調査・研究・提言

2005年度 愛知県の中小企業政策に関する提案

2005年2月

2003年12月17日に行われた愛知県との懇談会風景

2003年12月17日に行われた愛知県との懇談会風景

(目次)

第1章はじめに
第2章 私たち中小企業家同友会の基本姿勢と行政への協力
第3章 重点要望
第4章 ものづくり「愛知」を
第5章 地域社会と中小企業
 (1)TMOの計画段階から多くの市民の主体的参加を
 (2)まちづくり会社を機能させるためにより多くの市民の参加を
 (3)地域コミュニティの主体となる商店街活性
 (4)まちづくりと商店街活動の調和
 (5)すべての人にやさしい街づくりの推進を
 (6)まちづくり条例の推進を
第6章 金融・税制に関して
 (1)政府に対し以下を要望してください。
 (2)自治体での施策を講じてください。
 (3)信用保証について
 (4)税制に関して
第7章「ひと」に関して
 (1)若年層の資質低下の抜本的改善策を
 (2)就職指導に中小企業経営者の声を
 (3)大学生の就職協定の復活または新たなルール作りを
 (4)ミスマッチのない高校生の就職活動を
 (5)地域企業として障害者雇用について
第8章 最後に


第1章 はじめに

 私たち愛知中小企業家同友会は1962年7月に47名の経営者で創立され、現在、愛知県下42の地区(基礎組織)で2500名を超す中小企業経営者が参加する異業種の経営者団体です。「経営体質の強化」「経営者の能力向上」「経営環境の改善」をめざすという「3つの目的」に基づき活動しています。また全国46都道府県に同友会が組織され、約3万7千名の中小企業の経営者が参加しており、全国組織として「中小企業家同友会全国協議会」(略称:中同協)があります。

 私たち同友会は地域経済にやさしく、中小企業等に円滑に資金供給が行なわれる金融システムをめざす「金融アセスメント法」制定の全国運動を展開しており、101万名を超える署名、さらに全国945議会(いずれも2005年1月14日現在)で意見書が採択されました。これらを受けて、一昨年3月には「リレーションシップ・バンキングの機能強化に関するアクションプログラム」や「金融検査マニュアル-中小企業融資編」(再改定)などが行われました。当会でも地元8行の経営幹部の方々と懇談会を行い、地域経済に果たすお互いの役割について意見交換を行ってきました。

 近年、景気が回復基調にあり、特に中部圏においてその傾向が顕著になってきたとはいえ、まだまだ一部業種での回復であり、当会の昨年11月末景況調査では、「一進一退の景気回復~楽観的見通し薄れる」と指摘しています。多くの中小企業はまだまだ厳しい経営環境下にあり、雇用や事業を通じて社会に貢献する役割を十分に果たせない状況にあります。地元の中小企業が元気になってこそ、愛知県経済も元気になると私たちは確信しています。

 このような中、行政の果たす役割は、きわめて重要だと私たちは考えます。中小企業基本法では、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」(第6条・地方公共団体の責務)と謳っており、中小企業振興における自治体の独自の役割と責務をかつてなく強調しています。

 国際的に見ても、中小企業は、「産業の新しい担い手」(OECD1998年「産業政策の新たな指針」)、「21世紀のアメリカ経済の根本的存在・エンジンである」(アメリカ中小企業法・1997年改定)、「小企業は欧州経済の主柱である」(EU「小企業憲章」2000年)など、国際的にもその存在が見直されているように、日本においても、中小企業政策を産業政策における「補完的役割」から「産業政策の柱」となされるよう望むものです。

第2章 私たち中小企業家同友会の基本姿勢と行政への協力

(A)私たちは、厳しい経営環境の中でも企業の継続発展に全力を尽くし、雇用確保と魅力ある企業づくりに取り組みます。今後の景気後退の嵐を乗り切る経営指針・戦略と社内体制の構築に総力を傾けつつ、大学や金融機関等との連携、行政施策活用などを積極的に進め、企業を守り、新しい市場創造に挑戦します。

(B)私たちは、経営指針の確立と全社的実践に努力し、21世紀型企業((1)お客様や地域社会の期待に応えられる存在価値のある企業、(2)労使の信頼関係が確立され、士気の高い企業)づくりをめざします。特に、企業活動の「血液」である金融を確保するためにも、経営指針を通じて金融機関の理解を深めながら、地域での金融機関との連携を強化します。

(C)私たちは、企業活動を通じて納税者としての社会的責任を果たすとともに、税金の適正な使い方や行政のあり方にも関心を持ち、提言・行動します。とりわけ、公共投資を従来型公共事業から、生活基盤整備・社会福祉・環境保全・防災重視の生活整備型・自然再生型の公共投資へ抜本的に転換させることを求めます。

(D)私たちは、企業の社会的責任を自覚し、環境保全型社会づくりに取り組みます。環境負荷の少ない企業活動を実践するとともに、エコロジーとエコノミーの統一による仕事づくりや地域づくりを行政・市民団体等と協力しながら挑戦します。

(E)私たちは、経営者自らの教育を含めた21世紀の最も貴重な資源である人づくりと次世代を担う若者が働くことに誇りを持てる職場と社会の環境づくりに努めます。

現在、愛知同友会では会員専用のグループウェア「あいどる」という2500名の経営者のネットワークがあります。これを利用して現状把握(調査)や企業家のニーズ把握、また施策関連に対する意見(モニター)等についても積極的に協力させていただきたいと考えます。

第3章 重点要望

(1)中小企業の活性化による愛知の景気回復策を最優先課題として、実効ある施策を講じて下さい。

(2)「愛知県中小企業振興基本条例(仮)」を制定して下さい。その為に「中小企業振興会議(仮)」を設置してください。

(3)地元の各自治体と連携し、県下の中小企業の実態調査を本格的に行い、その結果を分析・公表してください。

(4)愛知県の財政再建のために不要不急の大型開発を見直し、財政支出を転換して下さい。このことは、当会のアンケート調査でも圧倒的多数が経済的な波及効果の高い「生活基盤整備」を求めていることにも現れています。

(5)中小企業を経済発展と雇用の主役に位置づける「中小企業憲章」の制定を関係諸機関に働きかけてください。

(6)「金融アセスメント法」制定を関係諸機関に働きかけてください。

第4章 ものづくり「愛知」を

 中小企業庁の「経営戦略に関する実態調査(2002年)」によると、1年間に廃業や倒産した企業によって代替不能な技術や商品サービスなどの取り扱いを断念したと回答した企業が11.7%もあり、技術ノウハウなどの無形経済的資源の喪失が続いております。2004年5月の愛知同友会景況調査レポートでも、中小製造業を取り巻く状況は長引く不況による生産能力の低下、業界全体のキャパシティ低下が指摘されています。特に、中小零細製造業の廃業や人員削減などによる難加工技術対応力が低下しています。

 また、デフレ下における高コスト構造(資材高・リスク管理など)の吸収、設備・人材投資・技術継承の困難性、新しい分野への取り組みなど、中小製造業の現場構造も大きな変化が出てきています。こうした現場変化の状況をよく把握し、複合的な視点を持った愛知県独自の施策が求められていると考えます。

  1. 一部のベンチャーや新規研究開発支援重視型から、現在の競争技術力を下支えしている裾野の広い「がんばる」既存の中小企業の経営革新や技術革新および市場開拓などへの支援策をより一層強化して下さい。
  2. 愛知製造業の競争力の下支えをしている、既存中小零細製造業の独自技術力や役割等の発掘評価およびその基盤構造を調査研究し、その現実から出発した「愛知独自の」地域性を持った5~10年後の愛知産業育成策づくりを行って下さい。
  3. 「愛知ブランド」をより内実豊かに、世界への共感とアピール力を持ったものに育てたいと考えます。「品質・顧客第一主義・環境配慮」の内容を、より一層「愛知ならでは」のものとするために、その基盤下支えとなっている中小独自技術力や品質サービスの優れた部分を具体的に明らかにし、育て、競争力強化をはかって下さい。また、地域ごとの特徴を踏まえた各市町村からの推薦等、ボトムアップ手法も有効と考えます。
  4. 各種支援策や助成金などの実施において、「がんばる企業」の裾野を増やすためにも選出に漏れた企業への後フォローや改善指導など、きめ細かい支援策を強化して下さい。一歩一歩チャレンジアップしていけるしくみを検討して下さい。
  5. 熟練技術、高度な難加工技術、基盤技術の弱体化懸念が一層強まっています。多くは中小零細製造業が支えている分野となります。高齢者の定年再雇用と若者雇用のセットでの助成金など、中小零細製造業における若手への技術伝承が積極的に行えるような各種きめ細かい支援策を検討して下さい。
    また、マイスター表彰制度なども、「愛知を支える基盤技術構造」や「維持強化すべき技術」を明らかにし、愛知の独自性を強く打ち出したものとして下さい。中小企業での技術継承により活用しやすく、また、若者が希望を持ってチャレンジして一段一段キャリアアップをはかれるような統一性のある施策へと、さらに改善をはかって下さい。
  6. 愛知には、豊かな農林水産物や伝統文化などをバックボーンとした裾野の広い多様な製造業群が相互に連携関連しつつ存在しています。それらの愛知県産業の全体構造を明らかにして、それぞれの強さや課題などを政策化し、総合一体的な産業政策づくりを望みます。
  7. 各種中小企業支援政策の窓口一本化「ワンストップサービス化」をより実質強化し、わかりやすく活用しやすいものに改善して下さい。国・県・市・省庁別や3つの支援センター、商工会・外郭団体などで行われる各種支援策が、バラバラなものとしてではなく、統一補完的内容で総合相談が1ケ所で行えるように窓口を集約統一化し、きめ細かい支援体制を充実強化して下さい。

第5章 地域社会と中小企業

 地域づくりの基本は、その地域に根づいた社会的生産基盤を維持し発展させることでなければならないと考えます。これを実行することは国家には不可能であり、自治体あるいはコミュニティにこそその役割があります。まちづくりにとって最も大切なことは、人々が安心して住み続けることの出来る安定したコミュニティを築くということです。

 ところが今、安心して働き、地域に暮らすことが喜びとなる、そんなまちの姿が危機に直面しています。中小企業にとって、新しい技術を担う優秀な人材を確保するためにも、アメニティ豊かな優れた居住環境を築くことが不可欠です。

 私たち中小企業は、地域に根ざし、地域の住民をつなぐコミュニティのつなぎ目の存在です。同友会の会員企業2560社(2005年1月27日現在)と、社員、家族185,629名(総従業員数×所帯平均2.74名)は、住民組織の担い手として地域コミュニティ再生の活動に力を注ぐ重要性を認識しています。

 まちづくりの担い手としての私たちは、愛知同友会として「99同友会ビジョン」を掲げ、学びと実践を積み上げてきました。だからこそ、私たちは自分達の経営だけでなく、コミュニティの中で、安心し、自信を持って地域経済の活性化のために、一層邁進できると確信しています。そのために以下の点を要望します。

(1)TMOの計画段階から多くの市民の主体的参加を

  1. まちづくりの主体者は、その地域住民や地域の商工業者です。現在、TMOとなりうる主体は、商工会、商工会議所、第3セクター特定会社、第3セクター公益法人の4種類に定められていますが、具体的な政策立案として、地域住民や中小企業など、地域の当事者から広く意見、要望を聞き入れる「まちづくり政策の公募システム」を確立してください。
  2. 上記のシステムにそって出された様々な意見を、具体的な政策立案へ導く「まちづくりのスペシャリスト」を、随時派遣ではなく、各地方自治体で育成し、専門機関として常設してください。
  3. 愛知県は、全国の都道府県のなかで、多くの基本計画の策定がなされています。既に計画策定が終わっている市町村についてはこの段階での検証を、これから計画を始める市町村には、これまでの検証結果を生かすとともに、より多くの市民の主体的参加を促されるよう要望します。

(2)まちづくり会社を機能させるためにより多くの市民の参加を

  1. まちづくりは様々な人が関わることで、より具体的で積極的な取り組みになると考えます。まちづくり会社をはじめ、TMOの実行組織を設立する際には、様々な経営者団体、市民団体の代表を積極的に参画させるシステムを確立して下さい。
  2. 地域住民が自らまちづくりに積極的に関われる仕組みとして、例えば、まちづくり会社の株主構成を拡大して下さい。「地域住民によるまちづくり会社の株主公募制度」を確立してください。
  3. さらに、住民のまちづくりへの関心を喚起する「まちづくりの情報公開システム」を確立してください。
  4. TMO実行組織をより実行力のあるものとするため、その経営内容を指導する監査機能を確立してください。
  5. まちづくりの理解を広め支援する市民講座を開設してください。
  6. まちづくりのエネルギーとなる、地域住民主体のNPO活動、ボランティア活動の組織化支援策を充実してください。
  7. また、これらの組織の情報交換、ネットワーク化を促進し、より活動が活発になる支援機能を確立してください。

(3)地域コミュニティの主体となる商店街活性

 まちの治安、自治など、地域コミュニティの核として、商店街の果たす役割は大変重要であり、いわば商店街問題はまちそのものの問題であるといえます。そこで商店街がより活性化するため、以下の各個店の魅力強化を行う政策の充実を要望します。

  1. 商店街活性化の「リーダー育成塾」を充実してください。
  2. 商店後継者育成の一環として、地域の小学校、中学校、高校、大学などと連携し、商店街、各商店の企業見学、実習、職業訓練などを行い「働くことの大切さ」「身近な商店街の魅力」が実感できる制度を確立してください。
  3. 商店街は様々な店舗があってこそ魅力を増します。商店街のいわば不足業種を補う「商店主公募」「店舗の家賃補助」などの支援策を充実してください。
  4. あわせて各個店の魅力を引き上げるため、複数の同一業種を意識的に配置し切磋琢磨する関係をつくりだすシステムを構築してください。いずれもこれらの政策立案には、商店主以外の住民参加で立案してください。

(4)まちづくりと商店街活動の調和

 少子高齢化社会にとっては、地域のなかを歩いて、あるいは公共の交通手段によって容易に買い物が出来る商店街の存在は重要です。まちづくりを考える際、地域コミュニティの核として商店街形成を考えることが大切です。従来の商店街だけの活性化の視点でなく、商業の活性化は、まちの活性化であるとの認識で取り組んでください。そのためにも、ある程度の広域的な地域の中で、商業者だけでなく地域住民、行政、福祉関係者などの参加による新たなまちづくりが必要と考えます。広域的商業活動に対応した新たな組織や活動領域の枠組みづくりにおいて、推進プロデユーサーの役割の一端を担う行政が、まちのビジョンや計画の実現に向けて実行できるだけのマネジメント力を高めることが期待されます。

(5)すべての人にやさしい街づくりの推進を

  1. 「高齢者・障害者移動円滑化法(交通バリアフリー法)」の可決内容につき、各地方自治体での、高齢者や身体障害者が交通機関を利用しやすくするため、関連設備の整備の進展状況を調査し、促進してください。高齢者、さらに障害者もふくめたすべての人にやさしいまちづくりの推進において、この法律が実行力のあるものとなるよう、各事業者への教育、指導の充実をお願いします。
  2. 生活道路の確保とコミュニティの再生
    基盤整備の名のもとに道路は広くなり、まちはきれいになってきました。車にとって便利のよい道路は、生活者にとっては必ずしも良いわけではありません。特に高齢者や障害者に対してはそのことが顕著に表れます。車中心の道路と生活者中心の道路の区分を考えた道路の線引きをお願いします。また、区画整理など、まちが美しくなるにつれて、路地という生活道路、長年培ってきたコミュニティが失われてきました。生活道路を中心としたコミュニティ再生地区の創出をお願いします。

(6)まちづくり条例の推進を

 そこに生まれ育った人も、現に住んでいる人も、これから越してくる人も、誇りの持てる、住みやすいまちは多くの人の願いです。どんなまちにしていくのかを、多くの人の合意形成をへて考えるまちづくり基本条例にすることが必要と考えます。また、規制緩和の名の元に、地域の実情を無視した開発が目に付きます。元来、開発行為は地域の実情を考慮して行われてこそ安全や住みやすさが保障され、結果としてコスト削減になります。多くの市民の声を聞き、さらに熟成させ、ルール(社会的規制)を作る必要があります。まちづくり条例の設置・推進をお願いします。

第6章 金融・税制に関して

(1)政府に対し以下を要望してください。

  1. 金融庁は中小企業の実情に沿った別の基準の「マニュアル」を作成するように働きかけてください。
  2. 2005年4月からペイオフ完全解禁後も、預金保険法によるペイオフ発動の実効猶予措置を宣言するように働きかけてください。
  3. 2001年3月まで実施された「特別信用保証制度」の一部を変更し、これまでに返済した金額の範囲内で当該企業への再融資を認める制度を創設してください。またその場合、返済金額分に関しては、長期保証としてください。
  4. 中小企業創造活動促進法や中小企業経営革新法に基づく許可、承認を得た企業に対する制度融資に関して、従来型の審査ではなく、計画の内容を適切に評価した制度運用を行ってください。

(2)自治体での施策を講じてください。

  1. 地域の金融機関がその営業地域と中小企業にどのような影響を与えているかの視点(「地域への 円滑な資金供給」「利用者利便」等)から公的機関が評価・情報公開する「金融アセスメント条例」を制定してください。また現在、UFJ銀行と三菱東京銀行との経営統合が進行していますが、上記の主旨を生かしていただき、愛知県の指定金融機関をこの機会に、地元の地域金融機関に移すことを検討ください。
  2. 「リレーションシップ・バンキングのアクションプラン」に基づき、各行が情報開示を行っています。第三者でも比較対照ができるよう、独自の第三者機関を設置し、評価・公表を進めて下さい。
  3. 財政を地域活性化に有効に活用するためにも制度融資、とくにつなぎ運転資金等への制度融資を充実してください。また必要に応じて新設してください。

(3)信用保証について

信用保証制度は中小企業にとって大きな拠りどころともなっている反面、「保証条件が厳しすぎる」等の意見が当会のアンケート調査で結果として出ています。

  1. 審査での物的担保優先主義に偏りがちな傾向を改めて、経営指針の確立、経営者の経営能力、企業の技術力、開発力、市場性、社風等を総合的に評価するシステムへの転換を図ってください。
  2. 保証に際しては原則として第三者保証を求めないようにしてください。
  3. 2001年3月まで実施された「特別信用保証制度」の一部を変更し、これまでに返済した金額の範囲内で当該企業への再融資を認める制度を創設してください。
  4. 不動産担保に代わる担保制度(在庫等を担保に設定)や知的財産を活用した資金調達のため、評価手法の確立など早期の制度実現や活用の促進をはかって下ださい。

(4)税制に関して

  1. 外形標準課税は人件費比率が比較的高い中小企業ほど負担が大きく、さらに不況下で赤字経営を余儀なくされている企業にも課税されることになります。税負担能力がないところへの課税は、倒産や滞納の拡大につながるなど、社会的歪みが生じるばかりでなく、日本経済の活力削減につながります。外形標準課税の導入は中止するよう関係諸機関に働きかけてください。
  2. 消費が低迷している中、何らかの形で消費税の減税を求める声は根強くあります。消費税3%から5%の引き上げによって景況に大きなダメージを与えたように、今後とも、このような増税を行わないよう関係諸機関に働きかけてください。また、県税分1%のアップを求めないでください。
  3. 相続税、贈与税の軽減の動きはありますが、特に後継者問題とも関連して中小企業の事業承継税制の改定は急務です。事業用資産は事業を承継することを条件に、事業承継猶予制度の確立を国に要望して下さい。
  4. 私たちは国税の一部を地方税に回す財源委譲措置が適切であると考えており、地方分権によって地域経済の活力を地域の中から築いていくことができるように、権限委譲に比べて遅れている財源委譲を速やかに実施するよう関係諸機関に働きかけられるよう要望します。

第7章「ひと」に関して

 中小企業は地域の人々に支えられながら、地域の人々の暮らしを支えています。私たちが求める人材を一言で言えば「豊かな人間性に裏打ちされた知識と感性の持ち主で健康な人」です。つまり「まともな人間」ということです。しかしこの「まともな人間」が少ない(育ちにくい)のが現状ではないでしょうか。そこで、全従業者数の8割を雇用している中小企業の立場から当面次のことを要望します。

(1)若年層の資質低下の抜本的改善策を

「今の大学生は10年前の高校生」と言われるように一言で言えば幼くなってきています。大学で職業教育云々されていますが、それ以前の問題として基礎学力や何よりも自分で考える力を育てて欲しいものです。そのためには大学・高校よりむしろ初等教育段階で、教育基本法の精神にのっとり、一人一人を大切にし、誰にも分かる教育で基礎学力を、常に問題意識を持ち考える習慣を、身に付けさせねばなりません。そのためには指導要領の見直しや、何よりも小中学校教員の資質の向上も必要だと考えます。

(2)就職指導に中小企業経営者の声を

学生に就職指導をする際、中小企業を大企業と差別をしないよう学校の担当者に徹底してください。 中小企業の実態を知るためにも、進路指導の一環として中小企業の経営者が語る場を教育現場でカリキュラムとして加えるようにして下さい。学んだ専門性をどう生かすか、また別の道を選ぶのか(文系が製造職、理系が営業職etc.)など、実社会の現場を知っている強みを生かし、テクニック論ではない本質的な話しをすることができます。

(3)大学生の就職協定の復活または新たなルール作りを

「就職協定」廃止後の採用活動の現状は早期化・長期化がすすみ、学生にとって本来の目的である学ぶ機会を奪い、学びの場に混乱をもたらしています。中小企業にとってみると、一年半も前に採用計画を立て採用活動に入ることは、きわめて困難です。そこで「就職活動の開始は早くても最終年次になってから」というような大企業にも強制力を持ったルール作りを、一部企業の倫理憲章というようなものでなく、行政が仲立ちとなり、早急に実施するよう要望します。

(4)ミスマッチのない高校生の就職活動を

高校生の就職率の低下、離職率の高さが問題になっています。その原因は、第1に働くことに対する体験・実感が乏しい上に、判断力を養う機会を与えないまま極めて限られた情報の中で決断を強いています。第2に、一発勝負であるがゆえに生徒・企業双方の選択の権利を奪っています。第3に、納得や意識が醸成されないまま就職することによって、企業に対して過酷な教育努力を強い、結果早期離職を発生させていると思われます。そこで、これらの問題を改善するためには、学校・企業・行政が一体となって取り組む必要があります。
具体的には(1)高校生向けの合同企業説明会の開催(9月以前)、(2)応募前の企業見学・企業訪問の制度化、(3)複数企業受験の解禁、内定辞退禁止規程の廃止などを早期に実施してください。

(5)地域企業として障害者雇用について

ハンディを持つ障害者と共生できる充実した社会を目指し、自分を試す機会を与え、能力に応じた職業につき、生きがいと働きがいのある雇用に機会を提供するためにも次の要望を致します。

(A)雇用時の形態(行政機関経由雇用、直接雇用)によって被助成に差異の無い様に制度の見直しを要望します。

(B)障害者雇用手続きの簡素化を要望します。

(C)雇用実態と社会情勢に柔軟に適合できるよう制度の見直しを要望します。

第8章 最後に

 中小企業は、時代がどんなに変化しても、国民の要望に応えた商品を生産し、流通とサービスを提供して地域社会の雇用を支える位置にあり、地域の生活の安定と繁栄を確保することは、私たち中小企業家に課せられた課題であると自覚しています。 その意味からも、同友会では「中小企業憲章」の制定を提唱しており、その主旨を地方公共団体にも徹底するため、「中小企業振興基本条例」の制定を求めていきたいと考えております。今後とも、ご理解をいただけるよう努力していく所存です。