活動報告

10年後の社会・働き方を見据えた企業づくり(8)「女性活躍と地域社会」

ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の観点から

五十畑 浩平氏  名城大学准教授

名城大学の五十畑浩平准教授による問題提起を通じ、今後の社会や働き方についての学びを深める本連載。今回は五十畑氏の論文「地方における女性の労働力と地域社会 ―ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の観点からの一考察 ― 」(2013年)から女性活躍と地域社会について考えます。(画像は五十畑氏の資料より抜粋)

都道府県別女性の労働力率

日本の根強い男女間の性別役割分担意識

まず「ソーシャル・キャピタル(以下SCと表記)」とは、「社会的なつながり(ネットワーク)とそこから生まれる規範・信頼」であり、共通の目的に向けて効果的に協調行動へと導く社会組織の特徴とされます。同友会という組織もSCの1つであり、会員の皆さんは会内での会員間のつながりから多くのメリットを得ているものと考えます。

さて、日本の今後の経済成長を支えるには、女性の労働力をさらに活かすことが欠かせません。しかし、日本における男女間の性別役割分担意識「夫は外で働き、妻は家庭を守る」は依然根強く、女性にとって働きづらい環境であることが否めないのが現状です。ただし、内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査」では、年々この意識が薄まる傾向にあり、女性の社会参画が受け入れられる土壌は広がりつつあるといえます。

地域別の女性労働力率と「SC指数」の相関

ここで、都道府県ごとの女性の労働力率に着目してみますと、東京や大阪、その周辺地域といった大都市圏で女性労働力率が低い一方で、地方では相対的に女性労働力率が高い傾向にあります。また全国的に、女性労働力率は年々上昇しています。

本論文ではこの女性労働力率の地域間格差の要因を、従前の研究のように女性個人やその家族に焦点を当てるのではなく、個人と個人のネットワークや地域社会、あるいはコミュニティに着眼し、SCの観点から検証しています。

日本では2000年過ぎ頃にSCに注目が集まり、03年に内閣府が「SC指数」を用いた調査を行いました。SC指数とは、「つきあい・交流」「信頼」「社会参加」の度合いを数値化するものです。この調査の結果、指数は都市圏では低く、地方では高いという傾向がみられました。

この傾向は女性の労働力率と似ているため相関関係を調べたところ、高い相関があることが判明しました。特に女性30~44歳の労働力率とSC指数との相関が高いことがわかりました。

都道府県別のソーシャル・キャピタル指数(総合指数)

地域企業によるSCの活用事例

SC指数が高いということは、地域内のコミュニティや活動が活発であるということなので、例えば求人活動などにおいて、大手の求人エージェントなどを使うよりも、地域内での口コミその他がより効果を発揮するのではないかという仮説が立てられます。こうしてSCを活かす点においては、大企業よりも地域に根ざす中小企業の方が有利なのではないかと思われます。

この研究のきっかけとなった長野県で行ったヒアリング調査では、A社では従業員には地元の出身者が多く、親子2代あるいは3代続けて同じ会社に従事するケースも見られました。地域での存在感が大きい中小企業ならではの事例ではないでしょうか。

B社では、大学やプロ直前までサッカー選手として活躍してきた人材を採用し、彼らのセカンドキャリアを支援しています。B社を中心に地域の企業で協力し、仕事に従事しながら地元の社会人サッカーチームで活動できるようにしているのです。こうした社会人チームをつくることで、地元の子どもたちにもレベルの高いサッカーを知る機会を与えられるなど、地域社会の市民活動の発展に企業が貢献している事例です。

女性活躍を推進し会社と地域の発展へ

地域の女性労働力率とSCには高い相関があることから、口コミなどでSCを活かすことで、地域人材の雇用や育成につながり、企業や地域の発展にも寄与することが考えられます。同時に、女性活躍推進のカギにもなります。

その主役となるのが、地域に根ざした中小企業ではないでしょうか。地域社会のSCに着目して女性の労働力を活かす取り組みを進めることで、会社と地域の発展につながる可能性を大いに高められます。