第10回あいち経営フォーラム基調講演
感動を生み出す“仕事の原点”〜元気な社員が目指す小さな一流企業 〜
横田英毅氏 ネッツトヨタ南国(株)
代表取締役会長
いちばん大切なこと
私が出合った格言の中でいちばんショッキングな格言を紹介します。「いちばん大切なことを、いちばん大切にすることである」。これは、ごく当たり前のことですが、実はあまりできていません。例えば、社員のみなさんと「きみのいちばん大切なことは何ですか」ということを話してみてください。健康、家族、配偶者、いろいろ出てくると思いますが、「ではそれをどうやって大切にしていますか」「昨日、何をしましたか」「ここ1週間ではどういうことしましたか」ということを聞くと、あまりやっていないのです。ですから、いちばん大切なことを大切にし続ければいいのです。人にとって人生でいちばん大切なことは、幸せになるということではないでしょうか。
小さい組織の強みとは
仕事をする上でいちばん大切なことは「やりがい」ではないでしょうか。この基調講演のサブテーマに「小さな1流企業」とあります。小さい組織の強みは、いろいろあります。まずコミュニケーションやチームワークが良いことです。経営理念が浸透しやすく、目的や価値観を共有しやすくなります。悪い結果が出たときも、因果関係が掴みやすい。どこにどんな問題があるのか発見しやすいからです。誰が、いつ、どういう考え方で下した結論なのか、意思決定の透明度が高いということもあります。最初から最後までひとつの仕事に関わることができるのも、小さい組織の強みです。要するに歯車のひとつではないということです。社長や幹部社員とでも、廊下ですれ違いざまに話をすることができますから、経営会議に出なくても経営に参画できていることになります。そして努力をして結果を出せばすぐ認められますので、重要な仕事を任されるようになります。1人の社長が長く経営していることが多いので長期戦略も容易です。「将来は息子に譲りたい」と考えている経営者が多いので、ずっと先のことまで考えて仕事に取り組むことができるのです。また、お客様からのご指摘や、感謝の声が聞こえやすいのも小さい組織の強みです。
小さい会社の成長するポイント
大企業の方が、小さくて素晴らしい会社に見学に来ますと「小さいからできるのですね」という感じでご覧になっています。確かに小さい組織は強いのですが、強みや長所にあまり磨きをかけてないのではないでしょうか。日本経営品質賞の評価基準では「このような事柄についてあなたの会社はどのような仕組みがありますか。実際にはどのようにされていますか。」という質問項目があります。実は大企業の方はきちんと答えられることが多く、小さい会社はそれに磨きをかけるという仕組みを持ってないのです。そういう良い仕組みを作ってますます磨きをかけていくことが、小さい会社が成長していくポイントになるのではないでしょうか。
絵のないジグソーパズル
当社の社員に、簡単な108ピースのジグソーパズルを何分でできるか、ということをやってもらいましたら、楽しそうにやりながら仕上がるまでに15分かかりました。次にこのパズルをスプレーで真白に塗ってもう1度やってもらいました。すると難しいうえにおもしろくないというのです。15分では完成しませんでしたので、「あと1時間で完成したら昼食をおごってあげよう」と言ってみたら、元気になって1時間以内に終わりました。実は、いま多くの人が、「絵のないジグソーパズルをやっている心理状況」で仕事をしているのではないでしょうか。日本の20代から30代の人の4分の3近くは現在の仕事に無気力を感じており、半分の人が機会があれば転職をしたいと考えているそうです。働く若者はいろんな悩みを持って仕事をしています。成長の実感がない、希望の仕事ができない、自分で考える仕事ができない、社会から認めてもらえない、自分の仕事が評価されない、勤め先に誇りが持てない、職場の人間関係や上司関係が良くない、チームワークがない人が多い、所属している組織を愛せない、などです。これらの悩みを全部解決できるように考えるのが良い経営ではないでしょうか。
働く若者に大事なもの
今、学校を卒業する人たちが企業を選ぶときの評価基準は、知名度・規模・業種・待遇の4つです。そうして念入りに選んだ企業のはずですが、3年以内に高校生の50%以上、大学生の40%以上が転職しています。3年以内に辞めているということは先にあげた4つ以外にその会社で自分にとって大事なものがなかったのでしょう。それは「やりがい」です。このフォーラムのキーワードにありますように、原点を考えながら未来を見つめて元気にやるということ。何のために生きているのか、何のためにこの仕事をしているのか、何のために会社を経営しているのか。これらのことを明確に描きながら働くことは、絵のあるジグソーパズルを組み立てるような楽しさがあります。そういうものがなくて、給料を貰うためや生活のために働くと考えていると、絵のないジグソーパズルを組み立てているように作業だけをやっている感覚になってしまいます。社員1人ひとりが、人生哲学を持ち、何のためにこれをやるのかという原点を常に見つめながら、将来はこうなりたいというふうに考えている。このように意欲が内側から湧いてくる組織づくりができているでしょうか。
部分最適よりも全体最適
あまり良くない経営と、長続きする良い経営とでは、どこが違うのでしょうか。私たちはどうしても部分最適になりがちです。今だけ、お金だけ、物だけ、自分だけ、自分の部門だけ、自分の会社だけ、と考えがちです。全体最適を考え、整合性を持って取り組むことが大事です。そして社内で競争が起こるというのは良くない。みんながどんどん成長し、量よりも質を、効率よりも効果を、相対よりも絶対を追求していかなければなりません。そして、お客様のことも社会貢献のことも考える。長続きする良い経営とはこのようなことではないでしょうか。また問題には「対処」するばかりではなくて「解決」しなければいけない。良い結果を早く出そうとして、上意下達に教えてしまうと、社員が成長しないということが起こります。
社員満足度を上げること
ES(=社員満足度)の高い組織は、経営理念が浸透していて良い企業風土ができている組織です。私たちは、会社ができたときから社員満足度の高い会社を作りたいと思ってきました。と言うと、多くの方が「社員を甘やかすのか」と受け取られるのですが、決して甘やかすのではなく、むしろ非常に厳しいのです。私たちの考える「社員満足度の高い組織」とは、やりがいや動機が心の内側から湧き上がってくる組織です。「自分たちの会社をどんな会社にしたいか」、「自分たちの会社がどんな会社だったらよいか」というアンケートを社員にとりましたが、給料や休みについて答える社員はいません。これは「やりがいのある会社にしたい」という彼らの本音です。そして「入社以来今日まで、嬉しかったことはなんですか」と聞きますと、「やりがいを感じたときが嬉しかった」と答えました。
Know−Why「問題発見力」
「鬼と金棒」の話があります。ここでは金棒はKnow−How(知識)に例えられます。鬼はKnow−Why(感じる力や問題を発見する力)に例えられます。結果を出すのは鬼の力です。ところが今の日本の教育は、金棒を大きくすることばかりに精力のほとんどを費やしています。学歴があって頭がよく、記憶力・理解力があると金棒は大きくなります。鬼は「頭の使い方の良さ」です。一言でいうと人間力です。採用のときは比較的鬼の大きい人を見つけようとしていますし、入社してからも社員の鬼の部分が大きくなるように人が育つ組織づくりをしています。それには社員一人ひとりが自分で考えて行動し反省する。「考えろ」と言われて考えていてはだめです。自分で考えて意思表示をし、反対意見でも堂々と述べる。会社や仕事をもっと良くするために、みんなが遠慮なく発言できる組織を私たちは目指しています。
人間性尊重のために
「人間力」を向上させていくためには、人間的に成長させていく必要があります。そのためには人間尊重が大事です。私たちは人間性尊重と言っておりますが、ほとんど意味は同じです。今から7〜8年前、チラシを折る機械を導入したときに女性社員が大喜びしました。それまでは手で折って封筒に入れるという単純な作業をしていました。これは絵のないジグソーパズルのようなものです。だから彼女たちは喜んで「営業アシスタントを単純労働から解放した人間性尊重マシン」というメッセージをラベルに書いて張りつけました。考える、発言する、行動する、反省するといったことは、動物にはない人間だけの特質です。尊重とはそれらを常に発揮するような仕事の取り組み方ができる風土を作る、ということです。採用の第一線に長くいました。そのときに学生たちとの面談で「私たちの会社に入ったらどんな仕事をしたいですか」という質問をしましたら、「企画をやりたい」と答えるのです。確かに企画部門の人は比較的いきいきと仕事をしています。なぜならいつも考えているからです。それで当社は「全社企画室」というふうにしました。上からの指示ではなく、みんなが自分で考えて仕事に取り組みます。すると、どんどん議論を交わして発言して元気になります。そのように人間性を発揮すると充実感が涌いてきてやりがいが出てきます。笑ったり感動したり感謝したり、そこかしこに笑いがあることが、人間性が尊重されている場だと捉えています。
「問題解決型」の人材育成
当社の昼休みに行われるプロジェクトミーティングでは、みんなが自然に集まって話し合いをしています。組織横断で、ほとんどが35歳以下の若い社員ですし、出席も自由です。最初の3年くらいは幹部社員も参加していましたが、それ以後は出席しません。そこでは、いろんな部門の人たちとこれからの会社や仕事の進め方の改善などについて話し合います。
また新入社員も参加する全社員会議を行っています。ここでは幹部社員が後ろに座り、若い社員が前の方に座ります。そして新入社員がその部門の過去6ヶ月の反省や次の6ヶ月の目標を話します。それに対する質問はできるだけ若い社員がするようにし、その答えもできるだけ若い社員がするようにしています。このような人材育成を、当社では「問題対処型」ではなく「問題解決型の人材育成」と呼んでいます。自らが感じて、気づき、考え、反省させることで会得させるのです。時間はかかりますが、社員がやりがいを感じて元気になります。感動という言葉は、感じて動くことです。単なる理解は外側からの動機付けです。当社ではいろいろな形で社員に体験させることをしています。新型車の発表会でもみんなで考えて、ファッションショーのようにしたり、寸劇をやったりします。よく「こんなことをしていて車は売れますか」と聞かれますが、売れません。車を売る、というのは目標達成レベルですが、これらの取り組みは、社員がやりがいを感じて、元気になる、という「人間力向上」という目的のためです。すぐに力はつきませんが5年、10年とやると、同業他社と比べて車を売る力もつきますし、やりがいをもって仕事に取り組む集団に変わっていきます。できない理由は考えず仕事に取り組めば、奇跡のようなすごいことは起こるべくして起こるのです。
会社の存在する目的とは
マザー・テレサがノーベル平和賞を受賞したとき、「人間にとって最も悲しいことは、誰からも必要とされないと感じることです」と言っています。逆に言えば、お客様や同僚や上司から認められ感謝されていることが実感できる自分になればいいのです。バブルが弾けて業績が上がらなくなった時、日本中でCS(=お客様満足度)という言葉が大きく叫ばれるようになりました。そして2000年を過ぎた頃から、CSも大事だが社員が満足していないとCSも追求できない、というように変わってきました。しかし、これはあまり良い考え方ではありません。もっと良い考え方は、「会社はそこに集まってきた人が幸せになるために存在し、そして社員を満足させるいろんな方法の中のひとつが、お客様満足度を永遠に追求する」という考え方です。お客様から感謝されて、周りの人から必要とされていることが実感できるとES(=社員満足度)が上がっていきます。ESやCSは企業が存在する目的にあたります。業績というのはその目的をやり続けるための糧です。目的は追求するもの、いわば方角です。ところが、ともすると業績ばかりに目を奪われがちです。なぜならそれは目に見えるからです。目に見えるものも大切ですが、目に見えないものは同じくらいかそれ以上に大切です。見えるものは見えないものによって支えられているからです。例えば、やる気がないと仕事に力は入りませんが、やる気は目に見えません。二宮尊徳は「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」と言っています。ESやCSだけでは飯は食えませんが、しかし、業績だけを追っていては、会社は破綻します。不祥事が起こったり、社員がメンタルヘルスの問題を抱えたりと、いろんな意味で不幸になります。ES・CSは心の糧、業績は継続の糧なのです。
何のために働くのか
採用の第一線で学生たちに聞くのは「何のために働くのか」ということです。当社では手の空いている人なら誰でも、会社訪問に来た学生の相手をします。1対1で1時間くらい雑談しまして、社員が入れ替わりながら、1人の学生さんが最低でも5時間、長いときは8時間くらい会社にいることもあります。社員が学生に先ほどの質問をしますと、中には給料もらうためとか、生活のためとか言う人もいますが、それが答えではないというところまではわかるようです。しかし答えは持っていません。働く目的とは、「仕事を通じて自分を成長させる、周りから認められ信頼される、社会や人の役に立つ人間になる」ということのはずです。営業成績や収入や昇進はあくまで目標です。成長するということは、変わり続けるということです。会社も社員も変わり続けるということはとても大事です。「最後に生き残るものは力の強いものでも頭の強いものでもなく、変化し続けたものである」というのはダーウィンの言葉です。
感謝する心を持つ
「幸せだから感謝するのではない、感謝しているから幸せなのだ」という言葉があります。こんなに恵まれた日本に住んでいて不幸な人が多いのは、感謝する気持ちが足りないのかもしれません。社員満足度の高い会社を作るには、「感謝する心を持った人」を採用すればいいのです。そうすれば、会社が何もしていなくても集まって来た人はすでにみんな幸せです。当社では、入社した社員が感謝するような風土を作るために、いろいろなことをしています。例えば、「グッジョブ」というカードは、誰かがお客様に誉められたりいい仕事をしたりした時に、それを他の社員に知らせるものです。そしてみんながそれを読んで喜びの輪を広げていく、ということをやっています。他にも、4月の初めにショールームで新入社員歓迎会を行っています。そこでご両親から新入社員に宛てた手紙を読みますが、みんな泣いて感動したり感謝したりします。また、四国八十八ヶ所の1区間を目の不自由な方と4泊5日、寝食を共にするということを10年程やっています。目の不自由な方々は、素晴らしい影響を新入社員に与えてくれます。ショールームでは、社員同士の結婚式も行ったりしました。食事以外は全部自分たちで準備して、ホテル顔負けのものです。神父さんの役まで社員がやりました。
自分を見る鏡を
自分たちがお客様からどういうふうに見えているのか、ということを、常に念頭に置きながら仕事をすれば、社員は成長すると思います。ですから、自分を見る鏡がたくさんあるほうがいい。当社では自己申告の人事考課や、周りの社員が自分を評価する「優秀社員投票」というのもあります。お客様からのアンケート(満足度調査)も自分を見る鏡です。こういう鏡がたくさんあることで、「自分を評価しているのは上司だけではなく同僚も後輩も自分を評価している」ということを、いつも認識しながら仕事をするようになります。こういうふうに少し遠回りをしながら体験をさせて、できるだけ教えないけれども社員は成長するというふうに人材育成に取り組んできました。
【文責:事務局黒田】
第10回経営フォーラム分科会速報(PDF)