景況調査

第14号-1997年5月
足踏み続く中で、体力格差拡大

【概況】
【業況判断】2・4半期連続で低下した「今月の状況」DI
【売上高】【経常利益】売上高、経常利益ともに好転する
【在庫】流通業で「減少」増える
【価格変動】【取引条件】価格変動、取引条件ともに厳しい製造業
【資金繰り】製造業、流通業で増える「窮屈」
【施設稼働率】【設備過不足】流通業、施設稼働率「上昇」割合が減少
【雇用】サービス業での「不足」感、半減する
【経営上の力点など】「経営上の問題点」の第1位に「人件費の増大」
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(1997年5月)第14号(PDF:615KB)


【概況】

 今回調査の業況判断DI(全業種)は、前年同月比で△7となり前回調査よりマイナス幅4ポイント縮小の改善となった。この結果は、建設業と製造業が前回調査より悪化させているのに対して、流通業とサービス業で景況感が改善されたことによってもたらされたものである。両業種の景況感の上昇要因としては前回調査時(2月25日~3月3日)以降の消費税率引上げ直前にあった駆け込み需要を挙げることができる。4月以降の反動減が今のところこれを帳消しにするほどのものでないことを示している。ただし、次期見通しでは、全業種で△8と前回調査の△9より1ポイントの改善にとどまっており、先行きに対する不透明感はまだまだぬぐい去ることができない状況にあるといえよう。

 景気動向判断の分かれ目はこの夏以降、「消費税ショック」を乗り越えるほどの力強さが個人消費にあるかどうかの判断にかかっているといわれている。プラス材料としては名目賃金の伸びを挙げることができるが、これに対して夏のボーナスに反映する特別減税廃止や9月予定の医療費自己負担増による可処分所得の目減りなどマイナス材料には事欠かない。長期にわたる不況と構造調整圧力のもと企業間の体力格差はますます拡大していることは今回の調査からも確認できる。また、金融機関の不良債権処理に伴う大型倒産なども今後予測される。こうした事情から、循環的要因が回復を促す力として働いているとはいえ、この夏以降一息つけるかどうか最後まで予断を許さない。ますますその度を増すであろう厳しい競争を生き抜くためのより一層の経営努力が望まれるところである。

[調査要項]

 1.調査時  1997年5月28日~6月4日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 626社より、246社の回答をえた(回収率39.3%)
  (建設業45社、製造業91社、流通・商業61社、サービス業49社)
 5.平均従業員 25.8人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上秀樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
2・4半期連続で低下した「今月の状況」DI

 前回調査に引き続き、業況の絶対水準を尋ねる「今月の状況」DIがマイナス幅を広げ△5→△10となった。

 業種別にみると、前年同月比の業況DIと同様に、建設、製造の両業種でその値を低下させ、流通、サービスの両業種が前回調査より改善している。建設業では公共投資の減少と消費税上昇前の駆け込み需要の反動の諸要因が重なり、前回調査の18から△35と53ポイントも悪化させた。これは調査開始以来最大の変動幅である。また、製造業はマイナスの変動幅は5ポイントにとどまったが、2・4半期連続で低下し、0→△4→△9となった。次期見通しでは、全業種では前回調査より1ポイント改善の△8となったが、7月に官公庁関連の発注時期を迎える建設業では「よい」「悪い」どちらも増やしながらも、「よい」のポイントが若干多く前回の△14から△11に改善されている。また、流通・サービス業も同様にそれぞれ△33→△18,0→2と前回より予測DIを上昇させている。しかし、製造業では前回調査より「よい」が減り、「悪い」が増えた結果、5→△6となり11ポイント悪化の予測値となった。消費税関連の反動減を6月までで収束できるかどうかが一つのポイントになるであろう。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
売上高、経常利益ともに好転する

 前年同月と比べた経常利益推移DIは4ポイント上昇して7となった。業種別では建設業が「悪化」したと答えた企業の割合が増え「好転」したと答えた企業の割合が減少した結果9→2と推移した以外は、3業種とも前回調査より改善されている。ただし、「今月の状況」では全業種で「黒字」と答えた企業の割合は5ポイント強減少、また「赤字」と答えた企業の割合が4ポイント弱これも減少した結果、前回調査より2ポイント低下して18となった。建設業はここでも18→0へと大きく後退している。

 売上高は全業種では12→20へと8ポイント上昇した。建設業では「減少」したと答えた企業の割合が増大し、26→0となったが、他の3業種ではいづれも「増加」と答えた企業の割合を増大させた。売上高の次期見通しでは、全業種で「増加」と答えた企業の割合が減少し、「減少」すると答えた企業の割合が増加した結果前回調査より6ポイント悪化の11→5となった。製造業だけが前回調査の予測値と同じで、他3業種では売り上げが減少すると予測する企業が前回調査より増加している。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
流通業で「減少」増える

 前回調査では前年同月比で製造業、流通業ともに在庫が「増加」したと答えた企業が増えたが、今回調査では昨年の状況とほぼ同じDI値に戻った(16→6)。流通業の昨年11月、今年2月、そして今回の在庫DI値の動きは動きは0→20→0となっているが、今年2月のDI値20は消費税上昇前の駆け込み需要を見越しての在庫積み増しによるものであろう。

 なお、「今月の状況」では製造業で「過剰」と答えた企業の割合(24%)が今までになく増加しているのが気にかかるところである。ただし次期予測では、「適正」とする企業の割合を製造業、流通業ともに上昇させている。

【価格変動】【取引条件】
価格変動、取引条件ともに厳しい製造業

 価格変動DIは、全業種で前回調査より3ポイント低下し、△26→△29となった。前年同月比で「低下」したと答えた企業の割合が増えたのは建設業と製造業であるが、特に製造業では4割を越える企業が「低下」したと答えている。また、取引条件DIでも、全業種では若干改善されているが、製造業では前年同月比で前回調査より「悪化」したと答えた企業が9ポイント増加している。在庫の「今月の状況」とともに今後の動向に注意が必要であろう。なお、製造業の次期見通しでは、価格変動DIは前回予測より8ポイント改善されているが、しかし未だ「不変」と「低下」で9割以上を占める水準であるし、取引条件DIでは前回予測より「悪化」が増加しマイナス幅を広げている。

【資金繰り】
製造業、流通業で増える「窮屈」

 全業種で見た資金繰りDIは、前回調査に比べ1ポイントマイナス超幅が拡大し△28→△29となった。業種別に見ると、製造業、流通業で、「余裕」「順調」と答えた企業の割合が前回調査より減少し、「窮屈」と答えた企業の割合が増加した結果、それぞれ△15→△28、△15→△23となった。ただし、製造業、流通業ともに3ヶ月先見通しでは若干の改善を予測している。建設業では前期予測より1ポイントだけであるが厳しい予測を出している。

【施設稼働率】【設備過不足】
流通業、施設稼働率「上昇」割合が減少

 前年同月と比べて施設稼働率が「上昇」したと答えた企業の割合は全業種で約2割であったが、製造業では5ポイント上昇し約3割になり、流通業では約3ポイント減少させて3%にも満たなかった。これに対応して、設備過不足DIでは製造業が「不足」度合いを強めて前回調査の△10から△20になった。また流通業では前回の△24から△11と「不足」幅が縮小した。次期予測では前回予測値とほぼ変化なしであるが、製造業とサービス業で「不足」を見通す企業の割合が増加している。

【雇用】
サービス業での「不足」感、半減する

 全業種で見た雇用動向は、前回調査より「過剰」と答えた企業の割合が若干増え、「不足」と答えた企業の割合が約4ポイント減少した結果、△17→△11となった。「適正」と答えた企業の割合は、前回調査より3ポイント増加し約68%に達した。前回調査と比較して目立った動きをみると、前回調査で「不足」と答えた企業の割合が4割を越えたサービス業で今回はそれが約2割に半減していること、またサービス業ほどではないが、流通業においても同様の変化がみられることである。他方、製造業では「不足」感が強くなっているが、「過剰」感も若干増加している。

【経営上の力点など】
「経営上の問題点」の第1位に「人件費の増大」

 全業種でみた「経営上の問題点」のうち、従来第3位の位置を占めていた「人件費の増大」(37%)が今回初めて第1位に浮上した。これは週40時間労働制導入の影響も考えられるが、円安の追い風を受けた自動車など輸出産業の業績好転の影響、そして、消費税関連の労働力に対する一時的需要の拡大などの要因があると思われる。第2位は「民間需要の停滞」(35%)、第3位は「販売先からの値下げ要請」(32%)であった。厳しい経営環境の中、真摯な経営努力で生き抜かれてきた会員から足下の景況について文書回答、あるいは景況分析会議の席上で次のような意見が寄せられている。

<会員の声>

<建設設備関係>
 4月中旬まで消費税の駆け込み受注残があったが、その後ばったりと仕事がなくなっている。特に企業関係では仕事が出てこない。官公庁関係の仕事は6・7月から出てくるとおもうが、先行き不透明感が強い。
 1つだけ明るい材料は、瀬戸万博が決まったこと。今後仕事が出てくるとは思うが、2・3年後になるだろう。

<機械設備関係>
 トヨタ一社から脱却し、いくら小さな仕事でもやるようにし、客先を広げてきた。これが功を奏して現在は順調。また「空洞化」が言われるが、工場設備関係は現地では無理で、国内でつくられる。従って機械設備関係は今後も順調では?

<印刷>
 4・5月は順調。あまり消費税の影響はない。関東・関西の印刷関係は好調となり、中京圏には半年遅れてあらわれてくるので、今後順調になると思う。また最近では求人チラシが多く、出しても一時期と比べて反応が悪い。人手不足感があるようだ。