人とは何か
~共生の時代に、今、改めて問う
大田 堯氏 東京大学名誉教授

2023年度に愛知で開催した障害者問題全国交流会を契機に「人間尊重」の本質的な学びをさらに広げようと、3回シリーズの全県学習会を企画しました。第1回では東京大学名誉教授の故・大田堯氏の録画を視聴し、「人の本質」について考えました。大田氏の講演要旨を紹介します。
人間の本質
大田氏は、欲望をあおる市場経済により人間の欲望は肥大化し、自己中心的になり、他者との関わりが薄まる中で「孤独化」に向かっているのが日本社会の現状だといいます。そして、バラバラになった関係の中で、子どもや若者たちが人間になろうと悪戦苦闘し、溜まった欲求不満が動機のない犯罪やキレる状態を生み出しているのではないか、と危惧を示しました。
人間の本質は「弱い動物で、1人では生きられず、関わり合いの中で生きる存在」とし、自己中心でありながら社会関係の中で生きねばならない矛盾の中に身を置き、右往左往し生きているのが人間の姿だと説きました。
本当の教育
競争と人間の共存は、常に緊張関係にあります。日本の教育界も同様で「よい大学に入り、よい会社に就くためにテストで競う」という競争原理の中にあり、大田氏は「それが本当の教育なのか」と鋭く問いかけました。
本来の教育とは、1人1人のかけがえのない持ち味を引き出すことを周りが助けるもの。成果よりも大事なことは、どういう道筋を辿ってきたのか、そのプロセスを交わし合うことにあります。他人と意見が違ってもよい、自分だったらどうするかを考え、なぜその結論に至ったかを交わし合うことが教育の本質だと述べました。
問題があるから未来がある
人間の共生、共育のヒントとして、大田氏は自らの願望を込め、次の3点を投げかけました。
1つ目は、1人1人の違いを認め合う――人間は本来「違ってある」という自然の摂理に従い、違いを越え尊重し合うこと。2つ目は、ヒトは自ら変わり続けて自分をつくる――周りの助けは不可欠であるが、原点は「自ら変わる力」にあること。3つ目は、生命は関わり合いの中にある――「違いを認める」「原点は自ら変わる力」を踏まえ関わりを創造していくこと。
最後は「現在社会において、共生、共育は、下りのエスカレーターを上るようなもの。しかし、理想と現実との闘いの中に人間の生き方の常道があり、問題があるから未来がある」と、一緒に悩みながら共に成長する実践が未来を拓くと締めくくりました。