時代変化対応のカギは企業連携
~本業を深め、広げ、新しい価値を生み出そう
鳥越 豊氏
(株)鳥越樹脂工業 代表取締役
中同協企業連携推進連絡会 代表
7月4日~5日に宮城で開催された中同協総会の1日目に、第8分科会で鳥越豊氏が報告者として登壇しました。企業連携をテーマに行われた報告の概要を紹介します。
人を生かす経営を目指して
当社の経営理念「意努夢(いどむ)」の「夢」は、自社にしかできないことをすることです。モノづくりに限らずサービスや客に対する考え方など、自社だからできることを増やして、オンリーワン企業を目指しています。そのためには、最適な製品を作り続けていく「努」力をしていくこと。そして第1にはお客様のことを考えて、喜びの提供に「意」を尽くしていくということだと考えています。
事業の目的は、「人を生かす経営」として、全ての社員の豊かさと可能性と人間性を引き出すこととしました。この実現のためにはお金が必要ですが、利益は目的ではなく、目的達成のための手段だと考えています。
『労使見解』の1つ目には「経営者の責任」が書かれており、私は社員や社会に対しての責任を持って、企業を維持し発展させていくこと、そのための経営判断をしていくことだと考えています。
それには覚悟が必要です。経営者は日々、さまざまな判断の中で、「現状では難しいため諦める」ことも多いと思います。重要なのは判断の基準です。私は損得で判断するのではなく、その商品を作る・そのサービスをすることで、誰が幸せになるのかという基準で判断することを大切にしています。判断基準が明確になることで、諦めない覚悟だけでなく、諦める覚悟もできるようになりました。
企業連携の本質は何か
企業連携を単なる仕事づくりだと考えていては、うまくいきません。まずは自社を分析し、経営課題を明確にすること。その上で、連携によって求めるものは何か、何のために連携したいのかを明確にする必要があります。連携する上では、自社として変えてはいけないことと、変えなければいけないことを整理することも大切です。
また、「今ある仕事と社員はいつかなくなる」という大前提のもと、自社の現状をしっかりと認識し、外部環境の変化の中で、いかに新しい領域に事業を広げながら、企業を維持・発展させていくかを常に考えています。
愛知同友会の「AICL(Aichi Innovation Creative Link・通称アイクル)」は仕事づくりのための研究会で、それぞれが強みの技術を出し合って、それをつなぐことで新たな仕事を創ろうと活動しています。こういう会合に1回来ても、それ以降は参加しない人の多くは参加姿勢が受け身ですが、最初から情報を得ようとするだけでは、情報は入ってきません。「出入口」という言葉がありますが、出るのが先で、入ってくるのは後です。情報もこの言葉と同じだと考えており、先に自分から発信することで情報が入ってくるようになります。
産学連携の取り組み
2019年11月から取り組んでいる名古屋市立大学のゼミナールとの連携をご紹介します。このゼミはデザインを学ぶ学生で構成されていますので、彼らにデザインを考えてもらい、自社で試作し、販売までを見据えて連携しています。初回は16個のアイデアが出て試作しましたが、世に出すことはできませんでした。当社は製造はできても販売はできないことが原因でしたので、2回目は商品販売をしている中小企業を巻き込み、3回目でついに製品を世に出すことができました。
そこで関わった学生2名が、連携している商品販売の企業に就職しました。この取り組みの中で、自分たちのためだけでなく、同じ目的意識を持つ者が連携し取り組みを継続することで、単なる仕事づくりにとどまらず、採用などにもつながる良い循環が生まれると実感できました。
新たな仕事の創出と自立型企業づくり
新たな仕事の創出と自立型企業づくりに取り組む中で、大切にしてきたことが4つあります。
1つ目に、できるかできないかではなく、やりたいかやりたくないかを考えるということです。会社の利益など、できない理由ばかり考えるのではなく、やりたいという思いで実現の方法を模索すると、チャンスは巡ってくると実感しています。
2つ目に、会社を枠の外から見ることです。枠の中で会社を見ていると視野がどんどん狭くなり、会社の可能性も狭めてしまいます。枠の外から見ることで自社を適切に捉えることができ、課題や未来像も見えてきます。
3つ目に、「と」の力と「か」の力の使い分けを意識的に行うことです。「か」を使うと、何か「または」何かということで、どちらか一方を選択することになりますが、「と」を使うと、両者を掛け合わせて新たな可能性を考えることができます。
4つ目に、経営者は判断だけではなく、決断をしなければなりません。そして、決断をするためには経営者の直感が必要だと思います。直感は、根拠のない山勘とは違います。振り返ると、失敗した時は直感と山勘を勘違いして、必要な情報のないまま判断をしていました。
共生社会に役立つモノづくりを
近年は経営指針作成の中で、2030年に向けてのビジョンを作成しました。
愛知同友会では2022ビジョンとして「地域未来創造企業」を掲げています。地域とどう関わり、地域課題をどう解決していくのか、これをいかに自社課題の解決と結びつけるかが重要です。
その具体的な企業像がフロントランナー型企業であり、規模の大小ではなく、他社との差別化や自社の独自性を磨き、新たな市場創造に常に挑戦し続ける中で、地域課題と自社の課題をともに解決していく企業のことです。この企業像はまさに自社の目指す姿とも重なっています。
社会の大きな課題として、気候変動があります。自社のビジョンでは、カーボンニュートラルに向けた環境事業の構築を掲げて、工場や農業で出る廃棄物に目をつけました。そこで、廃棄物を粉末にして樹脂の粉末と混ぜ合わせ射出成型をするフリーブレンド成型という技術を持つ大阪府にある会社に、自社のビジョンを伝えて話し合いを開始したのが3年前のことです。それが1年前に形となり、工場に技術を導入、最近になってようやく利益が出るようになってきました。
もう1つのビジョンの柱として、インクルーシブな社会に役立つモノづくりをしたいと考えています。違いを認め合って生きていくインクルーシブな社会の中でも、違いによって困っている人はまだまだ多い現状です。その困り事を解決できるモノづくりをしたいと考えました。
そんな中で、1人の経営者と出会いました。その方は障害のある子どもを持つ母親で、車椅子を使用している子どもが映画館で車椅子用のスペースでしか映画を見ることができないことに違和感を持ち、希望する席から映画を見せてあげたいという思いで商品開発に乗り出しました。そして当社に声がかかり、設計から携わって完成したIKOUポータブルチェアは、持ち運んで好きな席に設置して使用できる折りたたみ式の椅子です。現在、公共交通機関やドームなどの施設にも設置されています。もともとは障害を持つ子ども用に開発したものですが、障害のない子どもにも使用されています。
今後の展望
さまざまな仕事づくりに取り組んできましたが、本業である自動車関連部品の占める割合は基本的には7割です。ヒット商品が出ると、本業の割合が4割、5割になることもあり、売り上げに波があります。本業の技術を極めることで付加価値を高めるとともに、社員のやりがいをつくっていきたいと思っています。技術力が高まれば、さまざまなことに対応できるようになり、企業連携や新商品開発にも結び付きます。今後の会社の成長にはヒット商品をいかに増やしていくかが重要ですので、しっかりと注力していきたいと思います。
単に売り上げを上げることではなく、全ての社員がやりがいを持って働くことが事業の目的です。現状では、自動車関連事業の社員と、健康美容などの製造事業の社員では、やりがいに差があることが大きな課題です。さまざまな連携に取り組み、挑戦し続けることで、どちらの事業の社員も、よりやりがいを感じられる企業づくりに取り組んでいきたいと思います。
【文責:事務局 杉山】