景況調査

第33号-2002年2月-
底這いながらも、製造業で改善―企業倒産多発のなかで、景気正念場へ

【概況】
【業況判断】製造業大幅改善。業況5期ぶりの改善
【売上高】【経常利益】「低下」「悪化」超過幅縮小
【在庫】在庫過剰感弱まる
【価格変動】【取引条件】価格低下・取引条件悪化続く
【資金繰り】「窮屈」超過幅3期ぶりに縮小
【設備過不足】【施設稼働率】施設稼働率5期ぶりに改善
【雇用】雇用過剰感弱まる
【経営上の力点など】「民間需要の停滞」が問題点のトップに
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(2002年2月)第33号(PDF:925KB)


【概況】

 全業種で見た業況は5期ぶりに改善しました。今月の状況を判断する業況判断DI(「よい」と答えた企業の比率から「悪い」と回答した企業の比率を差し引いたもの)は前回の△33から7ポイント改善し、△26となりました。業況が改善するのは2000年11月調査以来5期ぶりのことです。また「在庫」「施設稼働率」「資金繰り」の各DIにも改善が見られ、設備過剰感・雇用過剰感も後退しているとの調査結果が出ています。
 しかしその一方で、前年同月と比べた業況判断は前回調査から横ばいであり、「売上高」「経常利益」の各DIについては依然として悪化傾向にあります。また次期見通しについては約5割の企業が「悪化」を見通しています。
 建設業、流通業、サービス業の業況が依然として悪化し続けるなか、全業種で見た業況が若干の改善を記録したのは、製造業の業況改善が大幅であった(△54→△19、35ポイント)ためです。35ポイントという改善幅は、いわゆるITブームの影響から大幅な改善を記録した99年11月期調査以来のことです。「売上高」「経常利益」についても他業種が悪化し続ける中、製造業のみが改善を記録しています。
 米国の景気回復の影響などにより、製造業に改善の兆しが見えてきたことは政府も指摘していることではありますが、愛知の景況分析会議では「トヨタ自動車の海外での設備投資に伴う仕事の増加ではないか」とする声があり、「トヨタの海外でのモデルチェンジ期が到来、5月がピークになるのでは」との予測も聞かれました。そうだとすれば、日本全体の設備投資が落ち込む中、国際競争で「勝ち組」となっているトヨタの好調さが、今回の製造業の改善につながったことになります。
 世界的にはパソコン需要が復活しつつあるといわれているなど、今後製造業中心にわが国でも持続的改善がみられる可能性もないわけではありません。しかし、アメリカの景気回復に過剰な期待をよせるのは危険でもあります。たしかにアメリカでは減税や金利引下げなどの政策効果に支えられて消費リードの景気回復がみられますが、90年代後半のような大幅な株価上昇という追い風でもないかぎり、借金漬けの消費者たちがどこまでも経済を引っ張っていけるわけではありません。その意味でも、日本の経済はまだ当分の間重い足取りを続けざるをえないと見ておくべきでしょう。むしろ現下での企業倒産の高まりに十分な注意を払っておくことが重要だと思われます。景況分析会議でも「不渡手形を握らされた」というケースが多発している現実を、多くの出席者が指摘していました。こうした状況が景気の「底割れ」をもたらすのか、企業淘汰を経て回復局面へと経済が向かうのか、日本経済もいよいよ正念場にはいりつつあるといえます。

[調査要項]
 1.調査時  2002年2月26日~2月28日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 982社より、205社の回答をえた(回収率20.9%)(建設業25社、製造業83社、流通47社、小売・サービス業50社)
 5.平均従業員 27.5人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
製造業大幅改善。業況5期ぶりの改善

 「今月の状況」DIは前回の△33から7ポイント改善し、△26となった。業況は5期ぶりに改善する結果となった。これは「悪い」と回答した企業が1%減少したことに加え、「良い」と答えた企業が6%増加したためである。ただし改善したのは製造業のみであって、その他三業種については押し並べて悪化する結果となった。「良い」と答えた企業が15%増加し、「悪い」とする企業が20%減少したことで、製造業は35ポイントの大幅な改善を記録した。その一方で、流通業は前回の△42から今回の△57へと15ポイント、建設業は△4→△12と8ポイント、サービス業は△10→△17と7ポイント悪化した。
 前年同月比DIは前回と変わらず△48であった。製造業は△61→△40と21ポイント改善したのに対して、△21→△54と33ポイントの大幅な悪化を記録した建設業をはじめ、流通業(△55→△65)サービス業(△39→△41)もまた悪化する結果となった。先行きに対して楽観的な業種はなく、どの業種においても半数以上の企業が「次期の業況は悪くなる」と見通している状況に変わりはない。とりわけ建設業の見通しが△54と悪く、7割弱の企業が悪化を見通す結果となった。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
売上高6期連続の悪化

 売上高DI(前年同期比)は前回の△33から4ポイント悪化し、△37となった。売上高DIの悪化はこれで6期連続となる。これは「減少」と回答した企業が2%増加したことに加え、「増加」と答えた企業が1%減少したためである。業種別にみると、製造業だけが△51→△33と18ポイントの大幅な改善を示し、その他三業種については押し並べて悪化する結果となった。建設業は△17→△42と25ポイント、サービス業は△9→△28と19ポイント、流通業は△39→△49と10ポイントの悪化を記録した。先行きについては、全業種押し並べて売上高の「減少」を見通す企業が半数を超えている。とりわけ建設業の見通し(△67)が厳しく、全体の4分の3の企業が「減少」を見通している。
 経常利益DI(前年同月比)は前回の△42から△41へと1ポイント改善した。経常利益DIの改善は7期ぶりのこととなる。業種別にみると、製造業だけが△57→△34と23ポイント改善したものの、、その他三業種については押し並べて悪化する結果となった。建設業は△34→△59と25ポイント、サービス業は△24→△35と11ポイント、流通業は△41→△51と10ポイント悪化した。一方、経常利益の「今月の状況」DIについては△9→△10と1ポイント悪化する結果となった。業種別では、製造業が△19→△8と11ポイント、流通業が△15→△12と3ポイント改善する結果となった。
 その一方でサービス業は12→△6と「黒字」超過から「赤字」超過へと転化し、建設業は△14→△21と7ポイント悪化した。次期の利益見通しは全ての業種で「赤字」見通しが「黒字」見通しを上回る結果となった。とりわけ、建設業の見通しが厳しく、約7割の企業が次期の「赤字」を見通している。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
在庫過剰感弱まる

 在庫感DI(今月の状況)は前回の31から今回の27へと4ポイント「過剰」超過幅が縮小した。業種別にみると、製造業で40→29と11ポイント「過剰」超過幅が縮小する一方で、流通業で13→23と10ポイント「過剰」超過幅が拡大した。前年同月比については15→3と12ポイント「増加」超過幅が縮小した。製造業は22→13と9ポイント「増加」超過幅が縮小し、流通業は0→△15と「減少」超過に転じた。次期見通しについては、製造業(27)流通業(13)ともに「過剰」見通しが優勢である。

【価格変動】【取引条件】
「低下」「悪化」超過幅縮小

 価格変動DI(前年同月比)は前回の△73から今回の△65へと8ポイント「低下」超過幅が縮小した。「低下」超過幅の縮小は6期ぶりとなる。業種別では、建設業においてのみ△68→△70と2ポイント「低下」超過幅が拡大し、その他三業種については押し並べて「低下」超過幅が縮小する結果となった。流通業は△74→△62と12ポイント、製造業は△83→△70と7ポイント、サービス業は△59→△56と3ポイント「低下」超過幅が縮小した。次期見通しについては、全体で6割の企業が価格の「低下」を見通しており、DI値は△57であった。とりわけ7割を超える企業が「低下」を見通し、「上昇」を見通す企業が全くいない建設業の見通しが厳しい。
 取引条件DI(前年同期比)は△33→△29と4ポイント「悪化」超過幅が縮小した。取引条件の改善はこれで5期ぶりのこととなる。業種別にみると、製造業で16ポイント(△43→△27)、建設業で12ポイント(△48→△26)「悪化」超過幅が縮小した。
 一方、流通業で△11→△27と16ポイント、サービス業で△26→△32と6ポイント「悪化」超過幅が拡大した。次期については取引条件の好転を見込む企業はわずか5%にとどまり、「悪化」見通しが「好転」見通しを27ポイント上回る結果となっている。

【資金繰り】
「窮屈」超過幅3期ぶりに縮小

 資金繰りDI(今月の状況)は前回の△40から今回の△34へと6ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。資金繰りの改善は3期ぶりのこととなる。これは「窮屈」と回答した企業が2%減少したことに加え、「余裕」と答えた企業が4%増加したためである。業種別にみると、流通業においてのみ△35→△42と「窮屈」超過幅の拡大がみられ、その他三業種については押し並べて「窮屈」超過幅が縮小する結果となった。建設業は△43→△30と13ポイント、製造業は△41→30と11ポイント、サービス業は△40→△35と5ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。次期の資金繰りについての見通しは全業種押し並べて厳しく、5割を超える企業が「窮屈」を予想し、DI値は△44となっている。とりわけ建設業では6割を超える企業が次期の資金繰りは「窮屈」であると見通している。

【設備過不足】【施設稼働率】
施設稼働率5期ぶりに改善

 設備過不足DI(今月の状況)は12→7と「過剰」超過幅が5ポイント縮小した。業種別にみると、製造業で28→15と13ポイント「過剰」超過幅が縮小し、サービス業は6→△2と「不足」超過へと転じた。一方、建設業は△14→△10と4ポイント「不足」超過幅が縮小し、流通業は6→8と「過剰」超過幅が拡大した。次期見通しについては、製造業だけが「過剰」見通し(14)であり、建設業(△10)、サービス業(△9)、流通業(△5)は「不足」を見通している。
 施設稼働率DI(前年同月比)は前回の△42から今回の△27へと15ポイント「低下」超過幅が縮小した。施設稼働率が改善するのは5期ぶりのことである。業種別では、製造業で△44→△27と17ポイント、流通業で△36→△26と10ポイント「低下」超過幅が縮小した。次期見通しについては、「低下」を見通す企業が多くDI値は△16となっている。

【雇用】
雇用過剰感弱まる

 雇用動向DI(今月の状況)は前回の10から今回の5へと5ポイント「過剰」超過幅が縮小した。業種別にみると、製造業で34→15と19ポイント「過剰」超過幅が縮小し、サービス業は△16→△19と3ポイント「不足」超過幅が拡大した。一方、建設業の雇用「不足」超過幅は△14→△9と5ポイント縮小し、流通業は14→21と7ポイント「過剰」超過幅が拡大した。次期見通しについては、サービス業だけが「不足」見通しが超過(△4)しており、建設業(30)製造業(10)流通業(9)はそれぞれ「過剰」見通し超過であった。

【経営上の力点など】
「民間需要の停滞」が問題点のトップに

 「経営上の問題点」としては、「民間需要の停滞」を54%の企業が指摘し、トップを占めた。とりわけ、建設業(68%)でこの問題点を取り上げる企業が多かった。次いで「販売先からの値下要請」(53%)「取引先の減少」(22%)を問題点として指摘する声が多かった。
 「経営上の力点」としては、前回調査同様「新規受注(顧客)の確保」(67%)を取り上げた企業が最も多かった。それに「付加価値の増大」(55%)と「社員教育」(32%)が続いている。

<会員の声>

※「最近の景況や経営課題について」の設問への会員の皆さんからの文書回答です。

(1)建設関連
(総合建設)
銀行のさじ加減で弱小の地元デベロッパーが昨年の秋より何社か倒産しました。今後も年度末にかけて倒産が続きそうです。大手大京などは支援されるが、地元は切り捨てなのか。影響が出ないことを祈るのみです。
(住宅設計・施工)
入札等においての価格破壊。(競争が一段と低価格で激しくなっている)
(電気設備工事)
建設業界はマスコミ報道よりも実態は悪化している。昨年末からこの地方のマンション建売業者が続けて倒産4社あり、その実質は建設業者が直接間接にここ数カ月にあらわれてくるものとなる。建設業者もその下請業者も資金面と受注面と重大な影響を受ける。
(建築請負)
価格競争がどんどん激化している。競争相手との潰し合いに勝ったところが業界のリーダーになるのだろうか?この戦いはいつまで続くのだろうか?

(2)製造
(遊戯機具等製作)
米テロ以後2カ月程仕事が激減。そのしわよせで忙しいだけなのか?(工業用ゴム製造)売上増が見込めない状況の中、付加価値を上げるために製造場所(仕入先)をグローバルに考え、コスト競争力を持ちまた社内では経費削減に全社上げて務めております。
(陶磁器製造)
陶磁器業界はますます間口が狭くなり、生存競争が厳しくなってきていると思います。最先端をいくビジネスモデルとして製・販の限定形タイアップや製・製(異業種)コラボレーションしている会社は順調な業績をあげていくものと思われます
(たれ等製造)
中国製品の進出は最大の問題点。どう対応するかに今後の我が社はかかっている
(省力化設備)
自動車関係は仕事量はあるが、客先の値下要請きびしく利益が出ない仕事が多くなった。IT関係、工作機械は仕事量が減った上に値下要請あり。
(金属プレス加工)
自動車メーカーのモジュール化による発注形態が大きく変わった。モジュールに対応できる部品メーカーへの集中発注。
(窯業機械)
昨年9月頃から引合いの減。今年に入ってますます不況感が増す。
(食品機械製造)
幸いこれまでは「まあまあ」で推移しているが、先がまったく見えない状態。同友会の会員でも良くない会員は例会などにだんだん出てこなくなっているのではと感じる。本当はそういう方にこそ前向きに参加してもらうといいのだが・・・。
(製缶等)
経営環境全てに悪化で深刻すぎる。人、物、金あらゆるものに対応不能状態。製造業としての存立意義もなくなっている。皆自己利益のみを優先させているためひどい下請いじめがある。
(プラスチック製造)
金融機関の貸し渋り、ひどくなっている
(プラスチック金型製造)
海外と比較されるとコストの面で勝てません(タイ、中国、インドネシア等)
(鉄工業)
マスコミを始めとして自分の周りの人達が必要以上に中国に進出しないとやられてしまうという話が過ぎる。そして暗い方向へと話をもっていく。そのことにより気持ちがますます不況になっていく。その事の方が心配です
(木箱等製造)
現状が当たり前。むしろ更に悪化すると判断している。

(3)流通
(板硝子卸)
民需の沈滞が一段と落ち込んでいるが住宅においてはリハウジング(増改築)が増加しつつある。官需も改築に一段と力を入れれば火がつくかと考えます。
(婦人靴卸)
本年度に入り同業者、売り先(小売業)の倒産が多発している。
(ビニール資材卸)
不景気ではない。恐慌との認識をもつべきである。
(自動車用品卸)
販売店の売上不振と倒産が目立つようになって非常に不安である。新規事業が少し良くなっているのが救いです。
(住宅関連機器卸)
住宅メーカー、マンションメーカーが相次いで倒産し、間接的に厳しくなってくることが予測される。
(総合ギフト)
最近の大手量販店、百貨店等の倒産により仕入先がかなり厳しい状況にあるようです。
(クリーニング資材卸)
業界の販売促進策として値下げ競争ばかりに偏っている。他の業種ならいざ知らず当業界の価格は半欧州より下がり国際的にも低い。その結果品質を落として消費者の信頼を損ね不信感を増大させるという客離れを起こし、また値段を下げるという悪循環に陥っている感がある。
(歯科器材卸)
あらゆる業界に金融機関の貸し渋りがかなり中小企業に影響を与えており、機器設備を投資したくてもできない中小企業がかなり多い。大企業の対応ばかりでなく小企業にもやるべきことをしないとますます悪くなる。政府のやることはまったくあきれて話にならない。

(4)サービス
(広告代理店)
小泉政権は不良債権を解決すれば景気回復すると言っているが、これは全くの間違いで不況の原因は民需が伸びないから!したがって小泉政権下で景気回復することはなく苦しい経営が続きそう。でも社長の使命は不況下でも利益を出すことなので頑張ろう!
(コンパニオン派遣等)
商業道徳を無視した一部の業者によって業界が混乱している。打開するために新商品を展開したり得意先の売上に貢献できる企画を提案したりして取引の継続に付加価値を付けるようにしている。
(測量)
仕事はあるが単価が安くなる一方。
(中華料理)
狂牛病をはじめ外食産業全般に景気低迷によりお客様の利用度が減ってきている。販売店ベースの売上低迷をはじめ外食業界にも響き始めている。競争力のある業態の開発、低価格への対応等により、対応しなくてはいけない時期に差し掛かっている。
(レストラン)
価格(安価)であれば良いというわけでもなく、高付加価値な商品(料理)であっても反応が鈍く、利用者の求めるものがなかなか見えてこない点が難しい。景気の良し悪しとは別に利用者の外食に対する意識そのものが変化してきている。