【特集 労使見解50年】
社員を絶望させた悔恨を胸に刻んで
明石 耕作氏 (株)トヨコン

社員との関わりの中で、今も強く私の心に残っている出来事があります。それは2010年12月、社員研修のレポートの意見欄に記されていた、当時55歳の社員からのコメントでした。
そこには、春に実施した早期退職説明会の話を聞き、人生で初めてハローワークに足を運んだこと、家族のことを思い浮かべながら絶望的な気持ちになったことが、切々と綴られていました。彼が会社を辞めることはありませんでしたが、文末には、「どうか会社を良い方向に導いてください。夜も眠れない日々を1カ月過ごしました」と書かれていました。
リーマンショック後、取引先からの通達で社員20名以上の職場がなくなることとなり、助成金の申請、ワークシェアリング、グループ会社への転籍など、あらゆる手を尽くしましたが、数名の方には早期退職をお願いせざるを得ませんでした。職場ごとに説明会を開き、何とか定足数に達し、乗り越えられたと思った矢先のレポートでした。
この言葉に触れ、会社に残っていただいた社員の中にも深く心を痛めていた人が多くいたことに、改めて気づかされました。この出来事をきっかけに、社員と共に経営指針作りを進めると同時に、「今ある仕事は、いつかなくなる」という現実を肝に銘じ、理念と経営指針の作成、そしてその浸透に本気で取り組むようになりました。
2020年、その彼が65歳で雇用延長契約の最終日を迎え、花束を渡しに行った際、「社長、これを覚えていますか」と、あの時のコメントに私が書き添えた言葉を見せてくれました。そして「ありがとうございました。無事に卒業できました」と言われた時の想いは、今も忘れられません。
経営者は、多くの社員とその家族の人生を背負う存在だと、私は考えています。これからも「経営姿勢の確立」と「指針の成文化と全社的な実践」を通じて、社員を信頼できるパートナーとして捉え、より高い次元の経営を目指していきたいと思います。









