景況調査

第22号-1999年5月
景気「底ばい」続くなか、一段悪化の懸念も浮上

【概況】
【業況判断】業況判断改善するも、「底ばい」続く
【売上高】【経常利益】経常利益、小幅ながら改善続く
【在庫】「増加」超過に転じ、在庫過剰感高まる
【価格変動】【取引条件】価格底割れ
【資金繰り】「窮屈感」は緩和するも、見通しに厳しさ
【施設稼働率】【設備過不足】設備過剰感高まり、施設稼働率の「低下」超過幅拡大
【雇用】「過剰」超過幅が大幅に拡大
【経営上の力点など】引き続き「民間需要の停滞」がトップ
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(1999年5月)第22号(PDF:322KB)


【概況】

 景気は「底ばい」状態が続いているものの、その足取りは脆弱で、「底割れ」を懸念させるような調査結果も散見される ――今回の調査は、そういう不安定な現状を反映する結果となりました。
 業況が「よい」と回答した企業の割合から「悪い」と回答した企業の割合を差し引いた業況判断DI(「今月の状況」)は前回の△49から△46へと3ポイントの改善を示し、3期連続でマイナス幅が縮小しました。しかし、前回の7ポイントの改善に比べると、改善幅は半減しており、景気状況は、回復過程にあるというよりも、前回予測したように「底を這う」局面にあることを示しています。また、業況が前年同期と比べて「好転」したと回答した企業の割合から「悪化」したとする企業の割合を差し引いたDI値(「前年同期比」)も、前回の△47から△45へと2ポイントの改善にとどまり、前回の15ポイントの改善に比べると、回復力が大きく減退していることがわかります。
 今回の調査結果に関しては、とくに二つの点が重要だろうと思われます。一つは、企業間格差の広がりです。たとえば、業況が「よい」と答えた企業が29%(前回は17%)と3割近くにまで達した建設業でも、他方で57%の企業が依然「悪い」と答えており、しかもその割合は、前回の52%よりもむしろ増えています。また、「今月の状況」DIが前回と同様△51にとどまった製造業でも、「よい」と答えた企業の割合が6%から9%に増大する一方で、「悪い」とする企業も57%から60%へ増加するというように、同一業種内でも企業間で業況感に大きな違いが生じてきていることが確認できます。「『底這い景気』の中での激しいサバイバル競争」という前回の予測が、まさに現実のものになりつつあることを示しています。
 今回の調査結果に関して重要なもう一つの点は、上記のように総合的な業況判断は小幅ながら改善を示していますが、個々の調査項目を見てみると、今後「底割れ」もありうるのではないかと懸念させるような結果がいくつか見られるということです。その一つが、「在庫感」です。在庫の現状が「過剰」であると答えた企業は33%に達しており、「不足」企業を差し引いた「在庫感」DIは29と、「過剰」超過幅が過去5年間で最大となっています。さらに、人手に関しても同様で、「過剰」であると答えた企業は37%に達しており、「不足」企業を差し引いた「雇用動向」DIは25と、やはり「過剰」超過幅が過去5年間で最大となっています。過剰な「在庫」や「人手」を、こうした企業が一気に「吐き出す」ことになれば、景気の一段の悪化は避けられません。政府は景気の「下げ止まり」に満足することなく、今こそ総合的な中小企業支援政策を実施すべきだといえます。

[調査要項]
 1.調査時  1999年6月1日~6月3日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 626社より、200社の回答をえた(回収率29.5%)
       (建設業40社、製造業67社、流通・商業45社、サービス業48社)
 5.平均従業員 26.0人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
業況判断改善するも、「底ばい」続く

 「今月の状況」DIは前回調査比3ポイント改善し△46となり、3期連続の改善となった。業種別では建設業で△35→△29と6ポイント、サービス業で△44→△39と5ポイント、流通業で△59→△56と3ポイントの改善がみられ、製造業は前回に引き続き横ばい(△51)であった。また、前年同期比(全業種)でも△47→△45と2ポイントの改善がみられた。業況判断については、前回に引き続いての改善であったが、依然として6割近い企業が「悪い」ないしは「悪化」と答えている。また、改善幅も前回に比べ半減するなど、景気状況の改善局面というよりも「底ばい」局面を示す結果となった。次期見通しにおいても、57%の企業が「悪い」と回答しており、先行きに対する見方は依然深刻なままである。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
経常利益、小幅ながら改善続く

 売上高DI(前年同月比)は△37→△38と1ポイント悪化し、売上高が底ばい状態にあることを示す結果となった。業種別でみると、流通業で△53→△40と13ポイント、製造業では△52→△45と7ポイントの改善が見られたものの、サービス業で△13→△25と12ポイント、建設業では△21→△42と21ポイントもの大幅な悪化がみられた。次期見通しにおいても、先行き売上高の減少を見通す企業が圧倒的に多く、依然として厳しい状況が続くことが予想される。 経常利益DI(前年同月比)は△35→△34と1ポイントの改善を示し、3期連続で「悪化」超過幅が縮小する結果となった。業種別では、流通業△53→△33と20ポイント、製造業では△45→△37と8ポイントの改善が見られた。しかしその一方で、サービス業で△17→△23と6ポイント、建設業では△21→△40と19ポイントもの悪化がみられた。また次期見通しDIは、△17と「赤字」を見通す企業が「黒字」を見通す企業を大幅に上回っており、先行きに対する懸念はなお根強い。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
「増加」超過に転じ、在庫過剰感高まる

 在庫過剰感が大きく高まっている。在庫感の「今月の状況」DIは△29と調査開始以来最大の「過剰」超過幅を記録した。また「前年同月比」においても△3→2と98年4月調査以来の「増加」超過に転じている。業種別では、流通業で△3→△7と「減少」超過幅が拡大した一方で、製造業で7→13と「増加」超過幅の拡大がみられた。また、次期見通しにおいても14と、先行き在庫が「過剰」になると見通す企業が大勢を占めており、容易に過剰感は解消しそうにもない。

【価格変動】【取引条件】
価格底割れ

 価格の低下が一層進んでいる。前回調査で底ばいするかにみえた価格変動DI(前年同月比)は、△63→△72と「低下」超過幅が9ポイントも拡大する結果となった。△72というDI値は調査開始以来最大の「低下」超過幅であり、価格が低下していると回答した企業が7割を超えるのも調査開始以来初めてのことである。また、取引条件DI(前年同月比)も△29→△31と2ポイントの悪化がみられた。次期見通しにおいても、価格変動(△63),取引条件(△30)ともに悪化を見通す企業が多数を占めている。

【資金繰り】
「窮屈感」は緩和するも、見通しに厳しさ

 資金繰りDI(今月の状況)は△32→△28と4ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。業種別では、流通業の「窮屈」超過幅が5ポイント拡大したものの、サービス業が横ばいで、建設業と製造業で資金繰りの「窮屈」超過幅の縮小がみられた。とりわけ、建設業では「窮屈」と回答する企業が前回の5割強から今回3割弱にまで減少し、DI値も△35→△8と大幅に改善した。しかし、資金繰りの先行きに対する見通しは依然として厳しく5割弱の企業が「窮屈」になると見通している。こうした調査結果にも現れているように、本格的な資金繰り対策がなされていないかぎり、資金繰りに対する懸念は払拭できないであろう。

【施設稼働率】【設備過不足】
設備過剰感高まり、施設稼働率の「低下」超過幅拡大

 設備過剰感が高まっている。設備過不足DIは8→11と「過剰」超過幅が3ポイント拡大し、調査開始以来最大の超過幅となった。業種別では、建設業で5→△4と「不足」超過に転じたのを除けば、他三業種で過剰感が高まった。とりわけ、製造業では23と他業種(サービス業7、流通業5)に比べ過剰感が突出しているのが目立つ。次期見通しにおいても先行き設備が「過剰」するとみる企業が「不足」するとみる企業を9ポイント上回った。
 施設稼働率DI(前年同月比)は△23→△25と2ポイント「低下」超過幅が拡大した。業種別では、流通業で△9→△27と前回比18ポイント「低下」超過幅が拡大した。一方、製造業では△31→△29と2ポイント「低下」超過幅が縮小したものの、依然として施設稼動率が「低下」したとする企業が5割近くを占めている。次期見通しにおいても△34と、「低下」を予想する企業が「上昇」すると回答した企業を大幅に上回っている。

【雇用】
「過剰」超過幅が大幅に拡大

 全業種でみた雇用動向DIは11→25と14ポイント「過剰」超過幅が拡大し、調査開始以来最大の「過剰」超過幅となった。98年5月調査以来続いてきた雇用過剰の状況がさらに悪化の方向へ向かっていることを示す結果といえる。前回から横ばいであった製造業を除く三業種で、「過剰」超過幅の拡大ないしは「過剰」超過への転化が見られた。とりわけ流通業(0→31)とサービス業(△3→26)は大幅な「過剰」超過へと転じた。次期見通しにおいても先行き雇用が「過剰」になると答えた企業が「不足」するとみる企業を大幅に上回っており、雇用過剰感は容易に解消されそうにない。

【経営上の力点など】
引き続き「民間需要の停滞」がトップ

 「経営上の問題点」では、全体の6割の企業が「民間需要の停滞」を挙げ、前回に引き続き第1位であった。業種別では、流通業が前回比11ポイント増加したのに対して、他の三業種で減少がみられた。とりわけ建設業が、13ポイントと大幅な減少を示した。
 「経営上の力点」としては、7割の企業が「新規受注(顧客)の確保」を挙げ、「付加価値の増大」(55%)「社員教育」(33%)がそれに続いた。

<会員の声>

(1)建設

(総合建設業) 昨年の同時期に比べると景況は悪いとは思われないが、値下げ要請が厳しく利益が出せず、苦しい経営が続いている。
(注文住宅施工) 景況についてはたった3億しかやってない会社が不況ということ自体がおかしいのですが、周りの同業は不況のようです。でもうちのような小さな会社は大チャンスと思っています。創意工夫できる社員を何人育成するかで勝敗は決すると思う。経営者の理念、哲学の良否が問われていると考えます。
(商店建築施工) 取引先の経営悪化による受注の減少を他の業界でカバーできているが、かつて柱となっていた受注先がここ数年大きく変化しており、新規の取引先は確保できているものの経営に不安感がある。
(鉄筋工事) 経営者としてやらなければならないことが矢継ぎ早に発生する状況であり、またそういう時期だと考えています。景気のせいでもなく、政治のせいでもなく、今こそ細部にわたって再点検し、知り尽くして更なる対策を講じる時であると考えます。自社のことはすべて社長のせいです。

(2)製造業

(鉄工業) 5~7月は急な受注により特別に忙しいが、8月以降の設備更新または新規設備についての見積は現在のところありません。得意先もぎりぎりまでがまんして、設備投資を抑えているようです。7月以降になればひょっとして後期(9月以降)の見積があるかも…。
(菓子製造) 永年の取引先が経営不振から自主廃業とのこと。同業の廃業も昨年は2件あり。かつてない厳しい経済環境を実感しています。
(印刷) 好転の見込み薄く、人件費を中心に経費見直しで、縮小方向を明確にしなければならない。平行して内省化のための設備投資を考慮していく。
(プラスチック成形加工) 自動車部品を主力としているが、いっこうに好転の兆しは見えない。一般品で見積依頼等の引合いはきているが、受注まではむすびつかない。第2、第3の柱を考えているがなかなか芽が出ず、焦っている。
(電気機器製造) 中小企業の製造業は海外からの製品に押されコスト、量、品質に対応される日本向製品が多く、年々増加する。今後中小企業の生きる道が少なく、業種の方向転換も困難な時期になっている。高度技術企業以外の製造業はすべて淘汰される時が来ている。
(食品製造) 食品は景況に左右されにくいとされているが、やはり強弱がはっきりしてきました。

(3)流通

(建材卸) 過大な債務を抱えたゼネコンが銀行に救われ、益々価格競争に拍車がかかったようだ。原価を無視して、とにかく施工量を確保する体制は、結果、下請業者にそのままスライドし、最初に倒れるはずだったゼネコンが生き返り、かわりに零細な下請業者が倒れてしまう結果になりつつある。建設業界にいながら、ゼネコンに全てを頼らない会社に方向づけしなくてはいけない。
(工作機器販売) 私感では景気回復が来年後半と予想しています。それまで人材のレベルアップと新規の開拓を徹底的に行ないたい。それまで体力勝負です
(自動車用品卸) 小売店の売上低下が目立ち、新規店の開拓を急ぎたい。ただし、優良先はいまひとつ突破口が難しい。目新しい商品で攻撃するのみです。メアタラシイ商品を他業種から見つける。
(運送業) 設備は倉庫貸しがなくなった。

(4)サービス

(惣菜小売) 新規大型SCの乱立が引続き客割れ現象が起こり、流通・サービス業界の不況はこれからが本番の感で、まだこの状態は1~2年程度さらにひどくなると思われる。
(旅行代理業) 最大手まで参入して繰り広げられている「価格競争」。そのしわよせは仕入れ先と消費者に。そして中小零細に。なんとかしたいものです。
(測量・登記) 昨年に比べると仕事量が増えたが単価は安くなった。全体的に見るとややプラス。理由は同業他社との見積競争が激化してきたため。