大きく変化する価値観や生活様式
新型コロナウイルス感染症は、第2波の感染の急拡大が見られます。そうしたなか、中同協が主催する3回目の全国緊急調査が実施され、愛知同友会の集計分を分析しました。新常態に挑み、企業を維持・発展させるための活用や、中小企業の実態の把握に役立てていただければ幸いです。(回答の構成比は小数第2位を4捨5入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。)
製造業で広がるマイナス影響
今回の調査で留意すべき点は、愛知県内で感染者数が再び増加に転じる前の時点で行われたものであることです。集計結果では、前回と比べて「マイナスの影響が出ている」が57%→62%、「今後マイナスの影響が懸念される」が29%→26%と推移し、製造業ではマイナスの影響が出ている企業割合は66%→76%と上昇しました。(グラフ1)
具体的な影響は「商談遅延」「予約キャンセルによる売上減や損失」の比率が引き続き高く、8月の売上見込み(前年同月比)は、減少する割合が59%に達し、業種別では前回同様、製造業(74%)で売上減少を予測する割合が高まりました。(グラフ2)
コロナ後に進むこと
マイナス影響のピークは、「ピークは過ぎた」が15%、「現在」が13%(製造業20%)とするものの、「見通せない」が17%→28%と先行き不透明感の増大を示しています。(グラフ3)
「新しい生活様式」の業績への影響は、「マイナスの影響」が「プラス・マイナス両方の影響」をわずかに上回り、特に製造業の37%が悪影響と判断しています。
アフターコロナで進むことでは、「デジタル化・IT化の推進」「テレワーク・リモートワークの増加」の比率が高く、「経済格差・差別の拡大」「地方分散型社会への転換」と続いています。(グラフ4)
事業の再構築が不可避
全世界に広がった感染症は、海外経済の落ち込みと長期的低迷を引き起こし、輸出の減少と回復の阻害要因となっています。再度の感染拡大への懸念から、インバウンド消費の回復も期待できず、感染症を警戒する消費者マインドから、個人消費の早期回復も困難といえます。
さらに、今後は人と距離を取り、接触を回避する対応が求められます。店舗等では客数が制限されることで売上減少が避けられず、恒常的な赤字体質に陥る可能性があり、事業の再構築が不可避です。
経済思想が問われる
今回の新型コロナウイルス感染症は、私たちにこれまでの生き方を問い直しています。GDPへの影響といった「経済理論」も大切ですが、人間的に魅力ある社会を安定的に維持するための「経済思想」が問われています。
またポストコロナの社会は、人の価値観や生活様式が大きく変化することになります。先の経営を考えるために、情報と知恵を持ち寄り、経営者が集団で議論し分析する、そして新たな知識を創造する中小企業家同友会の強みを発揮することが重要といえます。
【調査要項】
(1)調査日 7月13~22日
(2)回答企業 803社
(建設129社、製造222社、流通・商業200社、サービス252社)
(3)平均従業員 28・5名
会員の声(抜粋)
企業の存続のための取り組み
建設業
- 拠点となる古民家再生をオンラインサロンで有料のメンバーを集めてリノベーション塾を企画。そこに集う仲間を拡散してコミュニティーサロンで多方面への田舎体験型コンテンツを発信(農業・遊び・DIY・福祉介護など)。
- 経営指針書に基づいた経営を貫くこと。経営計画なしでやることはできないと実感している。同友会で情報には困らない点と励まし合う仲間がいることは本当に大きい。
- 買い手市場のうちに人材の確保を行う。時間があるうちに集中的に教育を行う。
- 今期中にテレワークできる環境を完璧に整備する。拠点展開によるリスク分散・採用の強化。事業の多角化(隣接業種)による経営基盤の安定化。BCP対策の強化。
製造業
- 「人を生かす経営」の読み直し。経営指針の再度の社員との共有。
- 雇用保険の教育訓練制度を利用して、社員の多能工化を図っている。事務も営業の助けができるように図面の読解、CADを習う。現場は他部署の仕事ができるように、訓練中。
流通・商業
- 同友会有志による「5%の種まき勉強会」をZoomで実施。小規模事業者持続化補助金を活用し、住宅も地産地消の時代へということで、地域でお金を回すような取り組みをしたい。
- 新規取引先の取得により既存先で失われた売上をカバーし、変動費を減らし固定費と粗利の割合を増やす。仕入先に対して決済条件を見直すことで変動費を減らし、新規顧客を獲得することで失われた20%の売上の補填を行う。
サービス業
- オリジナル商品の海外からの調達断絶による、サプライチェーンの再構築。医療のオンライン化に資する「服薬ボックス」の開発。デジタル化により、地域社会活動を支援するシステムの開発。
- 経営者と従業員の情報共有、認識共有。この礎がない限り、経営の諸施策は効果を生まない。同時に、事業領域の拡大を視野に入れての新技術の習得、幹部(専門&管理)の育成。
会社や業界での大きな変化
建設業
- 受注するために単価を下げる業者が多く、適正価格でなくなることが不安。
- 雇用調整助成金への取り組みで当初、社員からは「忙しくて休めない」など不満が出たが、取り組み理由を丁寧に説明し、実際に行ってみたら意外にも何とかできた。
- 経営者との間のコミュニケーションが改善した。次世代育成の機運が、会社全体の危機意識で高まった。民間需要が低迷しているため、公共工事案件の競争が激化している。採用活動がウェブ中心になり、遠方からのエントリーがあった。また、売り手市場だったのが買い手市場になったが、技術職は相変わらず人気が無い。
製造業
- コロナの2次感染が始まったら成人式、卒業式、入学式の開催が危ぶまれ、呉服業界は倒産企業が増える可能性がある。
- 店舗などに並ぶ製品は減った。しかし飛沫防止のパネルやマスク、フェイスガードなど製造業が手をつけられる商品は特需となっている。
- 消費税増税で受注が落ち、受注が回復する前に新型コロナウイルスの影響で、さらに受注が落ち、V字回復も見込めないので、事業を縮小、廃業する取引先がある。
流通・商業
- 自粛明けに、動画の問い合わせが増えてきた。動画PRの重要性が増してきている。反面、高いコストをかけたCMなどは減っているので、いかに低コストで高いパフォーマンスを保つか、効率よくこなしていけるかが課題。
- FC本部の方針が2017年~2020年新規出店の抑制から、コロナ後、売上獲得のために新規出店を進める方針へ変化。
- 戦略的な休業によって、少ない人員でも業務が回る事実を発見できたため、今後の人の割り振り等を見直す良いきっかけになった。
サービス業
- 健康意識が高まったことで、ビタミンCの需要が増えて販売実績が上がる。
- 金属リサイクル業界は取引先がコロナの影響で仕事が止まっているのでスクラップが出ず、客先が忙しくなるまで何ともならない。
- 美容業界全体が売り上げが落ち込み、廃業した会社が出始めた。
- 仕入れ元が、朝自宅から直接顧客先に出向き、営業所へ出勤せずに1日が終わるスタイルを取り入れている。今後うまく進めば、将来的には営業所を無くす方向。