第3回愛知県産業労働部との懇談会
2003年12月17日
愛知同友会では「中小企業政策に関する提案」を中心に、12月17日、愛知県産業労働部との懇談会が、鶴舞の勤労会館で行われました。この提案は、私たち中小企業の活力が再生されない限り、日本経済、そして地域経済の再生はないとの認識でまとめられたもので、「金融」「まちづくり」「モノづくり」「人関係」の4つの柱立からなるものです。当日は愛知県産業労働部から伊藤憲保中小企業金融課主幹を始め12名が、同友会からは佐々木会長、広瀬副会長など10名の役員・事務局が参加し、経営の立場からの現状の問題点や協力依頼が行なわれました。行政サイドからは丁寧な回答が行われるなど、終始和やかな雰囲気の下、意見交換がなされました。私たちの提案全文は以下です。
(1)産業労働総務課 | 主査 | 小島裕司氏 |
(2)商業流通課 | 課長補佐 | 石垣憲一氏 |
課長補佐 | 村瀬幸正氏 | |
主任主査 | 木村秀男氏 | |
(3)新産業振興課 | 課長補佐 | 松村益利氏 |
課長補佐 | 河原善高氏 | |
主任主査 | 小林留春氏 | |
(4)産業技術課 | 主任主査 | 清水幹良氏 |
(5)中小企業金融課 | 主幹 | 伊藤憲保氏 |
主任主査 | 進士研三氏 | |
主査 | 橋本礼子氏 | |
主事 | 宮潔氏 |
会長 | 佐々木正喜 |
副会長 | 広瀬嘉人 |
副代表理事 | 高岡正昭 |
理事 | 鈴木孝典 |
理事 | 加藤昌之 |
政策委員長 | 吉岡昌成 |
技術開発委員長 | 若原誠一 |
事務局長 | 福島敏司 |
事務局次長 | 内輪博之 |
事務局次長 | 多田直之 |
2004年度愛知県の中小企業政策に関する提案
2003年11月
(目次)
第1章はじめに
第2章中小企業や地域に優しい金融システムの構築を
(1)当面の課題として
(2)新しい金融システムの創造について
(3)施策として
(4)信用保証について
(5)税制に関して
第3章自立コミュニティによるまちづくり
(1)TMOの計画段階から多くの市民の主体的参加を
(2)まちづくり会社を機能させるためにより多くの市民の参加を
(3)地域コミュニティの主体となる商店街活性
(4)まちづくりと商店街活動の調和
(5)すべての人にやさしい街づくりの推進を
(6)⑥まちづくり条例の推進を
第4章あいちの「ものづくり」を元気にし、地域経済を活性化するために
(1)意欲ある中小企業を支援する施策の充実
(2)技術の革新・育成保護と次世代への伝承
(3)助成金制度について
(4)地域経済をさらに強化するために
第5章 ひとに関する提案
(1)教育現場への経営者団体の参画
(2)豊かな人間教育時間確保のためにも、学生の就職活動に対する新しいルール
(3)高等学校卒業生の就職活性化のために
(4)地域企業として障害者雇用について
(5)高齢者の持つ知識、技能を継承するための支援策の制度化を要望します。
第5章さいごに
第1章 はじめに
私たち愛知中小企業家同友会は1962年7月に47名の経営者で創立され、現在、愛知県下42の地区(基礎組織)で約2400名の中小企業経営者が参加する異業種の経営者団体です。「経営体質の強化」「経営者の能力向上」「経営環境の改善」をめざすという「3つの目的」に基づき活動しています。また全国45都道府県に同友会が組織され、約3万7千名の中小企業の経営者が参加しており、全国協議会として「中小企業家同友会全国協議会」(略称:中同協)を組織しています。
さて当会の5月末景況調査によると「景況は『踊り場』を経て、下降局面へと突入する可能性が高まっている」としています。その要因として、「米国経済の不安定性」と「りそな銀行破綻の影響」による地域金融機関の9月決算期に向けた貸出資産の圧縮を上げており、今後、さらに資金繰りの面から中小企業の業況の下降圧力が加わるという事態が再発しかねない状況です。
これに対し、私達同友会では、地域経済にやさしい望ましい金融システムである「金融アセスメント法」の制定をめざし、全国署名が今年2月には101万名(愛知13万)を越え、「金融アセスメント法」の早期制定の意見書が全国22都道府県657議会(県内では愛知県、名古屋市を始め39議会)であげられています。
一方、当会では創立40周年事業の一環として、昨年9月4日~11日の8日間、愛知県中小企業研究財団との共催で「欧州中小企業政策視察団」を派遣、23名の視察団がオランダ、ベルギーの2カ国を訪問し、「OECDボローニャ憲章」と「EUヨーロッパ小企業憲章」という2つの「中小企業憲章」が2000年にヨーロッパで採択されたことに伴う中小企業政策の変化を現地で調査しました。このことを受けたかたちで、中同協の2004年度への政策要望では、国に対して中小企業を経済発展と雇用の主役として位置付け、中小企業政策を産業政策における補完的役割から脱皮し、中小企業重視へと抜本的に転換することをめざし、日本独自の「中小企業憲章」を制定することをもとめています。
さて、現行の中小企業基本法では、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」(第6条・地方公共団体の責務)と謳っており、中小企業振興における自治体の独自の役割と責務をかつてなく強調しています。上記「憲章」の主旨を地方公共団体にも徹底するため、「中小企業振興基本条例」の制定を求めていきたいと考えます。
その意味でも当面、行政の審議会等に広く中小企業団体の代表を加えその声を聞くなどの制度的な保障が必要だと考えており、今後、ご検討いただけるようお願いする次第です。
第2章 中小企業や地域に優しい金融システムの構築を
金融問題では地方自治体である愛知県だけの力では、限界があることは事実だと思いますが、しかし、厳しい経営環境の中で、愛知県独自の金融行政の役割は一層重要になっていると考えます。また今年3月に金融調査会の報告書では、大手金融機関と地域金融機関の役割に違いを認め、「リレーションシップ・バンキング」という考え方を提起しており、このような考え方に従った金融行政を行っていただけるようお願いする次第です。
(1)当面の課題として(政府に下記の件を要望してください)
- 昨年6月、「金融検査マニュアル」の「中小企業融資編」が作成されたとは言え、まだまだこの金融検査マニュアルは人為的に金融システムを不安定化させています。中小企業向け融資の場合には、金融庁は中小企業の実情に沿った別の基準の「マニュアル」を速やかに作成するように働きかけてください。
このことは、上記「リレーションシップ・バンキング」の考え方に沿っています。 - 2001年3月まで実施された「特別信用保証制度」の一部を変更し、これまでに返済した金額の範囲内で当該企業への再融資を認める制度を創設してください。またその場合、返済金額分に関しては、長期保証としてください。
- 一旦は順延されたとはいえ、ペイオフ解禁が2005年4月から予定されていますが、実行猶予措置をとるよう関係諸機関に働きかけてください。
- 今年4月より、保証料率が0.3%引き上げられましたが、低金利の中、一般保証料率を1.3%とすることは保証料の負担感を突出させています。引上げをやめ、むしろ保証料免除措置の導入してください。また、連帯保証人の要らない制度融資の拡充を進めてください。
- 今年2月から実施された「資金繰り円滑化借換保証制度」は公的制度として中小企業の資金繰りを改善するものすが、条件変更を一律に条件緩和債権扱いにしない措置をとるよう金融機関を指導ください。
- 中小企業創造活動促進法や中小企業経営革新法に基づく許可、承認を得た企業に対する制度融資に関して、従来型の審査ではなく、計画の内容を適切に評価した制度運用を行ってください。
- 中小企業が倒産した場合、個人の最低限の財産保障と再起できる条件を整備するため、破産法の改正など個人保証の有限責任化を進めてください。また、経営者が倒産した際に家族との生活を維持し、再起ができるための共済制度などの創設してください。
- 中小企業の不良債権処理での金融機関の一方的な整理回収機構(RCC)送りによる倒産を防止するため、当該企業の債務が信用保証付融資の場合、債務者の意向を尊重し、企業と金融機関、信用保証協会の三者の協議によって対処する措置を講じてください。
(2)新しい金融システムの創造について
- 日本の金融システムを(A)金融機関の公共性を維持させ、(B)金融機関と借り手の取引慣行の歪みを是正し、(C)現行の裁量型金融行政を利用者参加型金融行政に転換させる。そのために、「円滑な資金需給」「利用者利便」「経営の健全性」の3つの視点から必要な情報を収集して金融機関の活動を評価することを監督官庁に義務づけ、さらにその評価と判断理由をインターネット等利用者が入手しやすい形で公開することを義務づける「金融アセスメント法」制定を関係諸機関に働きかけてください。
(3)施策として(自治体での金融施策を充実してください)
- 財政を地域活性化に有効に活用するためにも、制度融資、とくに今日の景況の中では、ベンチャー企業育成への融資に偏在するのではなく、つなぎ運転資金への制度融資を充実してください。また必要に応じて新設してください。
- 地域の金融機関がその営業地域と中小企業にどのような影響を与えているかの視点(「地域への円滑な資金供給」「利用者利便」等)から公的機関が評価・情報公開する金融アセスメント条例を制定してください。地域産業振興とそのための豊かな地域資金循環を生み出すことは、憲法の「地方自治の本旨」と改正地方自治法からみても自治体の責務となっており、その主旨から金融アセスメント条例の制定も可能であると考えます。
- 当面、現行システムの中で上記のような考え方にしたがって、県の指定金融機関を判断し、情報公開するような行政システムをつくってください。
- 企業家と金融機関の融資上の取引トラブルを調停あっせんする緊急の窓口・機関を設置し、寄せられた情報の公開と相談案件の仲介機能を持つようにしてください。
(4)信用保証について
- 信用保証協会や信用保険に対する財政補助を大幅に増額し、財政的基盤の充実を図ってください。
- 審査において物的担保優先主義に偏りがちな傾向を改めて、経営指針の確立、経営者の経営能力、企業の技術力、開発力、市場性、社風等を総合的に評価するシステムへの転換を率先して図ってください。
- 保証に際しては原則として第三者保証を求めないようにしてください。
- 今年2月から実施された「資金繰り円滑化借換保証制度」は公的制度として中小企業の資金繰りを改善するものですが、条件変更を一律に条件緩和債権扱いにしない措置をとるよう金融機関を指導ください。また、指定業種の枠を広げてください。
(5)税制に関して
私たちは、中小企業の負担能力を適切に反映した応能負担を実現し、市場創造と日本経済の再活性化をバックアップする税制を実現すべきだと考えます。今、長引く不況の中で、「外形標準課税」等でさらに税負担を強いることは中小企業の死活問題ともなりますので、以下のことをお願いする次第です。
- 外形標準課税は人件費比率が比較的高い中小企業ほど負担が大きく、さらに不況下で赤字経営を余儀なくされている企業にも課税されることになります。税負担能力がないところへの課税は、倒産や滞納の拡大につながるなど、社会的歪みが生じるばかりでなく、日本経済の活力削減につながります。外形標準課税の導入は中止するよう関係諸機関に働きかけてください。
- 消費が低迷している中、何らかの形で消費税の減税を求める声は根強くあります。消費税3%から5%の引き上げによって景況に大きなダメージを与えたように、今後とも行わないよう関係諸機関に働きかけてください。また、県税分1%のアップを求めないでください。
- 私たちは国税の一部を地方税に回す財源委譲措置が適切であると考えており、地方分権によって地域経済の活力を地域の中から築いていくことができるように、権限委譲に比べて遅れている財源委譲を速やかに実施するよう関係諸機関に働きかけられるよう要望します。
第3章 自立コミュニティによるまちづくり
地域づくりの基本は、その地域に根づいた社会的生産基盤を維持し発展させることでなければならないと考えます。これを実行することは国家には不可能であり、自治体あるいはコミュニティにこそその役割があります。まちづくりにとって最も大切なことは、人々が安心して住み続けることの出来る安定したコミュニティを築くということです。
ところが今、安心して働き、地域に暮らすことが喜びとなる、そんなまちの姿が危機に直面しています。中小企業にとって、新しい技術を担う優秀な人材を確保するためにも、アメニティ豊かな優れた居住環境を築くことが不可欠です。 私たち中小企業は、地域に根ざし、地域の住民をつなぐコミュニティのつなぎ目の存在です。
私ども愛知中小企業家同友会の会員企業2367社(2003年8月1日現在)と、社員、家族174,808名(総従業員数×所帯平均2.68名)は、住民組織の担い手として地域コミュニティ再生の活動に力を注ぐ重要性を認識しています。
まちづくりの担い手としての私たちは、愛知同友会として「99同友会ビジョン」を掲げ、学びと実践を積み上げてきました。(別紙資料参照) だからこそ、私たちは自分達の経営だけでなく、コミュニティの中で、安心し、自信に満ちて地域経済の活性化のために、一層邁進できると確信しています。そのために以下の点を要望します。
(1)TMOの計画段階から多くの市民の主体的参加を
- まちづくりの主体者は、その地域住民や地域の商工業者です。現在、TMOとなりうる主体は、商工会、商工会議所、第3セクター特定会社第3セクター公益法人の4種類に定められていますが、具体的な政策立案には、地域住民や中小企業など、地域の当事者から広く意見、要望を聞き入れる「まちづくり政策の公募システム」を確立してください。
- 上記のシステムにそって出された様々な意見を、具体的な政策立案へ導く「まちづくりのスペシャリスト」を、随時派遣ではなく、各地方自治体で育成し、専門機関として常設してください。
- 愛知県は、全国の都道府県のなかで、多くの基本計画の策定がなされています。既に計画策定が終わっている市町村についてはこの段階での検証を、これから計画を始める市町村には、これまでの検証結果を生かすとともに、より多くの市民の主体的参加を促されるよう要望します。
(2)まちづくり会社を機能させるためにより多くの市民の参加を
- まちづくりは様々な人が関わることで、より具体的で積極的な取り組みになると考えます。まちづくり会社をはじめ、TMOの実行組織を設立する際には、様々な経営者団体、市民団体の代表を積極的に参画させるシステムを確立して下さい。
- 地域住民が自らまちづくりに積極的に関われる仕組みとして、例えば、まちづくり会社の株主構成を拡大して下さい。「地域住民によるまちづくり会社の株主公募制度」を確立してください。
- さらに、住民のまちづくりへの関心を喚起する「まちづくりの情報公開システム」を確立してください。
- TMO実行組織をより実行力のあるものとするため、その経営内容を指導する監査機能を確立してください。
- まちづくりの理解を広め支援する市民講座を開設してください。
- まちづくりのエネルギーとなる、地域住民主体のNPO活動、ボランティア活動の組織化支援策を充実してください。
- また、これらの組織の情報交換、ネットワーク化を促進し、より活動が活発になる支援機能を確立してください。
(3)地域コミュニティの主体となる商店街活性
まちの治安、自治など、地域コミュニティの核として、商店街の果たす役割は大変重要であり、いわば商店街問題はまちそのものの問題であるといえます。そこで商店街がより活性化するため、以下の各個店の魅力強化を行う政策の充実を要望します。
- 各店舗の事業継承を支援する「後継者育成塾」を開催してください。
- 後継者育成の一環として、地域の小学校、中学校、高校、大学などと連携し、商店街、各商店の企業見学、実習、職業訓練などを行い「働くことの大切さ」「身近な商店街の魅力」が実感できる制度を確立してください。
- 商店街は様々な店舗があってこそ魅力を増します。商店街のいわば不足業種を補う「商店主公募」「店舗の家賃補助」などの支援策を充実してください。
- あわせて各個店の魅力を引き上げるため、複数の同一業種を意識的に配置し切磋琢磨する関係をつくりだすシステムを構築してください。いずれもこれらの政策立案には、商店主以外の住民参加で立案してください。
(4)まちづくりと商店街活動の調和
少子高齢化社会にとっては、地域のなかを歩いて、あるいは公共の交通手段によって容易に買い物が出来る商店街の存在は重要です。まちづくりを考える際、地域コミュニティの核として商店街形成を考えることが大切です。従来の商店街活性化だけの視点だけでなく商業の活性化は、まちの活性化であるとの認識で取り組んでください。そのためにも、ある程度の広域的な地域の中で、商業者だけでなく地域住民、行政、福祉関係者などの参加による新たなまちづくりが必要と考えます。広域的商業活動に対応した新たな組織や活動領域の枠組みづくりにおいて、推進プロデユーサーの役割の一端を担う行政が、まちのビジョンや計画の実現に向けて実行できるだけのマネジメント力を高めることが期待されます。
(5)すべての人にやさしい街づくりの推進を
- 「高齢者・障害者移動円滑化法(交通バリアフリー法)」が可決・成立し、高齢者や身体障害者が交通機関を利用しやすくするため、関連設備の整備を促すことが義務付けられました。この法律の実行主体は、各地方自治体に委ねられています。これからますます進行する高齢化社会への対応、さらに障害者もふくめたすべての人にやさしいまちづくりの推進において、この法律が実行力のあるものとなるよう、各事業者への教育、指導の充実をお願いします。
- 生活道路の確保とコミュニティの再生
基盤整備の名のもとに道路は広くなり、まちはきれいになってきました。車にとって便利のよい道路は、生活者にとっては必ずしも良いわけではありません。特に高齢者や障害者に対してはそのことが顕著に表れます。車中心の道路と生活者中心の道路の区分を考えた道路の線引きをお願いします。また、区画整理など、まちが美しくなるにつれて、路地という生活道路、長年培ってきたコミュニティが失われてきました。生活道路を中心としたコミュニティ再生地区の創出をお願いします。
(6)まちづくり条例の推進を
そこに生まれ育った人も、現に住んでいる人も、これから越してくる人も、誇りの持てる、住みやすいまちは多くの人の願いです。どんなまちにしていくのかを、多くの人の合意形成をへて考えるまちづくり基本条例にすることが必要と考えます。また、規制緩和の名の元に、地域の実情を無視した開発が目に付きます。元来、開発行為は地域の実情を考慮して行われてこそ安全や住みやすさが保障され、結果としてコスト削減になります。
多くの市民の声を聞き、さらに熟成させ、ルール(社会的規制)を作る必要があります。まちづくり条例の推進をお願いします。
第4章 あいちの「ものづくり」を元気にし、地域経済を活性化するために
長引く不況と大企業の海外展開による工場移転や撤退閉鎖、同時に、外国企業の格安部品の輸入増加で、国内製造業の空洞化が進行しています。自動車産業の国際展開が進めば、今後さらに愛知県下に広がる下請中小企業は打撃的な状況になると考えられます。
私たち中小企業家は、この愛知で生まれ育ち、暮らし、子供たちを育て、そして顧客に喜ばれ必要とされる仕事を求め、日々企業革新の努力を行っています。この愛知の地域を愛し、大切に思い、次世代へ夢のある暮らしや地域社会を創りたいと願い行動している地域構成員です。愛知の地域産業の特色は、自動車関連をはじめとした多数の下請中小製造業郡の存在です。そして日本の国際競争力の下支えを、この地元の中小企業が担っているという誇りと自覚を持っています。 大企業が拠点を海外に移すことによる空洞化の影響をできるだけ和らげ、新しいものづくりや産業を興し、地域経済を活性化させることが重要だと考えます。中小企業をこれら取り組みの核と位置付けて、私たち中小企業が、地域の雇用を支え、地域経済の活性化を推進する役割を果たせるよう、中小企業重視の政策スタンスをとってくださるようお願いします。
(1)意欲ある中小企業を支援する施策の充実
- 東京都大田区や墨田区、東大阪市などの自治体がすでに取り組んでいるように、当地の「工業集積の特徴」や、中小製造業の「得意技」を他の地域や世界に「PR・情報発信」するシステムをつくってください。
- 産業空洞化対策としては新規事業開発が決定的に重要です。中小企業が単独で新規事業開発に取り組むことには種々の困難が伴います。従って中小企業の「共同開発」を推進し、開発グループを育成、支援してください。これには、ベンチャー以外の中小企業もネットワークを形成して共同受注できるように、行政の職員がコーディネータ(支援策として設置)として活躍してください。グループの育成に当たっては、中小企業の自主的・自覚的取り組みをを重視してください。
- 愛知県域の中小製造業は高い技術・ノウハウを持ちながも、受注型企業が多いのが特徴です。新規事業開発の推進にあたっては、特にマーケティング面(市場性・ニーズ・価格・販売ルート開拓等)でのアドバイス制度やコーディネータの設置などの支援策を充実させてください。
(2)技術の革新・育成保護と次世代への伝承
- 公的試験研究機関は地域に密着して、その地域での中小企業の現場の研究課題に対応できる窓口を開いてください。特に個別の中小企業にとっては使用頻度の少ない試験機械などの設備は、公的に整備し、「早い結果、安く、簡単な手続」で使い易い状態を作ってください。また、近年活発に展開され始めている「産学連携」や「産官学連携」などのあり方について、大学研究機関が中小企業の現場の声に応えられるように、必要な指導援助を行ってください。各種の公的試験研究機関は大学研究機関とも連携して、中小企業の現場の要望に応えられるようにシステム化してください。
- 図面の見方セミナー、営業力強化セミナー、企画開発セミナー、市場開発支援など、一般的に下請中小企業が弱点としているテーマについて特別の強化・継承策を講じてください。
- 金型図面等不正流出に関する問題が浮上しています。また親会社からの要請で、アジア諸国等への技術指導者派遣が非常な廉価で行われたり、研修生受入によって全ての仕事が海外に出て倒産したという事態も起きています。下請中小企業は、仕事が激減している状況と親会社との個別関係によって断れない状況にあり、技術・特許取得などの知的財産の領域においても親会社との関係で厳しい立場に置かれています。中小企業が長年に亘って培ってきた技術・ノウハウの適正評価や管理保護への対応策を早急にとってください。また、知的財産保護育成策についても、生産拠点を海外に移すことのできない地元中小企業への支援助成を重視してください。
- 中小企業の高い技術力・品質や技術革新を支えているのは、現場の熟練技能者とそのOJTによる教育と伝承です。一方、労働法や年金・退職金制度の改変および社会風潮や教育のあり方などにより雇用の流動化がすすめられています。また、デフレやコストダウンによる財務体力の低下から採用・教育・定着の計画が困難になり、技術伝承や設備革新が行えないという危うい状況もあり、愛知全体の地域競争力の弱体化が懸念されるところです。熟練技能者を評価したり、地域に潜在している優秀な技能者を活用した高度専門技術訓練セミナー等の支援制度、また次世代へ希望を持って技術伝承が行える地域環境づくりや対応策を行ってください。支援制度にあたっては、中小製造業現場からの要望をよく把握するようにしてください。
(3)助成金制度について
- 複数年度にわたる助成金のシステムの創設をお願いします。また金額も現状より一回り充実した額に引き上げてください。
- 提出書類の簡素化をお願いします。また助成事業の一部として、県から委託されたアドバイザー制度を設け、これら専門家が対象企業を定期的に訪問し、技術的な支援とあわせて適切な対象経費の処理をしているか観察・助言を行うなどの方法をとってください。
- 補助金交付書を提出後、進行と同時に経費予算、資金使途に変更が生じることも多いので、計画変更に柔軟な対応をとってください。
- 製品は生み出されて以降、消費者ニーズ等によって改良・工夫が付け加えられていきます。この分野でも助成金の対象に入れてください。
- 助成金を有効かつ的確に活用する為に審査機関を設けてください。技術や新規性のみならず市場性も判断できるよう、学者や有識者以外に中小企業の代表をこの機関のメンバーとしてください。
- 中小企業経営革新支援法に関して、この革新法の認定を受けたら、各助成制度が受けやすく、実効性がよりあるものにしてください。
- 各助成金の利用において、希望が殺到するものとそうでないものがあります。希望者が殺到して他の助成金が余っている場合には、余った助成金を希望者が殺到した助成金に転用するようにしてください。
(4)地域経済をさらに強化するために
- いま中小企業が直面している経営危機に対応するために、中小企業基本法改訂で位置付けられた「愛知県中小企業支援センター」がより充実した中小企業支援を実施されることを要望します。全国有数の生産基地である愛知県にとって、名古屋駅前の中小企業支援センターは、「ものづくり愛知」の象徴とも言える存在です。愛知県中小企業支援センターと県下7ヶ所のセンターが連携しあって「ものづくり愛知」の中小企業支援を強化してください。センター機能の充実に当たっては、この地域の中小企業の要望を重視し、地域産業の育成発展や、中小企業の経営問題についての総合的な支援センターとして、技術開発、人材育成、ネットワーク化推進などあらゆる経営問題の相談に応えられる「内容の充実」に努力してください。施策の充実に当たっては、県内の中小企業経営者が参加して「センター機能の充実」の構想や計画を検討する「中小企業支援センター審議会(仮称)」等を立ち上げて、市民参加型のセンター充実に取り組んでください。
- これからの構造転換にどういう業種・企業が生き残れるか、中小企業は必死の研究・努力を重ねています。そのような中小企業を支援する観点で次のような施策を講じてください。愛知県の持つ地域特性、産業集積の状況等について調査・分析・研究を行ってください。調査・研究は長期にわたって継続して行ってください。また調査に当たっては、地方自治体の関係する全職員が参加する全企業調査を実施してください。調査結果を踏まえ、産業・労働部門はどういう産業や技術・人材が集積しているかを研究し、中小企業が活躍して地域経済の再生・活性化を実現できる産業政策を構築してください。これらの調査活動で大切な点は、行政が調査を下請機関に委託して、出てきたデータ―を数字的に活用するというやり方ではなく、行政の職員が積極的に、能動的に、中小企業問題に関わることです。従って行政の職員が中小企業の実態を自分たちの足と、目と耳を使って状況把握することを最も大切な点として要望します。
第5章 ひとに関する提案
私たち中小企業家同友会は雇用関係について「人間尊重の経営」を基本に「労使関係の見解」という形にまとめ「経営者の使命と社会的責任」「対等な労使関係」等中小企業の諸課題を労使共に育ち学び合う「共育」と言う考え方で取り組んでいます。これからも人を育て、企業経営の充実と地域の発展に貢献して行きたいと考えております。地域経済の発展の基礎になるものの一つに地域雇用の充実は不可欠であるとの視点から地域の青少年に「仕事を通じ、自己の価値を発見し、成長し、存在価値の確立しさらに、成長する」「感性豊かな、他人の喜びと悲しみの解りあえる」そんな人づくりが望まれます。以上の観点から、採用と教育について次のことを要望いたします。
(1)教育現場への経営者団体の参画
人間の成長と労働の価値、他人への役立ちと喜び、成長の厳しさ、生きることと働くこと等々、企業市民としての語り部を教育現場に参画させ、学校と共に地域の人づくりに貢献できる環境を整備してください。
(2)豊かな人間教育時間確保のためにも、学生の就職活動に対する新しいルール
現在の学校教育現場(大学、短大、専門)において、定められた4年間もしくは2年間真っ当な教育機会が与えられず、最終学年の大半は就職活動に費やされ本来の学ぶ機会が与えられていない実情から、企業における求人活動に「就職協定」の復活もしくはそれにかわる新たなルールの創設を要望いたします。
(3)高等学校卒業生の就職活性化のために
学校の進路指導と実社会の段差、きわめて少ない情報のなかから社会生活の選択を迫られている進路指導、その結果、就業して短期間の内に離職、失業状態となっていく、若者に働く夢と希望を持って巣立つためにも段差を極力少なくする必要を感じます。そのためにも
A.地域企業体験学習の制度化 B.合同企業説明会の開催
C.企業訪問の制度化 D.複数企業受験、内定辞退禁止規定の見直し
等の検討をしてください。
(4)地域企業として障害者雇用について
ハンディを持つ障害者と共生できる充実した社会を目指し、自分を試す機会を与え、能力に応じた職業につき、生きがいと働き甲斐のある雇用に機会を提供するためにもつぎの要望をいたします。
A.雇用時の形態(行政機関経由雇用、直接雇用)によって被助成に差異の無い様に制度の見直しを要望します。
B.障害者雇用手続きの簡素化を要望します。
C.雇用実態と社会情勢に柔軟に適合出来るよう制度の見直しを要望します。
(5)高齢者の持つ知識、技能を継承するための支援策の制度化を要望します。
第6章 さいごに
同友会は「はじめに」で述べた「3つの目的」「国民や地域と共に」「自主・民主・連帯」の3つを総称し、同友会理念と表現しています。この提案の作成に当たっては、前2者の視点を踏まえ、「自主・民主・連帯」の精神で、愛知同友会会員2400名の意見を聞き、提案としてまいりました。
中小企業は、時代がどんなに変化しても、国民の要望に応えた商品を生産し、流通とサービスを提供して地域社会の雇用を支える位置にあり、地域の生活の安定と繁栄を確保することは、私たち中小企業家に課せられた課題です。
現在、中小企業の廃業率が開業率を大きく上回っていますが、依然日本の事業所数の99%以上、従業者数の8割弱を占めています。中小企業の活力が再生されない限り、日本経済、そして地域経済の再生はありえません。今後とも、地域の中小企業振興における行政の皆様のご支援、そして共同の行動を心から切望するものです。