第三支部新春ワンゲスト講演会
時代の流れをとらえるわが社のモノづくり

玉田善明氏 玉田工業且ミ長(石川同友会)
消防法の改正で
九一年三月に、ガソリンの配送コストを下げるための規制緩和として、消防法が改正され、タンク容量三〇klのSS二重殻のタンクが許可されました。SSとはスチール・スチールの略で、鉄板と鉄板を二重にすることです。従来の一〇klタンクが七十万円位でできるのに対し、このタンクだと、三〇klの二重殻タンクだと七百万円位かかると言われ、「こんなタンクを造っても儲からない」と、誰もそのタンクを造る人はいませんでした。しかし、試しに二〇klのタンクをある業社に造らせてみると、二百四十万円位の売価で、また三〇〓ならば二百七十万円で売っても儲かることがわかったのです。早速、製品化に取り組みました。九二年三月に完成し、同年四月にモービル石油に採用いただき、続いてコスモ、エッソ、ゼネラル石油等から発注していただくことができました。
さらに進む規制緩和のなかで
ガソリン業界での規制緩和は更に進みます。モービル石油に挨拶に行き、「九三年七月からSF二重殻タンクが、消防法で許可になりそうだ」ということを聞き、愕然としました。SFとは内殻をスチール(鋼製)で、外殻をFRP(強化プラスチック)とする製法で、防食性能が向上するということから、アメリカではすでに七年前から認可されていました。「玉田工業が製品を作れば買ってもよい」ということで早速、アメリカへ見学にいきました。日本人でその会社を訪ねたのは初めてでした。帰国して、日本用に造るために機械装置と技術者をそろえ、その年の一二月にこのタンクを完成させました。アメリカのパテントを買うという手もありましたが、「製造業なら自社技術で作りたい」という想いから、FRPの加工技術や、組立の機械装置など、独自のものを生み出してきました。九四年二月に日本で最初に埋設し、その後も営業所を増やし、現在、全国に九カ所の営業所を持つようになりました。SFタンクはそのシェアを高め、現在では全国のガソリンスタンドの一〇〇%近くが採用し、昨年度は全国シェアの約四〇%を当社が占めました。

会外の経営者も多数参加して
ガソリンが入るなら水も入れられる
特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)が九六年三月から廃止されたとたん、ガソリンスタンド業界は不況となり、次々と廃業しています。当社のタンク出荷数も一昨年の年間千本から八百本に落ちてきています。業界でのシェアは上がっても、業界そのものがだめになっては売上が落ちてしまいます。業界が変わっていくなかで、次に考えたのは防火水槽です。近所の村から「ガソリンをいれるタンクなら水もいれられるでしょう」という依頼があり、造ってみようと準備しました。しかし、役所の認定品でないと補助金が出ないのです。これが阪神大震災の前年、九二年十月でした。認定品とは何かを調べているうちに、震災がおこり、コンクリート製の防火水槽は亀裂が入って使えないものが続出しました。防火水槽はそれまで一〇〇%コンクリートの二次製品だったのです。これはと思い、開発を進めFSF(FRP・スチール・FRP)の防火水槽を造りました。調べていく中で初めてわかったのですが、この防火水槽というのが成長分野で、年間設置本数が約一万本、年間四百五十億程の市場でした。
違いを強調して異業種に参入
これは異業種参入ですが、私どもが持っている製造技術をそのまま使えます。鉄メーカーは少ない中で、鉄とFRPという素材で業界に入ったので、これは「異」です。違いを強調することで採用になったのです。九五年から販売を開始し、今年は年間で二百本近く販売しています。これは現在持っている技術をどこに転用するかというヒントだけです。複合素材という切り口を防火水槽にあてはめた結果、役目を十分に果たすという見本です。既存の業種ほど住み分けがはっきりしていて波風が立つのを恐れています。当社のように新規参入していく企業にとってはそれは追い風に利用することも可能ということです。製造業における大きな戦略的方向を打ち出すことができたと思っています。
「ものを作って地下にこだわる」
わが社では「ものを作って地下にこだわる」ことを経営理念にしています。今、タンクに続いて、地下室の開発に着手しようとしています。これも先発企業はあるわけですが、当社の技術と、またどこへ売れるのか、販売戦略をしっかり立てれば、防火水槽のときのように道は開けると思っています。今後、ガソリンスタンドの新設はもうないでしょう。今の経営資源で何ができるか、それを自社のブランドとしてどう持つかが大切です。そして、何よりも大切なのはトップの行動力です。変化が激しい時代だからこそ、トップの判断力と、時には周りから反対されてもやるくらいの決断力が、企業の方向性を決めていきます。社員の育成、もっともっと人を大切にする姿勢など、課題はたくさんありますが、一つ一つ解決していきたいと思います。
◆創業一九五〇年
◆資本金一〇〇〇円
◆年商四六億円
◆社員数一七四名
◆事業内容ガソリンスタンド・備蓄タンクなどの設計・施工
【文責事務局・多田】