調査・研究・提言

2002年度愛知県の中小企業政策に関する私たちの提案

愛知県産業労働部との懇談~政策提案を中心に

愛知同友会は「中小企業政策に関する提案」について12月19日午後、ウイルあいちで愛知県産業労働部と懇談しました。「99同友会ビジョン」の第Ⅱの旗印に「地域社会とともに」を掲げる愛知同友会は、本年七月から地方自治体への中小企業の総合政策・提案づくりに取り組み、11月の理事会で確認し、「金融」「まちづくり」「モノづくり」の3つの柱立てで提案書を構成しました。

当日は愛知県産業労働部から産業労働総務課、中小企業金融課、商業流通課、新産業振興課、産業技術課から十二名が出席され、同友会からは佐々木会長、鋤柄代表理事など十名の役員・事務局が参加し、意見交換しました。経営の立場からの現状の問題点や協力依頼が、行政のサイドからはざっくばらんな回答が行われるなど、なごやな雰囲気の下、充実した意見交換がなされました。今回は総合政策づくりの第1回目として行われ、今後は個別テーマを深めていく継続勉強会を行いたいと思います。提案内容全文は以下です。

愛知中小企業家同友会 2001年12月

2002年度愛知県の中小企業政策に関する私たちの提案

第1章 はじめに

私たち愛知中小企業家同友会は1962年7月に47名の経営者で創立され、現在、愛知県下41の地区(基礎組織)で2250名の中小企業経営者が参加する異業種の経営者団体で、「経営体質の強化」「経営者の能力向上」「経営環境の改善」をめざすという「3つの目的」に基づき活動しています。
また全国44都道府県に同友会が組織され約4万名の中小企業の経営者が参加しており、全国協議会として「中小企業家同友会全国協議会」(略称:中同協)を組織しています。
中小企業は今、「産業の新しい担い手」(OECD1998年「産業政策の新たな指針」)、「21世紀のアメリカ経済の根本的存在・エンジンである」(アメリカ中小企業法・1997年改定)、「小企業は欧州経済の主柱である」(EU「小企業憲章」2000年)など、国際的にもその存在が見直されています。
また日本でも、一昨年成立した新中小企業基本法は中小企業の多様性などを旧法より高く評価し、「多様で活力ある中小企業の成長発展」を政策理念としており、また、中小企業政策審議会答申では、「地域経済発展の担い手」と中小企業を位置付けています。
当会でも一昨年四月に発表した「99同友会ビジョン」において、「自立型企業づくり」と「地域社会と共に歩む中小企業」という二つの長期的な目標を掲げました。前者では、独自の技術力・商品力や開発力を持ち、販売力やサービス力でも独自の得意技が発揮でき、そのための人材育成力が確実に蓄積されている企業としており、その目標に向かって経営努力を重ねています。
さて、中小企業は、時代がどんなに変化しても、国民の要望に応えた商品を生産し、流通とサービスを提供して地域社会の雇用を支え、地域経済の主人公としての位置にあります。大量の失業者が発生し、将来への不安から国民の消費生活が停滞し、商店街が歯抜けになって破壊されつづけても、この地域の生活の安定と繁栄を確保することは、私たち中小企業家に課せられた課題であると自負しています。
中小企業の廃業率が開業率を大きく上回っていますが、依然日本の事業所数の99%以上、従業者数の8割弱を占めている中小企業の活力が再生されない限り、日本経済、そして地域経済の再生はありえないと確信しています。
また上記の中小企業基本法では「地方公共団体は、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」(第6条地方公共団体の責務)とし、中小企業振興における自治体の独自の役割と責務をかつてなく強調しています。関係各位のご協力、ご支援と共同の行動を心から切望するものです。

第2章 中小企業や地域に優しい金融システムの構築を

自治体での金融施策を充実してください

(1)施策として

1.財政を地域活性化に有効に活用するためにも、制度融資、とくに今日の景況の中では、ベンチャー企業育成への融資に偏在するのではなく、つなぎ運転資金への制度融資を充実してください。また必要に応じて新設してください。
2.「金融アセスメント制度」を全国の自治体に先駆け実施し、金融機関の融資に関する事項((A)地域貢献度(B)中小企業貢献度(C)地域住民貢献度)や融資の手続きに関する事項((A)取引貢献度(B)資金供給安定度)を評価し、公表してください。

(2)信用保証について

1.昨年12月21日、通商産業省(当時)が出した「中小企業信用保険法」の運用通達の中であげられているように、「債務超過の場合」「過去の税金の滞納の場合」「直近3か月以内に既往債務の延滞履歴がある場合」等、実情に即して細やかな審査をしてください。また上記の通達の中でも述べられているように、特別保証制度に係わる既往債務の条件変更について返済期間の延長等を、個々の中小企業者の実情に即して行ってください。
2.信用保証協会や信用保険に対する財政補助を大幅に増額し、財政的基盤の充実を図ってください。
3.審査において物的担保優先主義に偏りがちな傾向を改めて、経営指針の確立、経営者の経営能力、企業の技術力、開発力、市場性、社風等を総合的に評価するシステムへの転換を率先して図ってください。
4.保証に際しては原則として第三者保証を求めないようにしてください。

第3章 「生きる、働く、暮らす」が一体となったまちづくり

ものづくりや製品の販売に従事する私たち中小企業家が、日々意欲的に自らの事業を展開していくのは、家族、社員の安定した生活のためでもあります。そんな私たちも、地域社会の中で日々の生活を展開しています。地域の人に支えられ、時として地域の人に働きかけています。それは、ひとえに豊に暮らしたい、安心して暮らしたいからです。
しかし、近年急速に居住地としての質の低下が懸念されはじめました。バイパスが走り、新興住宅地が整備されることで、かつて駅前ターミナルや中心商業地に集中していた大型店出店が、大店法改正後の90年代には、極端な郊外への出店により、都心部の空洞化が進みました。このことで、これまで地域経済の発展、地域コミュニティづくりに大きな役割をはたしてきた商店街の多くが存亡の危機にさらされ、地域の衰退が危惧されています。
さらに、若い世代は郊外へ、かつての中心市街地に住む人々はどんどん高齢化するなど「都市の空洞化」はますます深刻化しています。
こうした中、大規模小売店立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法の改正をあわせた、いわゆる「まちづくり三法」が登場し、まちづくりの権限は地方自治体に委譲されました。しかし、各地で展開されるTMOは全てが順調ではなく、破綻するまちづくり会社もあります。
真に豊なコミュニティづくりを進める上で、地域住民や我々中小企業家の積極的な参加はもちろんですが、改めて、地方自治体の果たす役割は重要になっているのではないでしょうか。
若い人も、高齢者も、中小企業家として働く私たちも、幼い子供達も一緒に生活し、その中から生み出し伝えていく豊かな文化ある「まち」。住まいと工場や商店街が有機的な関わりをもって、共に「生きる、働く、暮らす」厚みのある「まち」。
そんなまちづくりをすすめるため、全ての人々が常にまちの主人公であり続ける、そんなまちこそ私たち中小企業家は求めます。
今、安心して働き、地域に暮らすことが喜びとなるそんなまちの姿が危機に直面しているからこそ、私たちは自分たちの経営だけでなく、コミュニティづくりの追及を求めます。
そして、豊かなコミュニティの中で私たち中小企業経営者は、安心し、自信に満ちて地域経済の活性化のために、一層邁進できると確信しています。そのために以下の点を要望します。

(1)まちづくり政策は住民の意思決定で立案されるシステムの確立を

1.まちづくりの主体者は、その地域住民や地域の商工業者です。具体的な政策立案には、地域住民や中小企業など、地域の当事者から広く意見、要望を聞き入れる「まちづくり政策の公募システム」を確立してください。
2.上記のシステムにそって出された様々な意見を、具体的な政策立案へ導く「まちづくりのスペシャリスト」を、各地方自治体で育成し、専門機関として常設してください。

(2)住民主体となる「まちづくり会社」の早期立ち上げを可能にする条件整備

1.まちづくりは様々な人が関わることで、より具体的で積極的な取り組みになると考えます。まちづくり会社を設立する際には、様々な経営者団体、市民団体の代表を積極的に参画させるシステムを確立してください。
2.地域住民が自らまちづくりに積極的に関われる仕組みとして、「地域住民によるまちづくり会社の株主公募制度」を確立してください。
3.さらに、まちづくり株主を喚起する「まちづくり会社の情報公開システム」を確立してください。
4.まちづくり会社の理解を広め支援する市民講座を開設してください。
5.まちづくりのエネルギーとなる、地域住民主体のNPO活動、ボランティア活動の組織化支援策を充実してください。
6.また、これらの組織の情報交換、ネットワーク化を促進し、より活動が活発になる支援機能を確立してください。

(3)地域コミュニティの主体となる商店街活性

まちの治安、自治など、地域コミュニティの核として、商店街の果たす役割は大変重要であり、いわば商店街問題はまちそのものの問題であるといえます。そこで商店街がより活性化するための政策の充実を要望します。

1.各店舗の事業継承を支援する「後継者育成塾」を開催してください。
2.商店街は様々な店舗があってこそ魅力を増します。こうした、いわば不足業種を補う「商店主公募」「店舗の家賃補助」などの支援策を充実してください。
3.あわせて各個店の魅力を引き上げるため、複数の同一業種を意識的に配置し切磋琢磨する関係をつくりだすシステムを構築してください。いずれもこれらの政策立案には、商店主以外の住民参加で立案してください。

(4)大型店舗の出店および移転に関しては、地域の要望の反映を

1.大型店舗の出店、移転などについては地域住民や地元商工業者の意見を反映さえることが大切です。大規模小売店舗立地法のもと開かれる審議会には、住民、商工業者の代表者も加わった審議会となるよう、各自治体への指導をお願いします。
2.また、審議の結果、大型店舗の出店について見合わせるよう要望がまとまった際には「大型店舗の出店規制条例」を制定し、出店規制がかけられるよう、各自治体への指導をお願いします。

(5)すべての人にやさしいまちづくりの推進を

1.昨年5月に「高齢者・障害者移動円滑化法(交通バリアフリー法)」が可決・成立し、高齢者や身体障害者が交通機関を利用しやすくするため、関連設備の整備を促すことが義務付けられました。この法律の実行主体は、各地方自治体に委ねられています。これからますます進行する高齢化社会への対応、さらに障害者もふくめたすべての人にやさしいまちづくりの推進において、この法律が実行力のあるものとなるよう、各事業者への教育、指導の充実をお願いします。

第4章 あいちの「ものづくり」を元気にし、地域経済を活性化するために

大量生産型の大企業がコスト低減を求めて、アジアを中心とした海外に工場移転し、地元では大工場の閉鎖や撤退が進行したり、外国企業の格安部品が輸入されたりします。
それによって国内産業の空洞化が進行し、日本全国、特に愛知県下に広がる膨大な下請中小企業は海外進出に付いて行けるものと、行けないものに分けられて生死が問われます。今後さらに自動車産業の国際展開が進めば愛知県下に広がる下請中小企業は打撃的な状況になると考えられます。
私たち中小企業は、地域の雇用を支え、地域経済の活性化を推進する役割を果たせるよう努力をしていますが、行政サイドでも中小企業の支援策を強化することを要望します。

(1)やる気の中小企業を支援する施策の充実

1.東京都大田区や墨田区、東大阪市などの自治体がすでに取組んでいるように、当地の「工業集積の特徴」や、企業の「得意技」を他の地域や世界に「PR・情報発信」してください。また中小企業がネットワークを形成して共同受注できるように、行政の職員がコーディネイターとして活躍してください。
2.産業空洞化対策としては新規事業開発が決定的に重要です。しかし個々の中小企業が単独で新規事業開発に取り組むことには種々の困難が伴います。従って中小企業の「共同開発」を推進し、開発型のグループを育成、支援することを要望します。グループの育成に当たっては、中小企業の自主的・自覚的取り組みを重視し、研究開発や新製品開発には知恵や資金がまわるように制度を改善してください。

(2)技術の相談や蓄積に対応を

1.工業技術センター、繊維技術センター、窯業技術センター、食品工業技術センターなどの「公的試験研究機関」は地域に密着して、その地域の中小企業の現場の研究課題に対応できる窓口を開いてください。特に個別の中小企業にとっては使用頻度の少ない試験機械などの設備は、公的に整備してください。これらの要望は全てが整備されても「早く、安く、簡単な手続で使い易い状態をつくる」ものでなければ意味がありません。
また、近年活発に展開され始めている「産学連携」や「産官学連携」などのあり方について、大学研究機関が中小企業の現場の声に応えられるように、必要な指導援助を行ってください。
各種の公的試験研究機関は大学研究機関とも連携して、中小企業の現場の要望に応えられるようにシステム化してください。
2.図面の見方セミナー、営業力強化セミナー、企画開発セミナー、市場開発支援など、一般的に下請中小企業が弱点としているテーマについて特別の強化・継承策を講じてください。

(3)地域経済をさらに強化するために

1.いま中小企業が直面している経営危機に対応するために、一昨年の中小企業基本法改訂で新たに位置付けられた「愛知県中小企業支援センター」がより充実した中小企業支援を実施されることを要望します。
全国有数の生産基地である愛知県にとって、名古屋駅前の中小企業支援センターは、「ものづくり愛知」の象徴とも言える存在です。愛知県中小企業支援センターと県下七カ所のセンターが連携しあって「ものづくり愛知」の中小企業支援を強化してください。 センター機能の充実に当たっては、この地域の中小企業の要望を重視し、地域産業の育成発展や、中小企業の経営問題についての総合的な支援センターとして、技術開発、人材育成、ネットワーク化推進などあらゆる経営問題の相談に応えられる「内容の充実」に努力してください。
施策の充実に当たっては、県内の中小企業経営者が参加して「センター機能の充実」の構想や計画を検討する「中小企業支援センター審議会(仮称)」等を立ち上げて、市民参加型のセンター充実に取り組んでください。
2.これからの構造転換にどういう業種・企業が生き残れるか、中小企業は必死の研究・努力を重ねています。地方自治体はそのような中小企業を側面から支援する観点で次のような施策を講じることを要望します。
愛知県の持つ地域特性、産業集積の状況等について調査・分析・研究を行ってください。そのような調査・研究は長期にわたって継続して行ってください。また調査に当たっては、地方自治体の関係する全職員が参加する全企業調査を実施してください。
調査結果を踏まえ、産業・労働部門はどういう産業や技術・人材が集積しているかを研究し、中小企業が活躍して地域経済の再生・活性化を実現できる産業政策を構築してください。 これらの調査活動で大切な点は、行政が調査を下請機関に委託して、出てきたデータ―を数字的に活用するというやり方ではなく、行政の職員が積極的に、能動的に、中小企業問題に関わることです。従って行政の職員が中小企業の実態を自分たちの足と、目と耳を使って状況把握することを最も大切な点として要望します。

第5章 参考

私どもは、愛知同友会は全国四十四の同友会と共に「金融アセスメント法」制定をめざす全国百万名の請願署名を始め、国に対して下記を要望しています。

新しい金融システムの創造について

日本の金融システムを(A)金融機関の公共性を維持させ、(B)金融機関と借り手の取引慣行の歪みを是正し、(C)現行の裁量型金融行政を利用者参加型金融行政に転換させる。そのために、「円滑な資金需給」「利用者利便」「経営の健全性」の三つの視点から必要な情報を収集して金融機関の活動を評価することを監督官庁に義務づけ、さらにその評価と判断理由をインターネット等利用者が入手しやすい形で公開することを義務づける「金融アセスメント制度」を早期に法制化してください。