活動報告

第22回障害者問題全国交流会 課題提起(10月19日)

同友会運動における障害者雇用を考える

~障害者問題全国交流会で何を学び、実践しますか

浅井 順一氏  (株)浅井製作所

「障害者との関わりが私と会社を変えた」

「『働きたい!』その願いが障害ゆえに叶えられない―。この人間軽視の現実に、対峙し続けてきたのが同友会です。その(障害者との)関わりの中で経営者自身の人間性や社会性が豊かにかたちづくられることを運動の中で明らかにしてきました」。(第22回障害者問題全国交流会in愛知、実行委員長あいさつより)

2日間にわたり開催された愛知障全交の全体を貫く課題提起として、冒頭の一節が経営体験を通して参加者に投げかけられました。本稿ではその概要をお伝えします。

初めての障害者雇用

私は2003年に愛知同友会へ入会しましたが、その前年の2002年に実は一度、障害者雇用にトライしたことがあります。

きっかけは養護学校(当時・現在は特別支援学校)の先生からの、実習受け入れの相談でした。内心では「障害者雇用なんて無理だよ」と思っていましたが、「まぁ実習くらいならいいかな」と軽い気持ちで引き受けて、先生のサポートもあったおかげで2週間の実習は終えることができました。

ホッとしていると、先生から「彼はこれから学校を卒業します。今回実習させてもらって、『浅井製作所さんの仕事を続けたい』と言っているのですが、何とか雇用してもらえませんか」とお願いされました。「これは困ったな」と正直思いましたが、軽いボランティア的な考えもあり、「実習もできたし、何とかなるか」と採用を決めました。

痛恨の失敗

現場の社員には「こういう子が来るよ」と、ある程度の説明をして雇用をスタートさせたのですが、最初はニコニコして元気に出勤してくれていた彼が、半月も経たないうちに暗い表情に変わり、1カ月経った頃からはポツポツと休むようになってしまいました。そして2カ月目に入った頃からは出勤ができなくなってしまい、ある日、退職の申し出があったのです。

後で社員に聞いてみると、プレス作業は危ないからと、仕事を彼にさせずに見学ばかりさせ、なかば「お客さん」として接していたことが分かりました。当社の仕事がしたくて入社したのに、まるで戦力外のような扱いを受け、それが彼の自尊心を傷つけてしまったのです。

当社の初めての障害者雇用は、まさに痛恨の大失敗だったのです。

社員に背中を押されて再チャレンジ

同友会入会から10年後の2013年、当社は再び障害者雇用に挑戦しました。

きっかけは社員からの紹介です。最初は断りました。しかし、その紹介してくれた社員も簡単には引き下がりませんでした。

雇用するとして、あらかじめお願いする仕事が決まっていなければ、たとえ入社しても再び「お客さん扱い」です。そうなれば、前回の失敗の二の舞は避けられません。そこで、提案してくれた社員が目を付けたのが、製品を納品する際に利用する「通い箱」の整理でした。

当社では1日で1500箱から2000箱が動きますので、当然、それを整理しなければなりません。その仕事をお願いしてみてはどうかというのです。それでも渋る私に「きっとやれるよ」と言い切る社員。その想いに押されて、「そこまで言うなら」と渋々採用を決めました。それが、今も一緒に働いている4人の障害者の中の1人です。

人間は必ず成長できる

そのような経緯で入社した彼は、最初はできないこともたくさんありましたが、根気よく仕事を任せていくと、着実にできるようになっていくのです。空箱整理はみるみる進んでいきました。

すると、周りの社員からは「彼が来てくれてよかった」、「とっても助かる」という声がどんどん上がり、それを聞いた空箱整理をする彼は「役に立てて嬉しい」と、どんどんやる気を出してくれるという好循環につながっていきました。そこからは「これもお願いできないか」、「あれもできるのでは」と、次々に彼に任せる仕事の幅が広がっていきました。

今では、当初の空箱整理だけでなく、空箱を生産ラインに投入する仕事や、完成した製品をピックアップして集荷場へ移動させる仕事も担ってくれており、当社にとって「いなくてはならない存在」になってくれました。

人間は誰しもが必ず成長できる―。私は、この体験を通じてこのことを学んだのでした。

障害者問題委員会?ボランティアでしょ?

そうこうしていると「障害者問題(現・障害者自立応援)委員会に関わってくれないか」と誘われました。2016年のことです。ところが、当時の私は新工場の竣工で頭がいっぱいで、「障害者問題委員会なんてムリ、ムリ、ムリ!」といった状況でした。

私が障害者問題委員会に関わるのをためらったのは、同委員会を「ボランティアをする委員会」と誤解していたからです。

「障害者問題委員会=ボランティア」という考えが根底から覆ったきっかけは、ある農園貸出事業の見学に行った際の、委員会メンバーの憤る姿からでした。

人間らしく働き、生きるとは

この農園貸出事業は、「障害者が水耕栽培で野菜を育てているビニールハウスごと」企業に貸し出すという事業で、私が聞いた借り手は1部上場企業でした。

私は「雇用される障害者は1部上場企業で働ける、給与も貰えるし、『借り手』企業も法定雇用率を満たせる。農園貸出事業所も潤う。良いことずくめ」と思っていたので、なぜみんなが怒っているのか最初は分かりませんでしたが、話を聞く中で憤りの理由が理解できました。

ここで働く障害者は、ビニールハウスの中に囲われ、「借り手」とされる会社の社員と交流する日常を持たないのです。生産された野菜も市場に出ることはなく、多くが廃棄処分されるか、「借り手」の企業の社員に無料配布されるかでした。健常者と障害者が共に働く、関わることもありません。そんな働き方を指して、委員会メンバーは怒っていたのです。まさに、「人間らしく働く」とは何かを考える機会になりました。

「これが人間として働くことなのか。やりがいはどこにあるのか。人間として豊かな人生を送ることができるのか」という疑問を強く抱いたのです。この体験が、私の眼を開かせてくれました。

「1社1人関わる・愛知モデル」が呼びかけるもの

同友会の目指す障害者雇用とは、障害者と健常者が分け隔てなく一緒に働き、その中で育ち合うことであり、委員会は経営者として責任ある経営姿勢を学び合う場だと私は考えています。

しかし障害者問題と聞くと、私たちの考え方とは違う印象を持たれていることがほとんどです。こうした状況を変えていくために、私たちが取りまとめたのが「1社1人関わる・愛知モデル」です。障害者雇用を目指すことも大切だけれども、1社が1人の障害者と関わることが、誰もが豊かな人生を実現できる企業と社会を目指す一歩になる、という考え方です。

波風の中、委員会で学んで

障害者問題委員会で学んで、一番変わったのは私自身の考え方です。たとえば、当社の障害を持った社員を思い浮かべる時に、無意識に抱く印象が変わりました。最初は「うちの会社の障害者」でした。次に「障害を持った社員」、今では「うちの会社の○○君」になったのです。

命の重さは皆等しいことは誰しもが分かっていると思いますが、私が委員会で学んで得たのは、その「当たり前のこと」への確信です。

人間は障害の有無に関係なく誰であっても必ず成長し、会社にとって不可欠な存在になることができます。懸命に共に働き、共に生きることが、同友会の目指す人間尊重経営の原点といえます。

同友会は学びと実践の会

経営者自らが自己変革を進める中で、命の尊さ、尊厳に目覚め、人間尊重経営を深め、実践し、そのことを通じて1社1社が社会を担うに足る存在になっていくことで、社会全体の変革を目指すのが同友会運動です。徒党を組んで要求・要望をするのではなく、自覚的な経営者と企業を増やしていくことで社会をより良く変えていくのが同友会運動の本筋といえます。当然、この障害者問題全国交流会も、社会正義を議論する場ではありません。

同友会は企業づくりを中軸に、学びと実践を互いの切磋琢磨、励まし合いと授け合いで積み重ねていく団体です。人間尊重経営の原点に立ち返り、大いに学び、議論し、そして「参加して良かった」と心から思える2日間を創っていきましょう。

【文責:事務局次長 池内】


「一社一人関わる・愛知モデル」

愛知同友会・障害者自立応援委員会は、人間尊重経営を目指す会員企業において障害者と関わる意義を広めるため、2015年度から各社が障害者と関わる「一社一人関わる運動」に取り組んでいます。その運動推進の要点を「一社一人関わる・愛知モデル」として2021年度に成文化しました。

■会員企業における取り組み
  • 障害者と関わり、やがては雇用することを理想とします。
  • 雇用がむずかしい場合でも、見学や実習の受入、障害者の作った物品を購入、地域でのイベントに参加するなど、関わりを見出し行動します。

会員企業での実践

  1. 障害者との関わりを通じ、人間として、企業として「生存条件」を追求し、経営者の「人としての心」を醸成します。
  2. 人間尊重経営を実践する経営者として、慈善ではなく障害者の働く権利と生きる権利を保障するため、会員相互の連帯を深めます。
  3. 障害者との関りや雇用を通して、企業内に人間の多様性を認め合う企業風土を醸成し、全社一丸体制を進め強い経営体質を作り上げます。
■同友会における取り組み
  • 人間尊重経営を掲げる会員企業として障害者に向き合うことは必然の課題です。「一社一人関わる運動」と「同友会理念」を常に不離一体で捉えます。
  • 障害者の存在を、同友会の学びの中で普通に会員の課題として議論できるようにします。

障害者自立応援委員会は、人間性と社会性を深く学ぶ場

※委員会の学びの視点

  1. 自社の経営において、人間性、社会性を深めます。
  2. 誰もが持つ可能性に確信を持ち、経営者自らが本気で関わります。
  3. 黙々と働くことを障害の特性で括らず、その奥にある自尊心を支えます。
  4. 気配り、心配り、安心感のある企業風土をつくります。
  5. 見えない生産性(生きがい、やりがい、幸福感=組織力)を生み出します。
  6. 見えない生産性を見える生産性(売上、利益)へと転化します。
  7. 上記の状態が永続できる確かな裏付けを持ちます。

「一社一人関わる・愛知モデル」を愛知の会員や全国の会員に発信します。