活動報告

第54回定時総会 第1分科会(4月24日)

人を生かす経営の根幹とは
~人間の素晴らしさを発揮できる社会のために

杉浦 昭男氏  真和建装(株)
北川 誠治氏  (株)キタガワ工芸

杉浦昭男氏

経営の覚悟はあるか問う杉浦氏

経営の覚悟はあるか問う杉浦氏

雇用だけは守る

「同友会会員は社員を解雇してはならない。少なくとも私は解雇しない」。2010年定時総会の記念講演で加藤代表理事がこう宣言しました。08年のリーマンショックにより、自動車関連を中心とした会員企業の多くが厳しい経営を余儀なくされました。加藤氏の会社も売上げの7割が減ったといいます。そんな極限の時に、「社員の雇用だけは守る」と宣言した経営者の覚悟は計り知れません。代表理事のこの宣言は、会員に対し「同友会運動とは何か」を知らしめる力強いメッセージとなりました。

経営者の覚悟はあるか

共育とは、経営者と社員が育ちあう風土をつくる、同友会運動の根底にあるものです。「共に育つ」とは、一言で言うと経営者の「覚悟」で、社員に成長を求めることではありません。

経営者には、「何があっても社員と共に生きていく」という覚悟をし、社員やその家族の生活を守る責任があります。それが社員に伝わった時、「この社長の下で働けて良かった」と感じてもらえ、労使の信頼関係ができていくのです。

社員は、人格も資質も能力も一人ひとり違い、中には、成果がなかなか出ない人もいます。しかし経営者は、人の資質を信じ、成長できる環境をつくらなければなりません。

いつの時代も社員と共に

「人を生かす経営」の根幹は、「人間尊重」の考え方です。同友会が誕生した1957年当時は戦後復興の真っ只中で、人間尊重を無視した劣悪な労働がまかり通っていました。歴代の先輩たちはそんな社会に異を唱え「経営者も労働者も対等だ。人はみな幸せになる権利がある」という人間尊重の精神を胸に、まずは自分たちが勉強し、変わろうと同友会をつくりました。その日から社員と共に歩んできた歴史が労使見解となり、今の同友会があるのです。労使見解の実践が「共に育つ」に繋がります。同友会は、利益を上げることではなく、経営者としての生き方や資質を学ぶ場であり、「共に育つ」を実践しなければ入会した意味がないとさえ思うのです。

真の「人を生かす経営」とは何か考える参加者たち

真の「人を生かす経営」とは何か考える参加者たち

絆で危機を乗り越える

とはいえ、過去に社員の解雇を考えたことがあります。1回目は、息子が労働災害で亡くなった時でした。会社を廃業して息子への報いにしようかと悩んでいたところ、社員たちに「社長と働き続けたい」と懇願され、同友会で「共に育つ」を学んできたのに社員の生活を考えていなかった自分を恥じました。

2回目は、バブル崩壊、姉歯事件、リーマンショックと、建築業界の危機が続いた時です。「社員の首を切るしかない」と悩みましたが、仲間の助言で踏みとどまり、翌年には会社の売上げは黒字になりました。悩んだ末に決めた社員の配置転換では、「会社の危機なら喜んで移ります」と言ってくれ、社員の会社を想う気持ちが嬉しかったです。

命尽きるまで社員と共に

「共に育つ」は、すぐにうまくはいきません。なぜなら、会社ごとに風土も社員も違うからです。社員に信頼してもらえる経営者になるため、実践し悩むなかで少しずつできていくのです。

「明日死ぬと思って生きなさい。永遠に生きると思って学びなさい」。これはマハトマ・ガンジーの言葉で、私のテーマです。これからも命が尽きるまで社員と共にがんばっていきます。

北川誠治氏

自社の実践例を語る北川氏

自社の実践例を語る北川氏

「採用」で社内活性化

当社では、「採用」は人採りではなく、社内活性化のために行うことだと考えています。採用をするためには、社内の見直しや改善が重要で、それが社内の活性化に繋がるのです。

近年、企業にとって採用環境は厳しい状況ですが、学生も人生を左右するので真剣に就職活動に取り組んでいます。当然、将来が見えない会社には入りません。だからこそ、経営指針が必要なのです。

皆さんは、採用する側だからといって、学生に横柄な態度をとっていませんか。酷いものでは、面接で身体的なことを指摘する例も聞きます。学生は、企業の将来ビジョン実現のための仲間です。企業も学生も対等な立場という考えで、採用活動を行う必要があります。

社員が成長できる環境を

同友会では、社員教育のことを「教育」ではなく「共育」と表現しています。これは社員と経営者がお互いに学び成長しあうことであり、経営者はこうした環境をつくることも必要になります。

なお「共育」にはもっと広い意味があります。会社は様々な会社に影響し、影響されて存在しています。自分の会社が繁栄することによって、取引先やお客様、金融機関、さらには地域も潤うのです。そうして自社だけでなくお客様や仕入れ先、金融機関や地域も共に成長することが「共育」だと考えています。社会に生かされていることに感謝し、その感謝を商品やサービスとして表現するために、企業は成長していくものだと思います。

実践していること

では、このような考え方の基での、自社の実践事例を3つ紹介します。まず就業規則は社員と会社の約束事であり、お互い納得のいくものにすべきと考え、当社では、就業規則や賃金規定の見直しを経営陣と社会保険労務士だけでなく、社員も参加して行っています。

次に採用活動は、理念や方針の浸透に大きな役割を果たします。採用担当の社員は自ら理念や方針を学生に伝えますし、メンバーを毎年変えることで、自分の言葉で自社を語る社員が増えるのです。

そして最後に、企業活性化のため、これまで役職者が作っていた新入社員マニュアルを、社員に任せるようにしました。そうすることで、新入社員の目線で考えることができ、教育制度の見直しにも繋がっています。

失敗から学んだこと

しかし、全てが順調なわけではありません。失敗から学んだことは、全部を社員任せにせず、社員と関わり話をし、手法に頼りすぎずマニュアルはツールと考え、社員に伝えることです。直接伝えた方が早いことも時間をとって、本人に考えさせ、同友会だけでなく地域や友人から学ぶ機会を設けています。

会社は人で成り立っているので、社員が育つと会社も育ちます。経営者と社員が一丸となれば、これだけ強い集団はありません。社員はお互いの将来ビジョンを実現するための仲間であり、彼らの夢の実現によって会社の夢の実現にも近づくと信じています。

【文責:事務局 三宅】