活動報告

第54回定時総会 第3分科会(前編)4月28日

中小企業の仕事づくりが持続可能な地域をつくる
~エネルギー・シフトで地域再生~

大槻 眞一氏  龍谷大学エクステンションセンター(REC)顧問 阪南大学名誉教授
菊田 哲氏   岩手県中小企業家同友会事務局長

地域社会を再生させるエネルギーシフトの可能性を報告

地域社会を再生させるエネルギーシフトの可能性を報告

《阪南大学名誉教授  大槻 眞一氏》

自分たち自身で社会の方向を決める

世界各国の電源構成を見ると、発電量が一番多いのはアメリカで、続いて中国、EUと続きます。アメリカと中国は石炭を多く使って電力を得ているのに対し、EU、ドイツ、北欧などのヨーロッパでは再生可能エネルギーが多く使われています。日本は、原子力、天然ガス、石炭を多く使っており、再生可能エネルギーはわずか3%です。

私は、エネルギーの作り方や使い方を工夫すれば、地域の仕事と雇用を増やし、経済を発展させることができると考えます。そして、これを実現するためには、最適なエネルギー資源の組み合わせを考えるだけでなく、地域の経済を発展させるために仕事や雇用の確保、可処分所得を増やすという一連の関連も考えていくワイドな視点が必要です。エネルギー政策とは総合的な社会政策であり、私たち自身がどのような社会を目指すのかが問われているのです。

フライブルグの町とエネルギー政策

ドイツのフライブルグという人口22万人の都市は、エネルギー・シフトに特に力を入れており「環境首都」と呼ばれています。この都市のエネルギー政策は、省エネルギー(以下、省エネ)、コジェネレーション・システム(以下、コジェネ)の活用、再生可能エネルギーの活用の3本の柱からなっています。

第1の柱である省エネとして、熱効果の悪い1980年代以前の建物の断熱工事を市が行っています。外壁などに厚さ30センチの発泡スチロール製の断熱材を貼り付け、窓やドアは、三重のものに取り換えることで、38%のエネルギー消費を抑えることができます。また、こういった作業は建物ごとに作業が異なるので、大手建設会社ではなく、地元の中小企業の仕事づくりになっています。

「省エネ」「コジェネ」「再生可能エネルギー」

第2の柱はコジェネです。地域で取れる木材チップを火力発電所で燃焼させ発電するとともに、廃熱で温めた温水を地域暖房として街に分配しています。このコジェネの熱効率は、最新の火力発電所が42%なのに対し、80%を超えています。フライブルグにはこうしたコジェネの発電所が数多く造られています。

第3の柱は再生可能エネルギーの利用です。ドイツは、2050年までに再生エネルギーを全エネルギーの60%、発電のためのエネルギーでは80%にする計画を発表しました。また、福島の原発事故が起きた直後、17基の原発のうち8基をただちにストップさせました。残りの原発は2022年までに全て廃炉にし、新設は認めないことを決め、かわりに再生可能エネルギーの利用を進めています。

大槻 眞一氏

大槻 眞一氏

エネルギー転換で仕事と雇用を生む

エネルギーを作り出すだけでなく、地域の企業や雇用を増やす取り組みも進められています。BIZZと呼ばれる地元中小企業が共同出資して造った建材やインテリアの展示場は、住宅設計・建材・内装・庭造りなど、建築に必要な相談から契約までできる施設です。このように、大手ハウスメーカーやゼネコンよりも、地元中小企業の仕事を増やす取り組みがなされているのです。

市が建築し、手工業組合が運営している再生エネルギー関連の技術者養成学校もあります。また、ドイツにはギルド制があるため、専門学校を卒業後、親方のもとで働き、一人前として認めてもらわないと開業はできません。こうした仕組みのもと、地域に再生エネルギーを担う技術者を輩出し、大手に頼まずとも地域内で必要を満たすことで、お金を循環させています。

EUの挑戦から学ぶ

再生エネルギーを単にエネルギー問題の範疇で捉えるのは誤りです。地域の中小企業の仕事づくり、あるいは市民がエネルギーに費やすお金を減らすことで、可処分所得が増加し、お金が地域内を循環するという地域経済そのものの発展の視点が大切です。こうした取り組みを、ドイツでは「エネルギー・ヴェンデ」、英語では「エネルギー・シフト」と呼んでいます。

EUでは温室効果ガスを2050年に80~90%削減することを目標に掲げています。EU経済が混迷するなかでのエネルギー・シフトへの挑戦は、決して楽な道ではないはずです。しかし、私たちは、多くの課題と格闘しながら社会変革に挑戦するEUの勇気から学ばなければなりません。

《お知らせ》
岩手県中小企業家同友会事務局長の菊田哲氏の報告内容は次号(465号)でご紹介します。

【文責 事務局・三宅】