調査・研究・提言

各政党への愛知同友会からの質問状に対する回答(2021年10月衆議院選挙)

愛知同友会の高瀬喜照会長名で各政党(政党要件を満たし、かつ愛知県内に県連等の本部機能を持つ政党)に対して公開質問状を提出し、以下の回答をいただきました。

  1. 明らかな誤植については、修正の上掲載しています。
  2. 質問については各400字以内でお願いしました。到着順に上段より掲載しています。
  3. 社会民主党愛知県連合からは、残念ながら期限までに回答を頂くことはできませんでした。ご了承ください。

質問趣旨

新型コロナウイルス感染症が世界的に再拡大局面に入るなか、国内外ともに先行きの不透明さが増しています。度重なる感染症の拡大により、国内消費は回復せず、小売業などの状況は極めて厳しいものです。他方、先進国を中心としたワクチン接種の広がりにより、コロナ禍の出口が見え始めたことで、昨年来抑制してきた生産を巻き返す動きも始まりつつあります。その結果が、原材料の不足感と価格上昇の世界的発生です。愛知県の中小企業にとっても、重い足かせとなっています。

地域経済が危機的状況に立たされている中、その根幹を支える中小企業の直面する困難は国民経済の落ち込みと疲弊に直結し、国力の減退に拍車をかけることになります。こうしたなかで地域の雇用を守り安定させ、疲弊する地域経済を再生するには、事業所数の99%、雇用の70%を占める地域の中小企業・小規模事業者へ、より実効性ある政策展開が不可欠です。

当会は日本経済における中小企業の役割を正当に評価し、豊かな国づくりに向けた諸政策の柱に中小企業を位置付ける「中小企業憲章」と、各自治体での「中小企業振興基本条例」の制定を提案するとともに、これらの具体的実行、内容の実現を求めています。以上の趣旨を踏まえ、以下のご質問をさせていただきます。ご多忙の中恐縮ですが、ご回答をお願い申し上げます。

質問事項と事項別回答PDF

質問事項タイトルをクリックすると、その質問への各党の回答(PDF)が表示されます。

(1)適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入に関する貴党のお考えをお聞かせ下さい。

2023年10月より仕入税額控除の要件として、適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス方式の導入が予定されています。この導入をめぐっては、中小零細企業の事務負担の一層の増加、流通の混乱、国民経済の停滞などの懸念が各方面より表明されています。たとえば、(1)免税事業者はインボイスを発行できませんが、インボイスなしに仕入税額控除はできないことから、消費税の課税事業者は、インボイスを発行できない免税事業者との取引回避や取引価格の値下げ要求に動きかねないこと、(2)経過処置として2023年10月から2026年までの3年間は、免税事業者からの仕入れの80%を控除可能としていますが、20%分は免税事業者の負担、もしくは課税事業者の負担、あるいは取引自体を行わないという選択を迫られることとなり、廃業や免税事業者の取引排除が多数発生する懸念などです。

日本税理士連合会が指摘しているように、現状の帳簿方式(アカウント方式)で仕入税額控除は十分に機能しています。専門家が複数税率であっても現行の請求書等の記載事項の変更により十分対応できると判断しているにも関わらず、免税事業者の消費税負担を生み、事業者全体に事務負担をいたずらに増大させる制度変更は、経済活力の減退と混乱を招く以上の成果を生むとは考えられません。したがって、当会としてはインボイス方式の導入は撤回すべきと考えています。貴党のお考えをお聞かせ下さい。

(2)中小企業の統廃合による生産性向上、GDP拡大を実現するとした政策見解に対する貴党のお考えをお聞かせ下さい。

「成長戦略実行計画」(2021年6月)では、「中小企業の成長を通じた労働生産性の向上」の大きな手段としてM&Aの積極的な実施が明記されています。また同実行計画からは「開業」の文言が消えた一方で、「中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインの策定」へ言及がなされるなど、中小企業の吸収・合併と廃業・整理を進めるとも読み取れます。これは、コロナ危機により傷ついた中小企業を幅広く支え回復軌道に乗せていくのではなく、一部識者の主張する「中小企業再編論(中小企業の低生産性の原因はその規模にあり、規模拡大が見込めない小規模企業は退出すべきとする理論)」に依拠した政策見解と言わざるを得ません。

この見解の依拠する日本の低生産性の要因を中小企業の量に求める主張は、すでに多くの研究者によって理論的誤りが指摘されています。その大要は、(1)日本の中小企業数は、他の先進国と比較しても人口比では多くはない、(2)中小企業の多寡と一国経済の「生産性」の高低には因果関係はない、(3)歴史的に見れば、中小企業の量的拡大と生産性向上は正の関係にあった、との三点に要約できます。したがって、同実行計画は理論的に誤った認識の下で策定されたものと考えます。中小企業の現実は、日本の中小企業の実質労働生産性(物的労働生産性)は世界でもトップクラスであるにも関わらず、名目の労働生産性は伸び悩んでいるというものです。つまり一国レベルでの生産性向上、GDP拡大の前提は、中小企業を再編することではなく、市場環境における不公正な取引条件(しわ寄せ、低工賃での取引)の是正を徹底して進めることをおいて他にないと当会では考えています。貴党のお考えをお聞かせ下さい。

(3)中小企業の発展と、最低賃金引き上げを両立させる具体的政策対応をお聞かせ下さい。

中央最低賃金審議会は、2021年度の最低賃金を前年度比3.1%(28円)とする引き上げ目安を示しました。最低賃金の上昇は、国民生活の向上に寄与し、内需拡大、経済の活性化において歓迎すべきことと理解しています。しかし、新型コロナウイルスの流行による経済社会活動の制約が継続している中で、業種によっては対応が困難となる中小企業が多数生み出される可能性もあります。中小企業の自律的賃上げを可能とする環境整備を進める政策展開なしに、最低賃金の急激な引き上げを持続させることで、結果として企業が雇用を縮減させることとなれば、最低賃金上昇による正の効果を相殺、あるいはそれを上回る負の効果を生みかねません。中小企業の発展とより豊かな国民生活を実現するための最低賃金引き上げを両立させる具体的方策について、貴党のお考えをお聞かせ下さい。

(4)コロナ危機下での中小企業の過度な債務膨張に関する具体的政策対応をお聞かせ下さい。

コロナ危機下での緊急制度融資は、多くの中小企業に急場を凌ぐ猶予を与えることに寄与しました。今後は、この膨張した債務の返済と企業体力の回復の両立が求められます。しかし中小企業をめぐる経営環境は依然厳しく、手立てを講じなければ行き詰まる企業が今後多数生み出されることが危惧されます。中小企業のコロナ危機からの再建支援策について、貴党のお考えをお聞かせ下さい。

(5)「中小企業憲章」の国会決議、ならびに「中小企業担当大臣の設置」についてお考えをお聞かせ下さい。

当会では、中小企業が直面している様々な困難や矛盾を克服し、豊かな日本経済を実現するためにも「中小企業憲章」を現在の閣議決定に留めず、国民の総意である国会決議とすることが重要と考えています。また経済の大部分を占める中小企業を、政府の政策の中軸に据え、総合的に展開していくためにも中小企業担当大臣の設置が必要と考えます。この点について、貴党のお考えをお聞かせ下さい。

回答一覧PDF

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