活動報告

10年後の社会・働き方を見据えた企業づくり(10)最終回「ゲームアプローチによる“協働共生”」

五十畑 浩平氏  名城大学教授

名城大学の五十畑浩平教授による問題提起を通じて、これからの社会や働き方についての学びを深めてきた本連載。最終回のテーマは、他社との協働による付加価値の創造です。

ポストコロナ時代の付加価値創造

前回、コロナ禍を機に既成概念を問い直してみては、という話をしました。これまでは「安さ」や「早さ」が重要な価値基準でしたが、コロナ禍を機にそうしたライフスタイルを見直すなかで、付加価値を創造していく重要性や、「豊かさ」や「楽しさ」を追求していく必要性に言及したことかと思います。

そのためには、第1に金科玉条の既成概念を一度疑ってみること、第2に自社の強みに改めて着目してみること、第3に自社の新たな強みや存在意義を発見したり育てたりしていくこと、そして最後に、他社と付加価値を創造していくことが挙げられます。この他社との付加価値の創造が、今回のテーマである「ゲームアプローチ」です。

ゲームアプローチとは

経営戦略、とりわけ競争戦略には、「外部」か「内部」か、「要因」か「プロセス」かによって、4つのアプローチがあるといわれています(図参照)。

  要因 プロセス
外部 ポジショニング
アプローチ
ゲーム
アプローチ
内部 資源
アプローチ
学習
アプローチ

競争戦略の4つのアプローチ(五十畑教授の資料より)​

その中で、今回は外部のプロセスに着目したゲームアプローチを取り上げてみます。ゲームアプローチとは、どのようにして都合のいい環境を作り出していくかを重視したもので、それを経済学のゲーム理論をもとに考え出されたものになります。

かけひきと協調関係

ビジネスには常に他社とのかけひきという側面があります。例えば、牛丼チェーン店で考えると、1社が値引きをすれば、他社が追随することがよくあります。結局のところ、自社の行動そのものが他社の反応を誘発しているということがいえます。こうした企業間での相互反応の連鎖・かけひきを重視したのが、ゲームアプローチです。

そして、かけひきと同様に重要なのが、他社との「協調関係」です。ライバルは「戦う」相手であり仲良くするなど考えられないと思う方もいるかもしれませんが、このアプローチでは、ときには協調関係も重要です。とりわけ、市場を大きくする、いわゆるパイを大きくする時は、ライバル同士、協力することも重要でしょう。

例えば、日本の朝食ではあまり馴染みのないシリアル製品を日本市場に根付かせるためには、おそらく複数の企業がシリアル文化を根付かせようと協調したかと思います。

価値を中心とする発想

また、このアプローチには価値というものを中心に考えていくことも重要です。

例えば、駅の価値を考える際、単に乗り降りの場所と捉えるだけでなく、人が集まる場所とも考えると、商業施設や文化施設としての価値も出てきます。実際、駅ナカにはショップやカフェ、レストランなどのプレーヤーが参入したり、図書館を備えた駅ができたりしています。

このように価値を中心に考え、新たな価値からビジネスの枠組みを考えていくことも、このアプローチには欠かせません。

異業種合同プロジェクト

ここで、WiLLプロジェクトについてお話しします。WiLLとは、1999年から2004年にかけて行われた異業種合同のプロジェクトで、日用品、自動車、飲料、電化製品、旅行、文具、菓子の大手企業が参加しました。

こうした一見まったく関係ない企業同士が、二十代から三十代の若者世代に対して新たな価値を提案していこうと、それに見合った商品を各社が開発しました。「遊び心と本物感」を統一コンセプトとして、衣料用消臭スプレー、パソコン、冷蔵庫、ビール、パックツアー、自動車などが商品化されていきました。

2004年で終わったこのプロジェクトの成否に関しては意見が分かれるところですが、まさに参加企業同士が手に手を取って、若者市場を活性化しようと試行錯誤したといえます。

中小企業間の協働共生の将来

今後、中小企業においても企業間の協働共生がこれまで以上に求められてきます。そのためには、このゲームアプローチで重視されたかけひきや協調といったものを意識していく必要があると思います。すなわち、自社の行動が他社あるいはその業界全体にも影響を与え、翻ってまた自社にも影響を及ぼすことです。コストダウンは短期的には自社にとってよくても、長期的には自社の首を絞めることにもなりかねません。一方で、他社と協調していく必要もあるでしょう。

前回の話ともつながりますが、あらゆるものの価値を問い直す必要も出てくるかと思います。とりわけ自社製品や自社のサービスに関しては一義的な価値しか見出せないことも大いにあるでしょう。多様な視点から見直すことで、新たな価値を見出すことができるかもしれません。

以上を踏まえ、同友会会員企業間での新たなコラボレーションのようなことも、積極的に行っていったらよいと思います。中小企業同士で大企業を通さず市場を開拓し、価値を高めていくこともできます。

その際、ゴールの設定は、地域の課題解決であったり、SDGsであったりすると、社会的にも意義が出てくるため、企業も参加しやすくなるのではないでしょうか。