業種で大幅な悪化が見られた。次期の利益見通しについては見方が分かれた。製造業とサービス業は「黒字」見通しが「赤字」見通しを上回ったのに対して、建設業では半数の企業が「赤字」を見通す結果となった。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
在庫過剰感高まる

在庫感DI(今月の状況)は前回の14から今回16へと2ポイント「過剰」超過幅が拡大した。業種別に見ると、流通業で9→22と13ポイント「過剰」超過幅が拡大する一方で、製造業の「過剰」超過幅は15→13と2ポイント縮小した。また「前年同月比」の在庫DIは△6→3と「減少」超過から「増加」超過へと転じた。次期の見通しについても、3ヶ月後に在庫が「増加」していると見通す企業が「減少」すると見る企業を11ポイント上回っている。

【価格変動】【取引条件】
取引条件の「悪化」超過幅拡大

価格変動DI(前年同月比)は前回と変わらず△46であった。業種別では、建設業で19ポイント(△52→△33)、流通業で14ポイント(△54→△40)「低下」超過幅が縮小する一方で、製造業(△44→△52)とサービス業(△40→△48)がそれぞれ8ポイント「低下」超過幅が拡大した。次期見通しについては、全体で5割を超える企業が「低下」すると見通しており、とりわけサービス業で「低下」を見通す企業が多かった(62%)。
取引条件DI(前年同月比)は、△14→△21と7ポイント「悪化」超過幅が拡大した。業種別では、サービス業で21ポイント(△5→△26)、製造業で11ポイント(△9→△20)「悪化」超過幅が拡大する一方で、建設業で14ポイント(△31→△17)、流通業で6ポイント(△26→△20)「悪化」超過幅が縮小した。次期については、全体で「好転」すると予想する企業を「悪化」すると見通す企業が21ポイント上回る結果となった。

【資金繰り】
「窮屈」超過幅縮小

資金繰りDI(今月の状況)は△37→△31と6ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。これは「余裕」と回答した企業が2%減少したものの、「窮屈」と答える企業が8%減少したためである。業種別に見ると、サービス業で△34→△38と4ポイント「窮屈」超過幅が拡大した一方で、流通業で37ポイント(△48→△11)、建設業で12ポイント(△58→△46)、製造業で1ポイント(△28→△27)「窮屈」超過幅が縮小した。とはいえ次期の資金繰りに対する見通しは厳しく、全業種の次期見通しDIは△38と、次期の資金繰りが「余裕」と見通す企業を、「窮屈」と見通す企業が大幅に超過している状態にある。

【設備過不足】【施設稼働率】
施設稼働率が「下降」超過へと転化

設備過不足DI(今月の状況)は、△11から△2へと「不足」超過幅が9ポイント縮小した。業種別では、流通業で△22→△17と5ポイント「不足」超過幅が拡大した。また、サービス業(△8→12)と製造業(△7→3)は「不足」超過から「過剰」超過へと転じた。一方、建設業では△16→△18と2ポイント「不足」超過幅が拡大した。次期見通しについては、建設業(△14)と流通業(△11)で設備「不足」を見通す企業が多い一方で、サービス業(15)と製造業(2)では設備「過剰」を見通す企業の方が多かった。
施設稼働率DI(前年同月比)は前回の2から今回の△14と、「下降」超過へと再転化する結果となった。業種別では、製造業が「上昇」超過の8から△17と「下降」超過へと転じたのに対して、流通業では△19→△13と「下降」超過幅が縮小した。次期見通しについては、「上昇」見通しと「下降」見通しが同数であった流通業に対して、製造業では「下降」見通しが「上昇」見通しを10ポイント上回る結果となった。

【雇用】
「不足」超過幅がさらなる拡大

雇用動向DI(全業種)は、前回の△11から4ポイント「不足」超過幅が拡大し△15となった。業種別に見ると、製造業は0→△10と10ポイント、サービス業は△18→△24と6ポイント、流通業は△28→△33と5ポイント「不足」超過幅が拡大した。一方、建設業は△16→△4と12ポイント「不足」超過幅を縮小させた。次期見通しについては、建設業で「過剰」見通し超過である以外は、三業種とも「不足」を見通す企業が「過剰」を見通す企業を上回る結果となった。

【経営上の力点など】
引き続き「新規受注(顧客)の確保」「民間需要の停滞」がトップ

「経営上の力点」は、前回調査同様「新規受注(顧客)の確保」(63%)がトップを占めた。それに「付加価値の増大」(57%)「社員教育」(31%)が続いた。

<会員の声>

(1)建設関連
(建築請負)
既存の方法での努力に限界を感じている。新たな枠組みで考えなければいけないところに来た。
(商店建築工)
当社は商店建築の関係の受注が主であるが、企業の景気が好転しない限り、価格が非常に厳しい。商品の研究開発をして、とりあえず建築に関する関連商品の販売を手掛けるとともに、他の業界進出も考慮している。
(エクステリア)
社員人数は適正であるが、知識力、技術力が劣っているため作業時間がかかりすぎる。
(注文住宅)
お国の施策で生き残っている建築業界。いい加減にバカな先送り施策やめてほしい。この業界では生き残りという言葉はないと思います。劇的に成長する企業か、無くなっていく企業かどちらかです。まさに社の理念が試される関ケ原の合戦のような時です。当社は人、物、金、情報を今期準備しました。あとは闘うだけ。社員満足あってこそ闘えます。

(2)製造業
(組立用省力化設備)
6ケ月先はわかりませんが、今はとにかく忙しい。
(アルミ建材)
好況理由など聞けたら嬉しいですね。今までのやり方をこんな風に変更したらこれだけの成果があった等のアンケート。勝手な希望ですが。
(印刷)
根本から発想を転換しないと、発注が発生しないと痛感しています。
(印刷)
税制改革を早急にしないと頑張った企業は生き残れない。その他課題は山積みです。
(印刷)
新年を迎えてから1月~2月全体として悪くなってきているようです。今後は自力で陽のあたるところをどうつくり、どう探すか。「変化に挑戦して行動する」チェンジ、チャレンジ、アクションこれあるのみです。
(各種プラント)
昨年に比べて受注物件が薄い。
(製缶板金)
短納期の物が多くなった。
(電気機器)
昨今のIT化による設備機器が大変忙しく、産業用部品メーカーは休日出勤にて対応している。当社も日曜日まで出勤して生産につとめている。
(窯業機械・水処理プラント)
我が社は水処理プラント・メーカーですので、日曜・祭日の出勤、出張修理が多くなりました。
(作業服)
現在はやや良い状況だが、先行きが不透明である。
(制御装置)
経営理念に「労使見解」の共生、共育の哲学(人生観)があれば今の環境の変化にも共通の危機認識ができて納得して課題に挑戦する風土が作られていく。この事が最近の経営課題の中でも最も優先する課題であると思っている。

(3)流通
(靴下)
7年間「借入なし」でしたが、ここ2年赤字のため預金を取り崩し、ついに「借入」せざるをえなくなった。先行きに不安を感ずる。
(食品添加物)
消費者一世帯当たりの1ケ月平均食品支出は前年比で、魚介加工品約10%減、調理食品約5%減、麺類6%減、果物加工品18%減、外食7%減などで、勤労世帯の収入4%減にからんで、低空飛行傾向です。従って売上アップより、付加価値増大とオンリーワン方式で当分推移させていきます。
(包装資材)
非常に難しい時代だと感じます。人材を確保し、営業力強化と新規の確保をはかっていく。

(4)サービス
(不動産)
問い合せ・見積は出ますが、受注まで結びつかない。
(工作機器)
景況については5月以降の動きに注目していますが、社員に依るメーカー代行(理論武装化)が急務と考えています。
(旅行)
政治の根本を変えないと未来はない。
(損害保険)
元請保険会社の合併による変化を見通した上で、代理店の対策を講じないといけない。
(外食レストラン)
特に当社の場合、外食業という特殊性もあるかもしれませんが、今月は客数減少により売上が低迷しました。また昨年に比し、日数が少ないことも影響しております。
(水処理プラント)
今年はスピード、セーフティ、ローコストをスローガンにしていかに早く仕事を処理するかを実践中です。中小企業の生きる道は小さな仕事を多く集め早く処理する俊敏性にあることを、社員教育を通して徹底しています。