自立型企業めざして@
古ボンベが一皮むけクリスマスを飾る
不況の鉄工所が芸術工房に
森健次氏(株)永和工業(一宮地区)

鉄を使っておもしろい物を
十一月二日、栄にあるロフト名古屋のクリスマスツリーに、使えなくなった古ボンベの部品を再生したベル四十個が飾り付けられ、地元のマスコミの注目を集めています。このベルを作ったのが稲沢市にある(株)永和工業の森健次氏。遊戯機具や治具を製作する鉄工所の二代目社長です。高校卒業後、すぐに父親の始めた現在の会社に入社。三十才で後を継ぎます。「鉄を使っておもしろい物を作る」ことが大好きで、これまでもテーブルやイス、またオブジェと言われる抽象的な芸術作品を余暇で作成し、芸術展で入選したこともあります。
鉄屑になる運命の古ボンベを使って
古ボンベ再生のアイデアは親友のジョン・ギャスライト氏(瀬戸市在住のタレント)が、森氏の工場で溶接用のガスボンベを見てひらめいたそうです。自ら味噌の樽などの廃材も利用したツリーハウス(木の上の家)に暮し、環境問題に大きな関心を持っているジョン氏。一目見て、「これを使わなきゃ」と。さっそく森氏は今年七月、古いガスボンベを出入り業者から譲ってもらい、試作を始めます。ガスボンベは自動車の車検と同じように三年に一度の検査(耐圧検査)があり、不合格だと見た目は良くても、産業廃棄物として鉄屑になる運命です。元々鉄いじりの大好きな森氏の手にかかると、ボンベのキャップはベル、上部は鐘、下部は傘立てと、瞬く間に生まれ変わります。郵便受けや電気スタンドもできました。ベルは明るく、鐘は深く、どちらも肉厚の鉄の味わいで響きます。

地元会員から百個の注文を受けて
森氏は昨年九月、京都の会員の紹介で同友会に入会し、現在、地元の一宮地区に所属しています。「大社長も私のような小会社の若輩も、会ではみんな対等で『さん』づけ。二次会もみんなで割り勘。とても気楽に参加できる会」だと言います。そんな和気あいあいいの雰囲気の中、同じ地区のガス会社相手の広告会社を営む女性社長が工場を訪問します。展示された作品を見るなり「プロパンに携わる人は人一倍ボンベに想い入があるの。このベルはお歳暮にピッタリ」と、その場で百個注文。森氏は大いに勇気づけられます。そして今回、ジョン氏の人脈もあり、「デザイン都市宣言」に基づき建設されたナディアパーク内の名古屋ロフトのクリスマスツリーを彩るベルに採用されます。「新しいもの、面白いものも提供するが、リサイクルの大切さもアピールしたい」というのが、今回採用された理由です。

仕事は楽しくやろうよ
ものづくりが大好きで、自立志向の旺盛な森氏は、「いつまでも下請けだけではいたくない」と、自社内にアート的なものを手がける「ケンナー(ドイツ語で職人の意味)事業部」を設けて、より付加価値の高く、独自の商品の製造も手がけてきました。「夢は二○○○年までに自社商品の売上を全売上高の五○パーセントまで高めていくこと」、そして「今、『ボンベベル』の出荷は月三百から五百個。しばらくはガスボンベにこだわっていきたい。しかし現在、廃材を利用した超大物の開発も考えています」と語ります。不況が長く、重くのしかかる業界にもかかわらず、「仕事は楽しくやろうよ」という経営理念の基、工場で働く若い社員達の表情は明るさに満ちています。
『ゼロイミッション』形をそのまま生かして
「今後のリサイクル事業の展望は」という問いかけに、「廃棄物の形を無くし、再利用するのがリサイクル。形ある物をそのまま生かして利用していくのは『ゼロイミッション』と言い、両者は分けて考えないと。我社は後者で行くつもりです」と、無知を諭されました。このボンベベル(商品名「ジョンさんとケンさんのボンベベルJ&K」)に着けられたタグの裏には、「このベルは昔GASボンベのキャップでした。今度はベルとして皆様の元にやってきました。ずっとあなたのそばにいて鳴響いていますように(生まれ変って生き続けること、それをゼロイミッションといいます」と書かれています。ジョンさんとケンさん、この二人のこだわりが、新しく生まれ変わった古鉄からも伝わってきます。
【記事務局・内輪】
(会社概要)
◆創立一九六一年◆資本金二千三百万円◆社員数五名◆事業内容遊具機具・体育器具の製作、治具の製作・加工等