地域と共に歩む中小企業とは
豊かな暮らしや経済を支える地域の担い手として
広報委員会では今年度「地域と共に歩む中小企業とは」をテーマに、前半期は、大阪同友会での「我がまち同友会」づくりや、地元愛知での「地域づくり」や「商店街づくり」のあり方について学んできました。この結果「中小企業(中小企業家)こそが、地域の豊かな暮しや経済を支え、地域に大きな影響を与えている」ということを、あらためて確認してきました。地域とのかかわりは私達中小企業にとって今後とも大きなテーマであり、「同友Aichi」の紙面で「ではどのような企業が」について、いわば「論壇」を提供していきたいと思います。まず手始めとして、私達広報委員会が取材した企業を紹介させていただきます。
一人の人間として地域にとけこんで
田中久勝氏泣Nリーンスタジオ(三河北地区)
地元の人との交流から今の職業を選んで
岐阜県御嵩町出身の田中氏(泣Nリーンスタジオ・社長、本社豊田市)は、岐阜県立東濃高校を卒業して、一九六一年に豊田市の小島プレス工業に入社。趣味のテニスや写真を通じ、地元の人達との交流も広めました。「よそ者の私を豊田の皆さんは暖かく受入れてくれました」と当時を述懐されます。しかし「自分にあった好きな仕事で身を立てたい」と、一九六七年に脱サラを決意します。資金もなく、店を持つことができません。強力な後盾もなく、地元での交流の中から知った清掃会社の人の勧めで、洗剤販売を手がけることになります。
トータル清掃業として
趣味のボーリングを通じて親しくなった飲食店関係の人々の支援で、食器類や厨房の洗剤や、それに関する消耗品の訪問販売も始めます。手の荒れにくい洗剤や、取れにくい汚れの相談を受けているうちに、ワックスや清掃用具、清掃機器から玄関マットまで扱うようになり、清掃のアドバイスや請負いまでも依頼されるようになりました。だんだんと事務所や学校、役所などへも清掃道具などの納入をするようになり、現在、清潔を保持するための全般についての提案や技術指導もしています。「小さくても楽しく役立てる仕事をめざして、お客さんから頂く宿題に応えているうちに、知らぬ間に仕事の内容が変っていた」と田中社長は語ります。しかし、もとよりまったく馴染みのない営業の世界。当初は売り込みに入ったお店でどうしても声が出せなくて、昼食を食べただけで帰ってきてしまうというようなことも繰り返していたそうです。
トイレを磨けば心も磨かれる
一九九三年十一月六日は、氏にとって終生わすれることのできない日となりました。それは潟Cエローハットの鍵山社長との「出会い」です。この日は、岐阜県明智町の「日本大正村」で、初めての「全国掃除に学ぶ会」が開催されました。このときの三十五名の参加者の中に田中さんもいました。四年後の現在、この会は全国三十二カ所で開かれており、国民運動にもなろうとしています。「この世に偶然はない。すべては必然といわれますが、この出会いは私にとって正に必然。この日を境に私は目覚めました」と、力を込めて語ります。鍵山社長はトイレ掃除で有名な方です。「トイレを磨けば心が磨かれる」と掃除を通して、気付き、気配りの心が養われることを実践しておられます。ゴミが落ちていれば拾ってゴミ箱に捨てる。朝、人に会ったら「おはよう」の挨拶をするなど、人として当たり前の行為が、自然にできるようになりたいと語ります。北陸の重油流出事件が起きた時も、氏は採油ボランティアに馳せ参じました。地域の「お世話役」なども仕事に支障がないかぎり引き受けておられるようで、このような田中社長の姿勢が、ますます地域の人達に「あてにされる」のでしょう。
「人生教室」の講師として
一昨年のこと、朝日丘中学校の先生から「田中さんはいつも楽しそうに働いておられますが、どうしてですか。そのわけを生徒たちに話してもらえませんか」と声をかけられ、その中学校の「人生教室」の講師になります。そして夏休み前のある日、仕事のことや体験した事、考え方などをある学級で話したところ、生徒達が非常に感動しました。昨年の五月には中学二年生全員とその父兄たちに、『石ころと私』と題して、田中氏自身の生き様を語る機会も与えられます。「地位も学識もない私の話のどこがいいのか、皆さんが真剣に聞いてくれましてねえ」と、楽しそうに振り返えられます。「後で寄せられた、生徒たちの感想文は私の宝物です」と、原稿用紙の束を大切にしています。また、今年もこの中学校でお話しされるそうです。氏の人柄と共に、一人の人間として地域の人達に溶け込み、これからも仕事や地域活動に活躍されている、そんな姿が見えるようでした。
三河西地区広報委員竹内襖材樺|内武司