三河支部7月24日
変化の時代の企業発想〜ピンチをチャンスへ〜
宮崎由至氏(株)宮崎本店・社長(三重同友会)
競争時代から「大競争時代」に
今、時代は「大競争時代」だと言われています。少し前までは競争時代でした。お酒の業界でも規制緩和と価格破壊で、ディスカウントショップなどに別の業界から入ってきています。今までは、酒造組合・小売酒販組合の中で競争していたものが、競争の原理がこわれて競争相手が従来と変わってしまいました。これが「大競争時代」です。行政でも競争時代になっています。三重県では第一次産業が一〇%を切りました。五〇%以上が土地に縛られない第三次産業ですから、税金を百万円払っても、五十万円のサービスしか受けられないなら、他県に移ってしまうということもありえます。まさに「大競争時代」です。
見方を変えると行動が変わる
では宮崎本店の競争相手は誰か。それは「時代」です。時代とどう戦っていくかです。かつて、ニコラウスが全米オープンで優勝した時、マスコミは「バケモノだ」と言いました。しかし、三年経つと誰も言わなくなりました。三年のうちにレベルが追いつき普通になる、これが「変化」です。その変化の時代と戦っていくには、従来通りにやっていては勝てません。そんな時、「何かしなきゃ」と言っているうちは、まだ余裕があります。改革とは変わることです。変える準備をするには、モノの見方を変える。見方を変えると行動が変わります。まず、モノの見方を変えることではないでしょうか。
社員に恵まれて
この頃思いますが、私は社員に恵まれています。三重同友会で七年前に、米国の西海岸へ流通業界の研修に行ったとき、営業マンを三名同行しました。帰って報告会をしたところ、「自前で行きたい」と言い出した社員がいました。自分の金で行きますから、それはもうギッシリのスケジュール。遊びなんてないんです。ビックリしました。今年、創業百五十一年目です。去年百五十周年をやった時、豪華なホテルを借り切ってお得意様を招待しょうかな、と考えていました。すると社員から「そんなことをしてもらって、社長なら嬉しいですか」と聞かれました。「だったら何がある」と聞くと、「本当にお礼をしたいのであれば一件一件回ったらどうですか」と言われ、私が全部回りました。また、わが社では社内販売をやめました。それは、対面販売の小売店がどんどん減っているからです。コンビニエンスストアは、何時何分に何が売れたというのが分かるんですが、肝心なことが分からない。「誰が」買ったのかが分からないんです。そんなわけでわが社では、「純米吟醸がいつ、どこに並ぶぞ」ということがわかると、すぐ総務が社内に通達を出します。そして社員や社員の家族が買いに行き、その時のレシートを持って来れば、原価との差額を返しています。
「心のリストラ」
最近思っているのは企業のリストラについてです。大企業ではもうリストラは終わっています。しかし本当のリストラチュアリングとは再構築ですよね。もう一回見直そうと言うことです。酒造メーカーでは人が多い、生産性が低い、金がない。会社を支える社員を含めて、社員の「心のリストラ」をして、企業の基礎体力をつけておかないと大変です。今までは経営理念がなくてもやって来れましたが、これからは「知りませんよ」という時代になります。社員マインドのリストラクチャーは心の問題。社員の多くが、社の問題を自分のことのように受け止めて考えてくれることだと思います。わが社の資材課の課長補佐の話があります。私共はアルコールをタイから輸入していますが、円高で八百万円程高くなりました。今までは「まあ仕方のないことだ」で終わっていました。彼は「八百万円分を他のもので埋めてみます」と言って、米やダンボールなどで五百万円程削減しました。これは「彼が会社のことを我がことのように考えてくれていた」ありがたい例です。ハンドメンテナンスにノウハウはないのです。
同友会から学んだ人事考課の方法
わが社では六年前に週四十時間制を導入し、今は実労三七・二時間ですが、この時、考課制度も始めました。導入するまでに三年かかっています。マインドのかかっている社員とそうでない社員とでは、ベースアップやボーナスで一五%程度の差をつけています。しかし考課する方は大変です。係長は部下を、課長は係長を、部長は課長を、部長は私がやり、最終的に取締役会で責任を持ちます。朝八時から夜七時まで骨は折れるし疲れるし、大変な責任があります。これらは全部同友会で教えて頂いて、私は愚直にやってきただけです。
社長が変れば会社も変わる
「これから宮崎本店では何をやるのか」ですが、田舎の酒屋がHACCP(食品の安全性保証システム)などの認定を取ることを、全社一丸となってやっています。宮崎本店では、四月なら何々の酒、七月一五日から八月二五日は「大吟醸宮の雪」というように販売の重点を決めています。スーパーの人からは「冷酒ならわかるけど、なぜこんな高い酒にするのか」と言われました。実は、ホンダの社員が帰省する時、お土産に買って帰るからです。これはデーターに出ています。やることはまだまだいっぱいあります。「やることがない」ということは「行動」が変わってないということです。いろいろな話を聞くだけでやらないのは評論家です。会社の内容を変えることは、大変な勇気がいります。会員は、そろそろ学んだ理論を自社に持ち帰って、「どうやって実践したか」を同友会に返す時ではないでしょうか。やってダメならやり直せばいいだけです。社員が変わらないのは社長が変わらないからです。社長が変わらずに社員が変わったら、会社を辞めていきます。 社員が辞めていく理由には二つあります。(1)社長が変わらず、社員が変った時、(2)社内のマインドが全部変わったのに、自分が変われない時。後者で辞めていくことが本当の意味でのリストラではないでしょうか。
【文責事務局・上田】