活動報告

2019年度「情勢と展望」の概要

「世界をいまよりよくすることはできるだろうか」。これは本田技研工業が昨年7月17日の日本経済新聞に掲載した1面広告のキャッチコピーです。世界全体に閉塞感が漂うなか、私たち自身が、「新しい時代に、どのような役割を担うか」を描き、自らのありたい姿に向けた決断と実行が社会から求められています。

ここでは、第58回定時総会議案「情勢と展望(一次案)」概略を紹介します。

デジタル覇権争う世界~海底ケーブル+データセンターの分布

デジタル覇権争う世界~海底ケーブル+データセンターの分布

(資料)日本経済新聞(2018.10.28)「『データ資源大国』はどこだ デジタル覇権争う」より転載。
(https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/submarine-cable-topic/)

年齢3区分人口、合計特殊出生率の長期推移

年齢3区分人口、合計特殊出生率の長期推移

(資料)国立社会保障・人口問題研究所(2017)「日本の将来推計人口」よりデータ取得し作成。

石油からデータへ

2018年の世界上場企業の時価総額ランキング上位の顔ぶれを見ると、20世紀に隆盛を極めた石油メジャーや自動車産業、金融機関が後退した一方で、膨大なデジタルデータを利用して莫大な利益を上げるIT企業群が大きく躍進。技術革新の急進展で産業構造がすでに「変わった」ことを印象付けました。

現代の技術革新は、既存の産業を塗り替える力を持つと同時に、社会そのものを変革するほど強大です。その正負両面への注目が不可欠です。

世界経済の現状を見るキーワードは「経済成長率」、「労働分配率」、「家計貯蓄」の3つの「低下」です。世界のGDPは拡大を続けていることを踏まえれば、それだけ富を持つ者と持たざる者との格差が巨大化しているといえます。

こうした抑圧された人々から発せられた反作用が、欧米を中心に広がりを見せている反既成政治や、米中の貿易戦争につながるなど、世界の揺らぎの根源となっています。

実感なき景気拡大

日本経済は戦後最長の景気拡大局面とも言われていますが、実感は伴っていません。背景には、景気拡大の恩恵の家計への波及が極めて限定的であること、中間層が長期低落傾向を続けていること、実質賃金の低下と非正規雇用の拡大等で、将来不安が増大していることなどが考えられます。

こうしたなかで、中小企業や国民の多くは、景気拡大の実感を持てずにいます。結果、日本国内でも貧困と格差が広がり、その水準も、将来の不安要因として看過できないまでに高まっています。

大転換期の自動車

愛知県の基幹産業である自動車産業は、CASEやMaaSと呼ばれる100年に一度の大転換期にあります。自動車の機構変化だけでなく、新車販売で稼ぐビジネスモデルから、「移動サービス」を提供する方向にシフトしつつあります。いわば数量から付加価値への転換です。

急速に進む技術革新のなかで、昨年大きく話題となったEV化だけでなく、産業そのものを一転させる変化が迫っています。全産業に関わる問題として目が離せません。

数量から付加価値へ

このように、経済の視点は数量から付加価値へ移行しつつあります。付加価値経済化とも呼べるなかで、新たな価値を生む最大の源泉は人です。多くの日本企業は、これまで人をコストと捉え、その削減による付加価値の創出に依存しがちでしたが、同友会が提起する人を資産と捉える「人を生かす経営」こそが最良の戦略となる時代です。

閉塞感が世界・日本・地域全体を取り巻くなかで、人々は社会への信頼を失いつつあります。企業には、従来通りに良い製品・サービスを供給するだけでなく、安心、安全、希望を発信し、この社会が信用と信頼に足ることを示すことが求められます。

人が生きる地域に根差す中小企業だからこそ、それらの与え手となれます。仕事を通じて、「誰の、どのような幸せを実現したいのか」。社会から次代を創る中小企業に問いかけがされています。