同友会の政策提言活動
自助、公助、共助の精神で
斎藤 泰氏 (株)プロセススバル(愛知・政策委員長)
報告の前半では、斎藤氏が十年前、経営不振の会社を引き継ぎ、取引先から支払いを一方的にカットされたのに対し、下請代金支払遅延等防止法を使い支払いを勝ちとったことをきっかけに、中小企業施策に関心を持つようになったこと。そして資金繰りの際、信用保証協会との交渉の中で経営計画を作成し、実際に融資を受け、「中小企業施策利用は経営者を鍛える場だ」という自らの体験を語られました。
後半の報告要旨をお伝えします。
(編集部)
●利用実態調査から得た三つの課題
愛知同友会では、九三年より制度融資の説明会や県市との懇談会を、年に一〜二回、定期的に開催してきました。 この経験をベースに、九六年には「信用保証協会、国民金融公庫の利用実態調査」を全会員対象に行い、以下のまとめをおこないました。
第一に、制度融資を含めた公的金融は、やはり「中小企業家の権利」として考えることが大切ではないか、第二には、制度にあるものを私達自身がまず知り、利用してみないといけない、最後に、第三者機関による会社の評価システムが必要である、ということです。
●愛知県商工部との懇談会にて
この様な課題をまとめたのち、まず県商工部との懇談会を持ちました。ここで「中小企業だからすべて、ただ支援するという時代は終わった」「やる気があって新しい方向性を示していこうという企業は応援します。そうでない所はおのずと無くなっていくのでは」ということを、県の方が明言されました。
このことは国の中小企業施策に色濃く反映されていますが、驚くと同時に「やはりそうか」という思いで聞きました。
ところが「新しい時代に対応しなければだめだ」と言いながら、では技術の支援とかニーズに対応する機関としての試験場の対応はどうなのかということを聞きますと、「いや、その通り不十分」という回答でした。実際に言っていることと、現実のずれが明らかになりました。
この経験を踏まえ、続いて会内でとったアンケート結果を要望書として事前に渡して、信用保証協会との懇談会に臨みました。
●信用保証協会との懇談会では
その場で「無担保有保証人の保証枠が二千五百万から三千五百万に拡大されたけれども、かえって審査が厳しくなって使いづらい」など、アンケートで寄せられた会員の方の不満を卒直に話しました。
また「枠はあるけれども実行しないというのが現実では」「育てるといっても、形はつくっても」と言うと、「いやその通りだ」ということになりました。
結構突っ込んだ話をしましたが、最後に協会の方から「いろいろな団体とこのような場を持ちましたが、今日のように具体的で、建設的な意見を頂いたのは初めてです」とほめていただきました。
●国レベルでの対応を痛感
ただ、地方レベルの問題でも、結局は国の中小企業施策の問題に行き着きます。例えば、保証協会などもそうですが、「信用保険公庫」というのがあって、どうしても中央の問題になってしまいます。
このことが実践を通じて明らかになったということが、この間の取り組みの大事な結論だったと思います。
そうなると、当然中同協の政策委員会へ参加して、国レベルで問題に対応することが大切になってきました。
●助けを求めるのは恥ずべきこと?
自助・自立の政策提言活動といいますが、中同協の政策委員会でも、自助・自立の問題と、中小企業施策の要望活動とが対立することであるかのような論議がされた時には驚きました。
私の会社にいる障害者の人が自立するには「てすり」などの設備が必要です。同じように、私達の自立には中小企業施策が必要です。「杖」や「てすり」が必要なことが甘えだと言われれば、何も言えなくなってしまいます。
中小企業基本法のなかで、「中小企業は自立、自助をするために支援しなければいけない存在」と、はっきり位置づけられています。このことを前提に、中小企業施策が展開されていると思います。
にもかかわらず、私達中小企業家の方に、助けを求めることが恥ずべきことのように言う人がいますが、そうではないと思います。
日経連や経団連のほうが、むしろ自分たちの要求を経済政策に反映させることに熱心であって、弱いはずの私達中小企業がそういうことに不熱心であるというのはおかしいと思います。
●経済社会にあるのは勝者と敗者だけ?
行政改革委員会の規制緩和小委員会の宮内委員長は「優秀な企業が生き残り、だめな企業がなくなっていくのは経済システムとしてはいいことだ。経済社会ではもともと強者と弱者はなく、勝者と敗者があるだけだ」と言っています。非常に恐い事です。
そういうものを見ていると、中小企業が政策要望をせずにただ毎日忙しくしているだけでいいのかと思います。
だからこそ愛知では、今までの懇談会などを発展させながら、国の中小企業施策に対する要望や意見を会内で広く集め、まとめています。
もちろん各企業での自助努力は大切ですが、政策提言の活動を行うことも、自助努力ではないでしょうか。
●「まず知る」努力から
今年度、愛知県下八十九自治体すべての商工行政施策の資料化に取り組んでいます。そうすることによって実態を掴み、比較していこうと思っています。実態を知らなければ要求もできません。
愛知の政策委員会では、なにも国の中小企業施策全般を評論するだとか、それを知らなければ始める事ができないといった立場には立っておりません。
やはり、私達の自らの要望を土台にしないと誰も参加してこないでしょうし、やってる本人も面白くないです。あくまで、現場の声を軸に具体的要望にしていくことです。 「自立とか」「自助とか」が最近、よく同友会の中で話題になりますが、それに加えて「公助」、そして「共助」の「三つの助」を一つとしてとらえる心がなければ、結局自立はできないのでは。
自分だけは大丈夫だから他は関係ないということではなくて、実はお互いに援け合っているんだ、ということが、同友会運動の根底にある考え方だと思っています。
【文責 事務局・多田】