活動報告

第22回障害者問題全国交流会 パネルディスカッション(10月20日)

企業経営における見えない生産性とは
~人間が人間らしく生きられる共生社会へ

パネリスト
浅井 順一氏  (株)浅井製作所
鈴木 学氏  スズキ&アソシエイツ(株)
中野愛一郎氏  (株)イベント21(奈良同友会)

コーディネーター
松村 祐輔氏  (株)BeBlock

浅井 順一氏

障全交2日目に行われたパネルディスカッションでは、障害者問題とは何か、また障害者雇用を通して「見えない生産性」について討論されました。なお、登壇を予定していた杉浦昭男氏(真和建装)が急逝されたため、代わって浅井順一氏(浅井製作所)が登壇しました。以下にその概要を紹介します。

障害者「問題」とは何か

【松村】まず、障害者問題の「問題」とは何でしょうか。令和5年版障害者白書によると、日本の障害者数は1159万人(身体障害者436万人、知的障害者109万人、精神障害者614万人)です。国民の9.2%に相当します。

人口減少の中で義務教育段階の全児童生徒数は減少していますが、特別支援教育を受ける児童生徒数は約2倍に増加しています。

障害者雇用は、雇用者数、実雇用率ともに過去最高を更新していますが、法定雇用率を達成している企業は48.3%です。

内閣府の人権擁護に関する世論調査(2022年8月調査)の結果では、障害者に対する人権問題は未だに存在しているということでした。一方で障害者に関する世論調査(2022年11月調査)では、障害を理由とする差別の解消等について、広く国民が関心を持っていることがうかがえます。

このような中、障害者問題の「問題」とは、企業側の課題でしょうか。それとも、社会の構造的な課題なのでしょうか。

松村 祐輔氏

障害者雇用のきっかけと現在の状況

【松村】それでは、パネリストの方々に障害者問題の「問題」について考えをお聞きします。

【浅井】前委員長の杉浦昭男さんから「障害者問題委員会に参加してほしい」と言われた時に、「ボランティアの委員会はちょっと遠慮します」と答えていました。私自身がそうであったように、障害者に対して多くの人が持っている潜在意識の中の心理的バリアが問題だと感じています。

【鈴木】私が小学生だった頃は、障害のある児童も一緒に授業を受けていましたが、今は特別支援学級のように分かれているので、健常者と障害者との接点が少なくなってきていることが問題だと思います。私は、杉浦昭男さんを含めて身近な同友会の先輩が障害者問題委員会に深く関わっていたことで、障害者と関わるようになりました。

鈴木 学氏

【中野】障害者雇用と聞くと、重度の障害者をイメージすることも多いと思いますが、実際に関わってみると、「普通やん」と本当に驚きました。共同求人活動の新卒採用では、若者に選ばれる企業になるために、若者と関わり、企業力、採用力を高めていきます。障害者雇用も同じだと思います。知らないから関わらない、関わらないから「自分事」にならないのです。

中野 愛一郎氏

【松村】障害者雇用のきっかけと現状をお聞きします。

【鈴木】会の役員として活動する中で、障害者問題に関わっている先輩が身近にいたことがきっかけです。障害者雇用の例会に参加した際に、「障害者雇用をすると社員が優しくなる」という言葉が印象に残りました。社員が優しくなると、殺伐とした社内が柔らかい雰囲気に変わるのではないかとイメージを膨らませました。2020年に新社屋が完成し、環境も整ったので障害者雇用を決意しました。

障害者問題委員会に相談すると、「まず実習生を受け入れてほしい」と言われ、3名の実習生を1週間受け入れました。すると、数週間後に再度2週間の実習をしたいと相談がありました。自閉症の彼は、こちらの問いかけに対して、返答までに時間がかかります。それに慣れるまで苦労しましたが、実習をきっかけに雇用し、現在も働いてくれています。

【中野】当社は、人手不足がきっかけです。ある日、同友会で「障害者雇用をしてみてはどうか」と言われ、地元の養護学校に行きました。校長先生からは、「親御さんは自分の死後、子どもを1人残して大丈夫だろうかと大変心配し、苦労している」という話を聞きました。

廊下に出ると、初対面の子どもたちが最高の笑顔でハイタッチをしてくれました。その子どもたちが愛おしく、「なんとかせなあかん」と経営者としてのプライドが燃えました。そこから、障害者を2名雇用しましたが、半年で辞めてしまいました。当時は多様性を認める風土が弱かったのだと思います。

2度目は、就労支援の専門家に入ってもらうことにし、業務内容からフォロー体制まで1年かけて事前準備を行いました。その時に雇用した彼は、倉庫でレンタル用品の管理、発送、梱包をしてくれています。誰よりも記憶力が良く、今ではなくてはならない存在になっています。

【松村】障害者雇用を通じて苦労されたこと、大変だったことを教えてください。

【浅井】障害のある社員が好意を抱いた女性社員について回るなど、気持ちが先行して行動してしまうことがありました。女性社員からの苦情もあり、ルールを丁寧に説明することで落ち着きました。これは、健常者でも同じことだと思います。

【鈴木】2週間の実習を受け入れた際、現場からは「役に立たない」と不満が出ていて、採用にも後ろ向きでした。なぜ、障害者雇用をするのか説明したつもりでしたが、再度朝礼で話をすることにしました。

人にはそれぞれ得意なことや苦手なことがあり、それは健常者でも障害者でも変わらない。その違いを互いに認め合い、助け合えるような風土にしたいと社員に伝えました。

自分よりできない人を責める風土、人を責める社会ではなく、できない人にもできるような工夫をすることが、お互いの違いを認めることにつながると思います。障害者雇用の目的はそのような風土をつくることです。

「目に見える生産性」と「目に見えない生産性」

【松村】障害者との関わりについて真和建装・木村工場長の動画を紹介します。

【木村】杉浦会長はよく「見えない生産性」について話をしてくれていました。障害者の方は健常者の方と比べると及ばない部分もあります。しかし、表面的な部分だけを見るのではなく、見えにくい部分では生産性を上げていると教えてくれました。

悟さんという障害を持った方は、主に廃棄処理の仕事をしています。しかし、何度説明してもゴミ袋がうまくセットできませんでした。そんなある日、初めて完璧にセットされていました。私は驚き、「完璧です」と言うと彼は嬉しそうに「やったー」と言いました。その日はとても気分が良く、悟さんもニコニコしながら仕事をし、工場のスタッフも機嫌が良いように感じました。そして、何より工場内に暖かいとても良い雰囲気が生まれました。

障害があるからといって、何もかもできないわけではなく、困難なことがあれば健常者がサポートし、一緒に1つの目標を越えていく。その中には喜びや感動といった幸せを感じさせる出来事がたくさん詰まっていると思います。

これからも社訓である「共に育つ」、また「人は何のために生きるのか」「それは幸せになるため」という教えを基に、障害者の方と深く、うまく付き合っていきたいと思います。

【松村】「目に見える生産性」と「目に見えない生産性」についてお聞きします。

【浅井】ある女性社員は失敗が多く、何もできないと非難されていました。そこで彼女に話を聞くと、持病があり、薬の副作用で仕事に影響が出ていました。治癒するまで短時間勤務を導入し、彼女ができる仕事を探し、いくつか試した結果、適した業務が見つかり、昨年フルタイム勤務に復帰してくれました。

最初はできなくても必ずできるようになり、人は成長するということを社員も学んだと思います。見えない生産性とは、お互いを認め合う社風であり、それが会社全体の生産性を向上させてくれるのだと思います。

【鈴木】障害者も健常者も誰でも同じ仕事ができるように、業務の洗い出し、細分化を行い、手順書を作成しました。これにより業務内容が明確になり、不安の解消、安心感につながりました。

少しずつお互いを認め合う風土をつくり、誰でも活躍できる会社にしていくことが、見えない生産性の向上につながると思います。

【中野】見えない生産性は、企業文化に当てはまると思います。良い会社には良い人が集まりますが、悪い会社には悪循環が広がります。良いことを当たり前できる、当たり前のレベルを上げていくことで会社のレベルが上がっていきます。常により良い世界を未来につなげ、みんなのハッピーにつなげるという姿勢で取り組んでいます。

障害者雇用、自立応援の運動をいかに広げていくか

【松村】1986年、愛知同友会の先輩方は障害者問題委員会を設立しました。しかし、杉浦昭男さんが「砂漠に水をやるようなものだ」と嘆くほど、この運動の広がりが不十分であるということは感じています。

「障害者雇用は無理です」という企業が多いことも理解できます。しかし、雇用が難しくても1社1人でよいので関わってほしいと思います。運動推進の鍵は、「他人事」から「自分事」へとシフトチェンジすることです。自分にできることを考えてみませんか。

【浅井】一番大事なのは、やっぱり関心を持つということだと思います。関心を持ったら、他人にその想いを伝えることでこの運動が広がっていくと思います。

【鈴木】障害を持つ社員には優しく接することを心掛けていますが、他の社員にも優しく接しているかと問われると、できていない自分もいます。1人1人の違いを認め、人間尊重経営ができているかを自問自答しながら会社を良くしていく経営者が増えていくことが大切だと思います。

【中野】「余裕ができたら障害者雇用に取り組みます」ではなく、この課題を「自分事」として考え、それを会社の課題にして社員1人1人が「自分事」にできる会社にしたいと思います。個人ではなくチームで働いています。絶対に結果を出して、社員と一緒に社会を変える存在になりたいです。

【文責:事務局 伊藤】