景況調査

第25号-2000年2月
景気回復鮮明化―なおも続く「利益なき繁忙」と「個人消費関連部門の低迷」

【概況】
【業況判断】大幅に改善し、見通しにも明るさ
【売上高】【経常利益】売上高改善し、見通しにも明るさ。経常利益は3業種で悪化
【在庫】「過剰」超過幅縮小
【価格変動】【取引条件】価格「低下」超過幅再び拡大
【資金繰り】窮屈感さらに高まる
【設備過不足】【施設稼働率】設備過剰感和らぎ、施設稼働率の「低下」超過幅も縮小
【雇用】過剰感高まる
【経営上の力点など】引き続き「民間需要の停滞」がトップ
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

※全文のPDFファイルはこちら
景況調査報告(2000年2月)第25号(PDF:863KB)


【概況】

 業況が「良い」または「やや良い」と回答した企業の割合から「悪い」または「やや悪い」と回答した企業の割合を差し引いた業況判断DI(「今月の状況」)は、前回の△23から△5へと18ポイントの大幅な改善を示しました。これは、「良い」「やや良い」と回答した企業が2%増えた一方で、「悪い」「やや悪い」と答えた企業が16%減少したためです。業況判断は1998年11月調査以降6期連続の改善です。また、そのDI値は、「消費税率引き上げ」などの財政構造改革、アジア危機そして金融危機などを契機に景気の急速な落ち込みがはじまる以前の1997年2月の水準にまで、3年という月日を経て漸く回復したことになります。
 今回調査で特筆すべきことは、何よりも4業種のすべてで回復感が鮮明化してきたことです。すでに前回調査で業況判断DIがプラスに転じた「建設業」がその水準を維持したことに加えて、流通業もプラスに転じ(△27→3)、また製造業も△4と水面ぎりぎりの業況水準にまで浮上してきました。さらにDI値が今回△21に止まったサービス業でも、前回との比較では30ポイントという大幅な改善を示しています。 今回の調査結果は、たしかにくすぶり続けていた中小企業景気にもようやく明るさが見え始めたことを示すものではありますが、単純に手放しで喜んでばかりいられるかといえば、必ずしもそうではありません。
 第1に、この景況感の回復に「利益」回復が十分に伴っていないことです。今回調査でも、経常利益DI(「好転」マイナス「悪化」)に改善が見られたのはサービス業のみであり、他の3業種はいずれも悪化しました。いわゆる「利益なき繁忙」が依然として続いています。景況感の改善は「仕事が出てきた」「ともかくも動きがある」といった程度の状況を反映しているに過ぎない可能性もあり、今後の動向を注意深く見守っていく必要があります。
 第2には、依然として「個人消費」に近い部門では深刻な景気低迷が続いているということです。景況分析会議や経営者へのヒヤリングでも、流通業のうち小売やそれに近い卸部門、またサービス業のなかでも対個人サービスなどでは依然として景況感に改善が見られないという声が聞かれました。
 製造業などの景況感の改善が雇用や所得の増加につながり、さらにそれが個人消費の増大をもたらして、景気の自律的・本格的な回復を出現させるのか。それとも個人消費の低迷という壁につきあたって改善してきた景況が再び後退を余儀なくされるのか。日本経済の景気局面も、いよいよその正念場に近づきつつあるといえます。

[調査要項]
 1.調査時  2000年2月25日~2月29日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 626社より、149社の回答をえた(回収率23.8%)
  (建設業27社、製造業52社、流通31社、小売・サービス業39社)
 5.平均従業員 32.2人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
大幅に改善し、見通しにも明るさ

 「今月の状況」DIは前回の△23から今回△5へと18ポイントの大幅な改善を示した。これで業況は1998年11月調査以降6期連続の改善となった。業種別では、前回から横ばいであった建設業(4)に加え、△27→3と30ポイントの大幅な改善を示した流通業がプラスのDI値を示した。サービス業(△51→△21)と製造業(△14→△4)でもそれぞれ改善が見られた。また、次期見通しに関する調査でも「よい」と見通す企業が「悪い」と見る企業を4ポイント上回る結果となった。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
(クリックすると大きく表示します)

【売上高】【経常利益】
売上高改善し、見通しにも明るさ。経常利益は3業種で悪化

 売上高DI(前年同月比)は△23→△9と「減少」超過幅が14ポイントの大幅な縮小を示し、3期連続で改善する結果となった。これは「増加」したと答えた企業の割合が5%増加したことに加え、「減少」したと回答した企業の割合が8%減少したためである。建設業が11ポイント悪化した(△8→△19)のを除けば、他3業種でそれぞれ改善が見られた。流通業は、12ポイント(△12→0)、サービス業は28ポイント(△46→△18)の、製造業は17ポイント(△19→△2)の改善をそれぞれ示した。次期に対しては、製造業と流通業については売上「増加」を見通す企業が、建設業とサービス業については売上「減少」を見通す企業が多数を占めた。
 経常利益DI(前年同月比)は△17→△16と「悪化」超過幅が1ポイント縮小し、小幅ながら6期連続で改善を示す結果となった。とはいえ、業種別に見てみると、全業種が一様に改善するのではなく、サービス業のみが大幅に改善し(△45→△5)、他3業種は軒並み悪化している。また今月の状況DIにおいてもサービス業だけが改善するという同様の傾向が見られたが、全体では8→0と「黒字」超過幅が解消するという逆の結果を示した。しかし、次期に対する見通しは明るく、DIは6と「黒字」見通し超過の状態にある。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
(クリックすると大きく表示します)

経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
(クリックすると大きく表示します)

【在庫】
「過剰」超過幅縮小

 在庫感DI(今月の状況)は23→18と「過剰」超過幅が5ポイント縮小した。また、前年同月比DIにおいても、6→△1と「増加」超過から「減少」超過へと転じた。業種別に見ると、前回調査で大幅な「増加」超過となった流通業が「減少」超過(22→△4)に転じる一方で、製造業は「減少」と答える企業と「増加」とする企業が同数となった(△2→0)。次期見通しDIは、製造業が0の一方で、流通業は21と、先行き在庫が「過剰」になると見通す企業が「不足」と見る企業を上回っている。

【価格変動】【取引条件】
価格「低下」超過幅再び拡大

 価格変動DI(前年同月比)は△47→△51と4ポイント「低下」超過幅が拡大し、超過幅縮小の傾向に歯止めがかかった。業種別では、サービス業(△48→△34)と建設業(△50→△36)でそれぞれ14ポイント「低下」超過幅が縮小した。一方、流通業で△39→△62と23ポイント、製造業でも△49→△63と14ポイント「低下」超過幅が拡大した。次期見通しにおいては、価格が「低下」すると見通す企業が約5割を占めるなど、価格の低下傾向には当分歯止めがかかりそうにない。
 取引条件DI(前年同月比)は△18→△23と5ポイント「悪化」超過幅が拡大した。業種別では、流通業が20ポイント(△3→△23)、建設業が12ポイント(△26→△38)「悪化」超過幅が拡大した。その一方でサービス業(△18→△14)と製造業(△24→△21)で「悪化」超過幅の縮小が見られた。次期見通しDIは△22と、「悪化」すると見る企業が「好転」すると考える企業を上回っている。

【資金繰り】
窮屈感さらに高まる

 今回調査は前回調査に引き続き資金繰りの窮屈感が高まったことで、特別信用保証制度の導入以降続いてきた資金繰りの改善傾向に完全に歯止めがかかったことを示す結果となった。資金繰りDI(今月の状況)は△24→△32と8ポイント「窮屈」超過幅が拡大した。これは、資金繰りが「窮屈」だと回答した企業が4%増加したことに加え、「余裕」があると答えた企業が3%減少したためである。業種別に見ると、サービス業(△43→△41)を除く3業種で窮屈感が高まった。流通業で14ポイント(△9→△23)、製造業で9ポイント(△16→△25)、建設業で8ポイント(△36→△44)「窮屈」超過幅の拡大が見られた。また次期の資金繰りも「窮屈」になると見る企業が47%を占めるなど、再び資金繰りが悪化する傾向に回帰することを示唆する結果となっている。

【設備過不足】【施設稼働率】
設備過剰感和らぎ、施設稼働率の「低下」超過幅も縮小

 設備過不足DI(今月の状況)は、6→5と1ポイント「過剰」超過幅が縮小した。業種別では、流通業で「過剰」超過から「不足」超過へと再転化した(12→△7)ほか、製造業で「過剰」超過幅の縮小(22→18)が見られた。一方、建設業は「不足」超過から「過剰」超過へと再転化し(△8→8)、サービス業では「不足」超過幅が縮小した。次期見通しにおいては、「過剰」と見る企業が多い建設業(13)・製造業(10)に対して、サービス業は「不足」を見通す企業が多かった(△11)。
 前回調査に引き続き、施設稼働率DI(前年同月比)の「低下」超過幅が縮小した。前回の△13から7ポイント縮小の△6であった。業種別では、製造業の「低下」超過幅が6ポイント縮小した(△8→△2)のに対し、流通業のそれは逆に△4→△13と9ポイント拡大した。次期見通しについては、稼働率「低下」を見通す企業の多い製造業(△4)に対して、流通業は稼動率が「上昇」すると見る企業が多い。

【雇用】
過剰感高まる

 雇用動向DI(全業種)は、「過剰」超過幅が3→5と2ポイント拡大した。業種別では、前回調査で「不足」超過に転じた建設業が、今回調査では大幅な「過剰」超過に転じた(△4→15)。また流通業は9→15と「過剰」超過幅が拡大した。一方、サービス業は3割強の企業が雇用「不足」と回答し、DI値も△12→△13と「不足」超過幅を拡大させた。製造業は13→6と「過剰」超過幅が7ポイント縮小した。次期見通しにおいては、サービス業で「不足」見通し超過である(△5)以外は、他3業種とも「過剰」見通しを示しており、とりわけ建設業で「過剰」見通し(44)が強い。

【経営上の力点など】
引き続き「民間需要の停滞」がトップ

 「経営上の問題点」としては、引き続き「民間需要の停滞」(52%)が最上位を占めている。建設業では67%と、他業種に比してその割合が高かった。2番目に多かったのが「販売先の値下げ要請」である。製造業では58%と、他業種に比べ問題点として取り上げる企業が多かった。3位以下は、「大企業の進出による競争激化」「新規参入者の増加」(ともに21%)が続いている。
 「経営上の力点」においては、前回調査同様「新規受注(顧客)の確保」(64%)を取り上げる企業が最も多かった。その他は「付加価値の増大」、「社員教育」、「新規事業の展開」が上位を占めている。

<会員の声>

(1)建設関連
(エクステリア)
物件はあるが、契約金額が低下している。断ると他の業者へ回っていく。仕事が少ないため下請業者から利益確保しているように見受けられる。施主はあまり低価格でないように聞きますが・・・。
(足場工事)
2000年、いよいよ建設業界の構造変革される時期に来ました。60兆円産業のスタートでもあり楽しみです。
(鉄筋工事)
厳しい状況は依然として続くものと考えています。今の厳しさが骨までしみている役員幹部がどれだけいるでしょうか。口では理解しているようなことを言ってはいるが、実際のところは行動が全く伴っていない。社員教育の前に役員教育の方が先である。
(プラント設計施工)
新しいお客様を増やすこと。新しい商品を提供すること。若い人材を登用することで、会社の体質を変えていこうと努力中です。ISOの取得、パソコンネットワークの構築を通じて若い社員が成長してきました。今年の後半戦はおもしろくなってきました。

(2)製造
(印刷全般)
昨年12月以降一段と景況感が悪化している。構造的な原因を含んでおり、大変厳しい状況である。新しい需要の開発を思い切って行なわないと、今後生きて行けないことを痛感している。
(原紙製造)
 大手取引先、商社等の信用不安、従来の信用の基本が根底からゆらぐ。非常事態への対処等、正に経営者の力量がためされる時。また石油の代替エネルギー及び方法の変換と対処。21世紀への社員と会社の夢、ビジョン教育をもすすめねば強力な企業の基盤はむつかしい。
(衣服製造)
川上である小売業からの値下げ要求が強く、さらに低価格化している。単に価格が安くても、物は売れない状況になっている。小売の立場との連係が今後の問題となると思います。
(工業用部品製造)
行政業務の変更をはじめとする電算システムの変更が多く、経費増大を招いている。コストを押し上げる要因となっている一方で、単価引き下げ要請の声もあり、ダブルパンチのおそれが懸念される。
(自動車部品加工)
新車の売行きが順調なため職場に活気は出ているが、コストダウン要請が強いため利益は厳しい。仕事があるうちに新しい柱を考えている。
(金属加工)
仕事の受注は順調であるが、短納期、低価格受注により利益は圧迫されている。

(3)流通
(厨房機器販売)
私共は外食産業関連設備機器の販売・サービスを主としていますが、ユーザー閉店のため機器引き上げが目立ち、景況は悪いと思います。
(酒類販売)
最近同業者が2~3倒産。清酒メーカーの倒産(夜逃げ)もあり、市況が著しく悪化している。
(板硝子等卸)
業界の中で大企業の子会社が増えてきていて業界各社を苦しめている。このことが業界の先々に大きなマイナス要因になりかねないと心配している。
(総合ギフト)
付加価値の増大というのは簡単だが、それぞれのお客様のニーズが多すぎて、価値観の多様化についていくのがせいいっぱい。
(運送業)
運賃が最低のラインを割り込んでも仕事を取る業者に得意先を荒らされている。
(金型部品販売)
金型業界では数・重量ベースでは98年、99年と増えているが、金額ベースでは横ばいとなっている。これは単価の切り下げの影響。

(4)サービス
(不動産・建築請負)
見通しが立ちません。分譲住宅では他社よりグレードアップかつ割安価格とならざるをえず、利幅が低下していきます。
(建物解体)
正当な競争ができない現状で、生き抜くためには値下げ受注をせざるえない。
(飲食店)
飲食店では客単価の低下、客動員の減少、以上2点が売上減に影響を与えている。
(デザイン関係)
社会保険、税の負担が経営を圧迫
(自動車鈑金)
以前から私共塗装(自動車部品外装塗装品)はコストが下がり、品質が上がる歩留が命取りになる。安定した品質を作るために塗装技術と設備の問題大。
(工作機器販売)
物件自体は増えているが、単価が低いので景況が良くなってきたとの実感はあまりないです。