活動報告

第19回あいち経営フォーラム 基調講演

将来を展望し、同友会のど真ん中を歩く
~未来を変える会社・地域づくり

佐藤 全氏
(株)ヴィ・クルー代表取締役
(宮城同友会/中同協・共同求人副委員長)

ヴィ・クルーを取り巻く激変する経営環境を分析

昨年11月19日に開催された第19回あいち経営フォーラムでの佐藤全氏による基調講演の概要をご紹介します。

地球を救う車を創る

自社の仕事は、バスに関する車体整備、車体製造、自動車部品の開発・販売という大きく3つの柱があります。

経営理念は、15年前に同友会へ入会して作り、その時に10年ビジョンも作成しました。いざ10年が経過し、現在は第2章として「走れば走るほど地球を救う車を創る」ことを目指しています。

化石燃料からEV化へと、自動車産業はパラダイムシフトしている最中です。この大転換を受けて、仕事の数を追うのではなく、1つひとつの仕事で必ず利益を出していかないと、地方である東北の人間は生きていけません。よってこうした変化に敏感で、大きな脅威でありチャンスでもあると捉えています。

通用しない当たり前

自社では中国企業と共同でEVバスを開発し、先日デビューを果たしました。動力がモーターに置き換わることでエンジンやミッションがなくなり、排気ガスは出なくなり触媒部品も不要になるなど、実際に手がけることで大きな違いを感じました。車検では、ブレーキとサスペンションを見れば問題ないくらい、部品点数が大きく減っています。エンジンが不要になるということは、私たちのような中小企業でもEV自動車製造へ参入できるということで、参入障壁の低下は明らかです。

しかし、自社のある地方と違い、東京をはじめとする大都市圏では車は所有からシェアするものへと変わりつつあります。年々その割合が増えるにしたがって、販売台数は減っています。

自動車会社が、IT企業などと連携して今まで当たり前だった「車をつくる」というモノづくり自体を見直し、「コト売り」という移動のサービス産業化を進めているのが自動車産業の現状です。

自ら仕掛ける側に

佐藤 全氏

では、自社の存在するバス業界はというと、非常にニッチな市場であり、規制緩和の影響である時期に業者が増えたものの、過当競争による事故を教訓に規制が一転、強化されています。併せて、他業界以上に人材不足です。昔は花形だったバスの運転手を目指す若者はほとんどおらず、そのため高齢になっても仕事を辞められません。そして運転手が突然倒れて事故が起こるといった悪循環が続いており、業界は縮小しているのが現状です。

車両台数は2011年頃より伸びていますが、これは制度上、より安全なバスへと買替需要が高まったためで、一時は納車が2、3年待ちの時もありました。しかし、今ではそれも落ち着き、1年の需要がおよそ4000台、これを2大メーカーで考えると、1メーカーあたり1カ月100台超です。これ以上台数が伸びる見込みがないため、大手企業でも投資に消極的です。

自社はバス事業者などから仕事を頂いていますが、その事業者の仕事は旅行会社からのものです。しかし、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や国内IT企業の連携が今後進むと、IT企業からバスの仕様を提示され、それに従わないと使われないという状況になることも想定されます。

また、自動運転が普及しても、車の所有よりシェアが増え、ただ近場にある車を利用するようになると、何をもって車を差別化するのかが難しくなります。

車は単純な移動体として扱われ、これまでアナログかつ信頼に基づき行われてきた仕事が、IoTにより自動で修理工場と繋がるようになるかもしれません。また、電子・システムが分からないと、修理すらできなくなります。そうなると、人材育成や求める人物像も大きく変わります。

東京をはじめとする大都市圏は、オリンピックに合わせて5G(第5世代移動通信システム)がサービス開始の予定ですが、自社のある白石市など地方では整備が10年ほど遅れるかもしれません。もし自社が5Gサービスを使おうとしても、その時に始めたのでは、既に進んでいる大都市の企業が押し寄せていて、とても太刀打ちできないと思われます。

時代の変化がわかっているのならば、受け身になるより仕掛ける側に回りたいですし、大変革の時代こそビジョンを描く価値があるのです。

対極で考える

私は、現状とその対極にある未来を常々考え、このことは社内でも発信しています。例えば、自動車を「化石燃料を使い、排気ガスを吐き出し、走れば走るほど地球を汚す」と捉えると、未来はその反対として、「走れば走るほど地球を綺麗にする」と描き、そうした対極の考えで10年ビジョンを社員と考えます。社内が今「不満・文句が絶えない」とすると、「ポジティブな意見が多い」未来を描くのです。

そうした会社になるためには、同友会の各委員会で勉強したり、新卒採用を継続したりするのです。何も目新しいことではありません。同友会では「三位一体の経営」として指針・採用・共育という3つの実践を推奨していますが、一部にのみ取り組む方が散見されます。会社をより良くするには忙しさを口実にせず、3つ全てに関わり学んでいかないと実になりません。

人生をかけた指針

私にとって10年ビジョンとは経営者としての覚悟の表れであり、人生をかけた指針です。前向きに見えるかもしれませんが、心の中は不安で一杯です。ただ、やり遂げた先の景色を一度知ってしまうと、足を止められませんし、「メーカーを目指す」と夢を掲げた以上、何倍も努力し、常に挑戦してきました。

同友会に入会する以前、自社には3年後の目標はあっても、10年ビジョンはありませんでした。経験上、確かにどちらでも社員と同じ目標を持って進んでいけます。しかし、3年後の目標だけで経営していた時は、目先の仕事に追われ、何のために働いているかを見失うこともありました。また、新卒採用で3年後の目標を話すのでは、彼らには響きません。やはりワクワクするような将来を語ることで、共に仕事をしたいとの想いが生まれますし、より先の大きい夢の方が社員のやりがいも大きくなります。

10年ビジョン第2章へ

大型自動車は分業制の会社が多い業界です。新卒採用を25年続け、新たな仕事をつくり彼らを迎え入れようとした結果、できることが増えてその総合力が強みとなりました。今では移動検診車や、国内で唯一ボンネットバスを新車で製造しています。

そしてビジョン実現へ向けて、「室内空間のエンターテインメント化」や「中間解体・破砕業の開始」、「化石燃料を必要としない車創り」と各項目の実現に取り組んできました。これは前述の会社の強みと、10年ビジョンで掲げたものとして、損得を超えた使命感があったからです。

また、今でこそ車体製造を行う会社になりましたが、本格的にシフトできたのは東日本大震災の影響です。「仕事がない今こそ、せっかく掲げたビジョン、車体製造をやりましょう」と、社員が背中を押してくれました。もしビジョンを社内で共有できていなかったら、今はないでしょう。

新たなことに挑戦し続け、1つひとつ形にしてきたというと成功者のように聞こえるかもしれません。しかし、裏ではその何倍もの失敗を経験してきたのです。

10年ビジョン第1章を終え、次は第2章として「自動車メーカーを目指す」と具体的に掲げて5年が経ちました。手段が目的になったこともありましたが、中国のEVバスメーカーとの縁で「走れば走るほど地球を救う車を創る」ことを思い起こし、この企業と共同でEVバス開発を進めました。そして先日無事に初披露できたのは、先に話した通りです。車のベースさえできれば、上に載せるもの次第でどんな車もできあがり、その製造は全国の同友会企業が得意としています。今後はEVバスのベース開発・製造に集中し、横で連携できればと考えています。

「成功の何倍もの失敗をした」と語る佐藤氏

社員を育て会社を変える

新卒採用については、はじめは彼らを借金返済の道具と見ていました。同友会と出会い、労使見解などを学ぶ中で、これではいけないと少しずつ変わり、若者を迎えられる会社にしていったのです。

近年では、地域から若者がどんどん流出していることもあり、海外から技能実習生を受け入れました。当初は社員の外国人アレルギーがひどく大反対されましたが、「違いを認め合う心を育もう」と粘り強く説得した結果、受け入れてくれ、この経験を生かして中国企業ともスムーズに仕事ができたと思います。

また、震災を受け、文鎮型組織で責任・権限をトップの私に集中させていました。その後の環境の変化により、各グループリーダーの役割を経営指針の進捗管理(縦串)と明示し、また組織を横断する技能講習会やマイスター制度(横串)を設けるなどして改善を図っています。

佐藤氏の実践に耳を傾ける参加者

白石の元気を宮城、東北へ広げる

地域とマーケット(市場)を勘違いしていた私は、震災を経験してわが社の地域は地元白石だと痛感しました。白石の中に事業所があり、社員もそこにいます。この白石が元気にならないと、人もいなくなってしまいますし、白石を元気にできないのに「宮城や東北を元気に」といっても響きません。

その頃、中小企業振興基本条例の学習も全国で進められていました。自社の地域に気付いた結果、私は心機一転して前向きに関わることができ、産業振興会議の長を務めることにもなりました。また、自身が勢いで立ち上げた「6次産業」を、宣言した者の責任として実行することになりました。

とはいえ、自社と6次産業は全く関わりありません。そこで、同友会の仲間を募って法人を立ち上げ、地域農作物の買い取りやレストランを始めています。単独ではできなくとも、経営者同士知恵を出し合えば、雇用やワクワク感を生みつつ地域課題を解決できると思います。

評論家から実践者へ

「地域の中に自社がある」自覚を持ち、経営を通して魅力ある地域をつくることは、中小企業の最大の使命です。同友会の繋がりを活用していけば、より広域で大きなことができます。しかし、その前提には確かな企業づくりが必要で、「評論家」ではなく「実践者」となり、「あの会社は変わった・組みたい」といわれるようにしなければなりません。現状を疑いゼロから考え直し、共に新たな価値を考えていきましょう。

【文責:事務局 橋田】