地域との交流が中小企業の明るい未来をつくる
〜東京同友会の支部での研究会活動と政策活動〜
瓜田靖氏 東京同友会・主任研究員

愛知同友会の「99ビジョン」では「地域社会とともに歩む中小企業をめざす」ことが謳われています。このことを深め、実践していく視点と方向性を先進同友会から学び、愛知における行政対応の支部・地区・研究会の活動像を探るために、第3分科会が設けられました。当日は、「ビジョンにおける『地域社会とともに』とは?」のテーマで鈴木副代表理事が「99同友会ビジョン」を紹介。瓜田氏が東京同友会での活動と教訓を報告した後、橋本義文氏(前第一支部長)が、「愛知での具体的な活動を展望」して代表質問を行いました。
各支部に広がる対応行政区への提言活動
25年前から政策提言を行って
東京同友会は1974年から毎年、東京都および都議会の各会派に予算要望と政策提言を行っています。また、各行政区との関係を強化していこうと、80年代には全行政区での支部設立がすすめられ、23の行政区すべてに支部が誕生。90年代には区長との懇談会や、区への政策要望書の提出も行われるまでになりました。毎年8月には政策委員会主催で「支部行政担当者交流会」が開催され、先進支部の事例に学びながら、支部相互の活動交流とレベルアップが行われています。敬訪問から始まり、定期的な役員や事務局員による訪問、行政への会の資料持参と交換、区長とのパイプづくり、区報に同友会行事の掲載、後援や共催行事、区内の経営者団体として登録などなど。全支部が横一線ではありませんが、関係が強化されてきています。
【下記一覧を参照】
最近は政策の転換期ということで行政サイドもだいぶ危機感を持ち、姿勢が変わってきています。東京でも新しい都知事が誕生し、企業情報の仕組みづくりとか、リジョーナルバンク育成とか、公約実現がどう具体化されるか興味があるところですし、区政の段階でもかなり商工行政に対する見方が変わってきたと実感しています。
研究会での成果を地域の政策提言へ
東京同友会の支部では、研究会や懇談会など、さまざまな活動が行われています。特に成果を上げている事例として次の支部があげられます。いずれも地道な研究会などの活動実績や具体的数字による裏付けで、提言がなされています。【事例紹介―左ページ参照】
また、タイムリーな緊急アンケートで実態を訴えたり、広く地域の中小企業経営者を巻き込んだり、教育や文化活動やまちづくりなどの提言も行っています。

地域のすべての中小企業家を意識して
外と内からの活性化
同友会は中小企業にかかわるあらゆる問題の解決をめざしており、必ずやそこに自社の悩みや問題を解決するヒントがあると考えています。例えば「台東支部」のように、支部の活動を継続的に区の広報紙に載せたり、「広く地域全体の中小企業経営者が今、何を求めているのだろうか」という問題意識を持ち議論を積み重ねてきました。このような活動をする中で、おのずから例会の持ち方やテーマも変わってきました。外と内からの活性化です。「同友会ではこんなことさえできるんだ」と、いわば外圧によって支部が見直され、再発見されることも多々あります。「支部活動を活性化させることが地域に貢献することなんだ」という気概を持ってやっています。
補助金を受けるイコール「ステータス」「認知」?
また同友会が「行政や政党に要望する」と言っても、「物取り・金取り」とはまったく無縁な団体です。会合などの主旨や目的がはっきりしたものに対しては行政の補助金を受け入れています。しかし、補助金を受けることで、「会のステータスが上がった」とか、「認知された」というように目的化すると間違ってきます。認知される事が活動の目的ではないはずなのですが。広く中小企業と地域を発展させ、中小企業家による自主的で民主的な団体だからこそ、行政や地域に協力できることがあるという点が重要です。しかし時には「産業祭」とか、「産業展」といったイベント色の強い催しにも協力し、行政の方に喜びもされてはいますが…。また、新しい中小企業への支援施策などで、行政がなかなか予算を消化できない事もあり、この点での協力も喜ばれます。新しい施策は書類をそろえるのが非常に大変なのですが、「同友会会員は短時間にキチッとできる」と評価されたりしています。

地域の問題解決にビジネスチャンスが
愛知のビジョンでもいわれているように、「自立型企業」づくりのためには、問題解決能力が重要な課題としてあげられています。しかし、それは企業内だけに限ったことではありません。地域社会の抱える様々な問題を解決していく中に、実は大きなビジネスチャンスがあると思います。困ったことやニーズがそれぞれの地域には数多くあり、地域の資源を有効に活用することも企業経営における大切な活動ともいえます。東京郊外の三鷹市は高級住宅街ですが、住民の移動が非常に少なく7割は動かない、毎年0.5歳づつ市の平均年齢が上がり、このままで10年経つと平均年齢が6歳も上がり、典型的な高齢化地域となります。すでに、コミュニティや経済基盤が揺らぎ、いろいろな地域社会の問題が噴出し、行政も困っています。そこで、市の職員が中心になり、若い人達を呼べるような産業起こしを考え、工場アパートに新しくアニメーション会社やコンピュータソフトを開発する会社を呼びこんだりしています。
地域の資金循環を考える研究会も
このように、来るべき高齢化社会を考えると、根幹にはその地域の経済基盤を強化する必要がありますし、そこにはビジネス・チャンスや各社の今後の経営課題がおのずから生まれてきます。また地域の文化をどう育んでいくのか、雇用や所得保証などでの、地元の中小企業の果たす役割など、様々な要素や経営資源はたくさんあります。それをどう組み合わせ、どう可能性を拡げていけるのか、このことはとてもやりがいのあるビジネスではないでしょうか。東京同友会の地域金融研究会では、「地域での資金循環、経済循環を創っていかないと本格的な活性化につながらないのではないか」とう問題関心を持った研究が進められています。

支部での政策提言活動の具体的プロセスは
まず都への提言の「ミニ版」づくりから
次に、支部単位での要望・提言活動はどのようなプロセスで行われているか、具体的に述べたいと思います。まず、東京同友会の「東京都中小企業関係予算に関する要望・政策提言」の「ミニ版」からスタートします。そして、その地域と行政の実態を調査・分析していく。地域づくりに今どんなことが必要なのか、地域資源をどう再評価していくのか、また教育機能とか生活機能はどうかなどです。それが支部の「政策・行政委員会」で論議され、会員からの意見や要望がアンケートで集約され、原案が作成されます。それを支部の幹事会(役員会)で論議し、承認され、対応する行政に提言していきます。主な要望項目は以下です。(1)金融・資金対策(緊急経済対策融資、直接貸付制度など)(2)仕事づくり・不況対策(異業種交流・受発注情報交換会・データベース化・リフォーム事業者登録など)(3)街づくり・商店街対策(駅前再開発や交通・都市環境・リサイクル問題など)(4)産業振興行政への参画(政策形成過程への参画・事業企画段階からの参画・箱もの行政からソフト重視行政へ)(5)中小企業振興基本条例づくり
要望が実現したら必ず結果を会員に
しかし、なんと言っても最近は金融問題です。文京支部で行われたタイムリーな緊急アンケートは、即、行政にそのまま実現され、会員や地域の中小企業から高く評価されました。最も必要とされる事が、最も必要な時に実現したのです。同友会が行政を動かしたのです。要望が実現した場合、必ず結果を会員に返していくことが大切で、これをしないと「画竜点睛を欠く」結果となりますし、このことで各会員に支部の存在感が実感され、またどんどん意見が集まってくるようになります。

先進的な事例を他の地域や支部にも
先進地域や先進支部の成果を利用して、波及効果を狙ったケースもあります。江戸川区が「直接貸付制度」を行いました。これを他の区でもぜひやって欲しいとか、また墨田区の「調査経営相談活動」などもその一例です。後者では、行政区の係長クラスが、定期的に自分の足で現場をまわり、工場と商店街一件一件に経営実態や困った事などを聞いています。そして実態に見あった行政サービスを行い、従来の「箱物行政」と呼ばれハード面にかたよっていた行政サービスから脱皮し、ソフト面で現場に役立つサービスを行うようになりました。またこの場合のポイントは「中小企業振興基本条例」であって、単に私達中小企業家の要望が実現したというのでなく、いかに行政が責任持って地元の産業振興をしていくか、その責任と予算の法的裏づけとして、この基本条例をつくったということが重要なのです。
日本経済・地域の自立的な発展は、われわれが創る
大都市における「地域」の難しさが
このような地域活動を進めていきますと、さまざまな問題や困難にもぶつかります。会内では、支部長などのリーダーシップの発揮の問題、職住バラバラで地元に関心の薄い支部、製造業主体なのか住宅地域なのか、またサービス業中心とした地域なのかなどの地域産業構成の違いによる支部間の違いなどなど、大都市における「地域」の難しさがあります。また、区行政サイドにおける商工担当者の「温度差」や人事異動の問題、さらには政治的な要素や特定のコネ利用で行政担当者の心証を害したり、専門的行政マンがいなかったりなど、さまざまな問題が吹き出してきます。
中小企業家として「道理ある意見」を
しかし、問題意識を持った良心的な行政マンは至るところにいますし、中小企業の経営者としての「道理ある意見」は必ず聞いてもらえます。ただし、政策的な活動の場合は、良く調べないで生半可な知識で提言などすると逆に足元をすくわれます。またイベント行事などもあまり背伸すると社会的な責任が必ず生じますので、役員が変わったからといって辞めたり後戻りができず、いらない負担を強いられることもあります。
緊急を要する社会制度の整備
問題解決に着目した企業は、すでにいろいろなスタイルで、自分のネットワークを持っています。これからネットワークをつくるには、中小企業の皆さんだけではできません。それを支える社会的システムが必要です。自立型企業が生まれ、それが生きていくためには、アメリカのように、自立型企業を応援する社会の仕組み(例えば、街の人が株を買ってくれる)をつくる必要があります。大学内に産業支援の事務所があって、中小企業経営者たちが経営の相談に来る、そういうシステムもつくらなければなりません。日本福祉大学と同友会の皆さんとはネットワークができはじめています。福祉大では、青年同友会さんと協同で1日セミナーを毎年開催しています。毎年、200名近い青年経営者の方が集まって、恒例になりました。そこから、研究が発達し、すばらしい経営が生まれると思っています。これからは、行政や大学を巻き込み、自立型企業がのびのびと自分たちの経営を展開していく仕組みを作ることが、大きなポイントだと思います。これはお互いの宿題にしたいと思います。

「今、何が必要か、どうしたいのか」
東京同友会では過去の苦い経験から、自分達の主体的力量や必要性や継続性なども見据えながら、研究会活動など地道な実績を積み上げていくこと、そして必ず成果や結果を出していくという姿勢が、重要だという教訓を得ています。特に地域社会との関わりで大切なことは、「今、自分達に何が必要か、どうしたいのか」という主体的な問題意識を持つことです。それを日常的に役員会や幹事会で論議することです。現実は、「今度の例会や行事をどうしよう」とか、「それぞれの活動の方法がどうだ」ということになりがちですが、もう一度原点に戻ることからいろいろな発想が生まれてくると思っております。大変厳しい時代です。今、それぞれの経営状況はどうであるのか、何が課題であるのか、何を力として乗り越えられるのか、チャンスはどうか、何が足りないか、そして政策的に必要なことは何かなどを役員が日常的に論議し、広く地域の中小企業や社会から頼られる支部活動をつくっていきたいと思います。「日本経済・地域の自立的な発展はわれわれが創る」という気概でやっていきたいと思います。
【文責事務局・加藤】
支部での政策提言活動や研究会活動の事例
自治体のしくみの違い〜東京都と名古屋市を対比して〜
地方自治制度は市町村などの基本的な自治体と広域的な自治体という二重構造を持ち、名古屋は政令指定都市で、東京は都区制度をとっている。後者は「東京都特別区」という名称で、区長は公選され、区民税やタバコ税などが区に入り、独自な事業や政策がある程度自由に行える。固定資産税と法人税・住民税は都に入る仕組みで、完全な市にはなっていないが、来年、2000年の4月以降、清掃事業とかゴミ事業などがこの特別区に移管され、市に匹敵する権限になり、特別区は市とほぼ同じであるというイメージである。東京同友会は、それに対応し、会員数は30名〜230名と大きなばらつきがあるが、23区すべてに対応する支部がある。一方、名古屋市の場合は、市でかなりの事業と独自政策が行えるが、行政区のレベルでは区長も公務員で、事業政策権限はほとんど持っていないのが現状。
(1)練馬支部
(a)要望書を提出し、回答をさらに念押し
5月頃、区の担当部署での説明(ヒアリング)を受ける。前年度の行政の回答と現状を照らしあわせ、それをもとに具体的な項目をひろい、支部の会員にアンケートをとる。そのアンケートを集約し、幹事会で議論。提言書にまとめ、行政から文書回答をもらい、さらにその回答について問題点や評価を行い、再度、担当部所に念押しをしている。非常にきめ細かく、東京同友会の中でもかなり先行した取り組みを行っている。
(b)地域医療研究会で具体的提言を行政に
新しい医療(高齢者介護や痴呆症に対応する医療)について、介護需要予測やマーケティングなど行い、測量から不動産、建築設計、医療機器、スタッフの研修まで、幅広い医療開業における諸課題を研究している。例えば、1ベッド1000万程で30ベッドだと約3億円くらい必要という実態数字の裏付けで、具体的な提言を行政にたいして行っている。
(c)シルバー・リハビリ研究会
介護用品等の製造業会員を中心に、介護機器の開発やそれにかかわる住宅の研究を行っている。
より使い易く、購入し易い価格設定などを実現する為、福祉現場との意見交換会などの機会の設定を要望。
(2)台東支部
(a)区との日常的なタイアップを重視
区役所の会議室を借りて例会開催。区のバスを借りて、会員企業見学ツアーを行ったりもしている。また区報に同友会の行事を掲載してもらい、広く区内の中小企業経営者に会の取り組みを宣伝している。台東区も非常に協力的で緊密なタイアップを計りながら活動している。
(c)金融ガイダンスを信金協議会と開催
台東区が組織した異業種交流グループと同友会の台東支部が共催で、朝日信用金庫を中心にした台東信金協議会の全面的なバックアップのもとに、融資等に関した講演と相談会をミックスしたガイダンスを開催。新聞に折込みチラシを入れ、区内の中小企業の経営者の目にも見えるような形で、地域全体に宣伝して集客をはかっている。
(3)豊島支部
(a)「池袋モンパルナス構想」でシンポジウムを開催
昭和初期、池袋にアトリエ村があって貧しい芸術家が集まり、不思議な空間を創っていた。この伝統をいかし、特に文化面から、池袋周辺をどう考え、活性化させるかという問題意識で、現在支部として取り組んでいる。豊島支部のある劇団会員が、池袋を見直し再発見する取組みとして、豊島区や区の教育委員会との共催をはじめたことをきっかけに、地元の立教大学のゼミとも協力して、「池袋西口を考えるシンポジウム」を開催した。
(4)文京支部
(a)区議会・全会派と懇談会を開催
区議会の全会派との懇談会を開催。文京区の産業委員会に加入し、要望書を提案する。定期的な懇談を行うなど非常にオーソドックスな活動を行っている。
(b)アンケートから緊急融資を実現
緊急課題として会員アンケートをとり、返済期間を8年に延長し貸付け限度額を1千万円に引上げる要望が区にそのまま実現される。中小企業家の声が文京の区政を動かした。
(5)大田支部
(a)「世界の大田に」(羽田問題研究会)
大田の工業集積との関連での拠点づくりとか、工場跡地利用とか、ショピングモールとか、2002年ワールドカップを睨んでアジアへのルートなどの勉強会を開催している。
単に大規模開発ということではなく、区民のためにどのように役立つかという問題意識からスタートし、新しい事業への展望やヒントをつかんでいる。
(b)大田21研など
大田支部は会員約230名を抱える、東京同友会最大の支部で、会員の多様なニーズに応える研究会づくりが進んでいる。「都立高専交流委員会」や「21大田中小企業政策研究会」(略称・大田21研)がある。さらには、各社の工場長が中心となってグループをつくり、実務的な研修など交流を深め、横のネットワークをつくっていく「工場長研修会」も開催されている。