活動報告

人を生かす経営を学ぶ総合学習会(第4回)12月25日

豊かな人間の生き方と学習権

石井 拓児氏  名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授

より広い視野から社員教育を考える機会となった学習会

弱い者が弱い者をいじめる分断社会

第4回「人を生かす経営総合学習会」が行われ、名古屋大学大学院准教授の石井拓児氏が報告しました。

1985年に採択されたユネスコ学習権宣言には、南北問題による貧困格差とその背景にある国際社会構造をふまえ、社会を変える担い手としての大人の責任、そのためにすべての人々にとっての「学ぶ」ことの重要性が書かれていると石井氏は指摘します。

そして今、グローバリゼーションにより国際的な税逃れや新富裕層の移動が引き起こされ、貧困格差の拡大から憎しみや対立が深まり、弱い者がさらに弱い者をいじめる分断社会になっているといいます。「私たちは、どのような社会を目指すのか。そして、それは誰がつくるのかを学習権宣言は問うている」と、参加者に問題提起をしました。

特殊な社会構造の中で

「過労死」は国際共通語になっています。長時間労働が当たり前の日本は社会保障が未整備なため、教育や介護等をサービスとして購入して生きていかねばならず、働くことから離脱できない人生を余儀なくされています。子どもや老人の貧困問題も非常に深刻といいます。社会保障が未整備で、生きづらい社会であることが、少子高齢化し人口が減少する社会の根本的な原因だと示唆しました。

賃労働のほか、家事・育児・コミュニティの活動なども大切な労働といいます。しかし日本では賃労働に多くの時間を割かれ、その他の活動(学習や文化、スポーツ、余暇・レジャー活動)の時間が削られています。「働くこと」に動員されている私たちの在り方を、問い直してみる必要があると問題提起しました。

「学ぶ」意味を考える

人間は働くことによって生きることの価値や喜びを感じるものだが、もっと自由で多様な選択があってもいいと石井氏は述べます。良い学校へ進学し、良い企業へ就職し、高い賃金を得ることが、生きるための唯一の手立てになってしまっていないかと問いかけました。

グローバリゼーションという新しい社会段階における「社会構造」を深く正しく掴むことこそが、分断社会を乗り越える力になるといいます。なぜ日本で長時間労働が常態化し、過労死が引き起こされてしまうのか。日本の構造や歴史を知り、どのような社会を描くのか、豊かに生きるとはどういうことかを一人ひとりが考えていく必要があると述べました。

最後に、学習権宣言は、この時代を生きている私たちに、そのことを伝えてくれているとまとめました。