活動報告

第17回 あいち経営フォーラム 基調講演

独立中小企業をめざそう
~正しい情勢認識と人間尊重の経営でより良い社会づくりを

黒瀬 直宏氏  嘉悦大学ビジネス創造学部教授

中小企業の優位性を生かし市場構築する

中小企業の優位性を生かし市場構築する

11月22日(火)に開催された第17回あいち経営フォーラムの基調講演の内容を以下に紹介します。

大手依存の会社は利益が少ない

中小企業庁が2005年まで行っていた「下請中小企業短期動向調査」によれば、下請け受注額は1990年より減少を続け、90年を基準として2005年には4分の1、単価は2分の1となってしまいました。これは実質、受注量も半分になってしまったことを表しています。

またトヨタ自動車グループの1次・2次サプライヤーに関する調査では、7割の企業が13年になっても07年の売上を回復しておらず、これは昨年もまだ続いています。そして、トヨタグループの1次サプライヤーでありながら、同グループが売り上げ先の1位という企業は全体の4分の1しかなく、かつ収益も良くありません。

これらは、たとえ世界一の自動車会社の下で仕事を得ていたとしても、自然と経営を発展させられる時代ではないことを意味しています。つまり自分の仕事は自分で創り出し、正当な価格を貫く「独立中小企業」にならないと、この先、生き残っていくことはできません。

独立中小企業に必要な戦略を語る黒瀬教授

独立中小企業に必要な戦略を語る黒瀬教授

事業分野・市場開発・組織の3つの戦略

独立中小企業となる上で欠かせないのが、事業分野・市場開発・組織に関する3つの戦略を有することです。

発展している中小企業は、必ず明確な事業領域を設定しています。中国を初めとする発展途上国の進出により、安くて良いものを作れば売れる時代から、難しくて他で真似のできない商品づくりを行うことで利益を上げられる時代へと変わりました。つまり、事業領域を「反大量生産型(多品種少量生産)高付加価値分野」へ設定することが肝心です。この分野は着実に広がっており、例えば付加価値を高めることで大きく売上を上げた杖の事例が、私の知る限り3件あります。人類の歴史と共にあるといっても過言ではない古い歴史を持つ杖でも、満たされていない需要がまだあるということです。

市場開発については、まずマーケティングですが、新しい需要を把握することは簡単ではありません。しかし、成功している企業は、概して市場の「つぶやき」を聞き取っています。そのためには一人ひとりの顧客に密着し、本人すら気付いていない潜在ニーズを掘り起こすこと。何気ない風景からニーズを察知し、引き出すための関係づくりが欠かせません。

また中小企業は知名度が弱く、販売に苦戦することがありますが、これを解決するには、有力関係者を味方に付けることが必要です。単純に著名人ということではありません。一般顧客こそ、有力関係者に成りえる存在です。

ただのお客様から得意客となれば、後者は購入してくれるだけでなく、自社の味方をしてくれます。口コミの強さは法則化もされています。一対一でつぶやきを聞き取り、一対一でお客様と向き合い、味方に取り込んでいく、いわば「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」が必要で、これは大企業より中小企業の方がはるかに得意な分野です。

大切な場面情報

こうしたマーケティングと個々の企業に蓄積した経験技術を生かしていく必要があるのですが、両者に共通するのは「場面情報」(その場その場で発生する情報)だということです。ただの情報では効果がありません。生の情報を、その背景にまで問題意識を持って捉えることで場面情報となり、それを基に市場を定めていくことが大切です。

そうした情報を手に入れるには、企業内外での情報共有ループを形成することが欠かせません。情報共有の必要性は、経営計画を多くの社員と作成している会社ほど利益が上がっているというデータからも明白です。そして、このループを作ることもまた、規模の小さな中小企業の方が、大手企業よりも得意としています。

これまで挙げた企業は、なにも天才的な経営者や社員で成り立っているのではなく、中小企業ならではの優位性を生かすことで、独自市場を構築し、独立中小企業へとなっています。大企業からのトリクルダウンで経済が良くなることはあり得ません。こうした独立中小企業が増えることで、中小企業が大企業と並び産業の柱となり、そうして初めて日本経済が再生したといえるのです。

【文責 事務局 橋田】