活動報告

第15回あいち経営フォーラム(基調講演)

どんな時も展望を掲げ 人間らしく生きる未来へ

河野 通洋氏  (株)八木澤商店・代表取締役(岩手同友会理事)

地域への想いを熱く語る河野氏

何の志もなく入会

河野通洋氏が1999年に八木澤商店の9代目として入社した当初、会社は洪水の被害で経営難に陥り、金融機関からは貸し渋りを受けました。危機的状況の中、河野氏は金融機関用の事業計画書を1人で作成し、社員に押し付けて実践します。その結果、キャッシュフローが改善し、金融機関からも高い評価を得て、勘違い経営に拍車をかけることになりました。

その後、同友会に入れば売上が伸びると思い、何の志も持たずに入会します。しかし、指針講座で「あんたの会社で働かされる社員は地獄だ」と同期の会員に言われ、社員の立場なら耐えられないことに気づかされました。

そこから心機一転、社員の前で「経営理念を一緒に作ってほしい」と呼び掛けるものの、社員からはつるし上げを食らいます。そんな四面楚歌の中、河野氏自身の行動計画を作成し、社員に対する誓約書のようなものが、指針講座受講後の初めての指針書となりました。

地域を悪くしているのは誰か

岩手同友会・気仙支部発足の際、「地域を悪くしているのは誰か」という議論が展開されました。そして、「我々が新しい価値を生み出し、雇用を生み出してこなかったから地域が衰退し、地盤沈下を起こした」との結論に至ります。

震災前、地域再生のために中小企業振興基本条例づくりや共同求人活動に取り組みました。地元高校生を対象に、この地域を大切にして新しい価値をつくろうとしている中小企業を知ってもらう例会を行い、大学に行けないから仕方なく地元の中小企業に就職するのではなく、将来の夢として地域の中小企業で働こうと思う学生が1人でも増えてくれれば、地域は変わっていくと期待していました。

河野氏の報告に聞き入る参加者

1社も潰さない

ところが、2011年3月11日の東日本大震災で工場も自宅もすべて流されてしまいます。商品も、働く場所も失った状況でも、「残った社員がいれば必ず何か役に立つことができる」と、会社を潰す気は全くなかったと河野氏は振り返ります。

自分以外の家族全員が亡くなってしまった社員が何人もいる中、生活と働く場を切ってしまえば、その人は本当に1人ぼっちになってしまう。首をくくってしまう危険があると危機感を覚え、気仙支部の仲間たちとも「1社も潰さない。雇用存続の手段を考えよう」と声をひとつにして再建に乗り出しました。

今現在、陸前高田市で53%の会社が再建しているうち、同友会会員企業においては、経営者と全社員が亡くなってしまった1社を除き、全社が再建して、未だに1社も潰れていない状況です。

また、同友会のメンバーで「なつかしい未来創造」という会社も立ち上げ、10年後に働く場所をつくる活動を展開。現在までに、陸前高田に約40社の起業家を生み出しました。

最後に河野氏は、「宮沢賢治、石川啄木、新渡戸稲造の言葉を胸に、これからも地域再生に全力を投じていきたい」と報告を締めくくられました。